死んだはずの君
ベッドで目が覚めた時は、また夜明け前だった。
早寝早起きにもほどがある。
今日はイヴが起きる前に、またトラブル起こすようなことをしたくないし、夜が明けるまで大人しくゴロゴロしていよう。
細い枝を組んだ天井を見ながら、今までにあったことを反芻してみた。
結構色々あったよな。
イヴ以外の人(?)とも初めて交流出来たし。
魔法について少し分かってきたのも楽しい。魔法の法則みたいなものもある程度理解出来た。
地球では、ペン一つ、コイン一枚動かせただけで奇跡だったはず。
そんな段階すっ飛ばして、ガチの魔法世界だもんな。
充分に発達した科学は、魔法と区別がつかないっていうが、それ考えると科学より可能な事が多い、魔法がある世界で、文明があまり発展してないように見えるのも、なんだか変だな。
……発展してないのか?本当に?
俺はまだこの森しか知らない。
イヴはこの世界の住人だが、こんな森の中でずっと暮らしてるみたいだし、文明とは無縁そうだしな。
今までも、あまりガルナについて有力な情報を引き出せてない。
ふとベッドサイドに置いてあったランタンを見てみた。
木のフレームで出来てるように見える。火と違って燃え広がらないし風で消えることもないからフレームだけでいいんだろう。
火があるべき中央部分には楕円形の石が嵌ってる。多分魔法で作った発光する石か何かじゃないかと予想してみる。
あとでイヴに聞いてみよう。
シルエットこそ地球のランタンに似てるが、性能は違う。
全く違う文明において、道具が似たような形になるのも不思議なもんだ。
人間が使いやすいサイズと形っていうのは、ある程度決まってんだろうな。
二人での生活も割と楽しいけど、そのうち人類が群れてる場所に行ってみたい。
そういえば、魔力制御装具ってどんなんだろう。まじで拘束衣みたいなのだったら、幼児緊縛プレイになっちゃう。
俺の魔力は、イヴいわく強いらしいし、また暴発しないように彼女が作ってくれるなら、きっといいものだ。
魔法に関しては、まだまだ謎が多いが、少しずつ前進していると思う。
あとは、ほったらかしてあった言語翻訳魔法。
これなぁ。どうしようかなぁ。
人間が動物以上に進化した最大の理由は言語だって、なんかの本で読んだから下手な事したくないんだよね。
コミュニケーション大事。
イヴはこの魔法について、あまりよく知らないようだったし、この魔法に詳しい人に聞いてから決めたい。
人間以外の種族がいるらしいし、彼らなら知ってそうだ。それまで放置でいいか。
そもそもシャラハ様も俺の喋り方突っ込んでこなかったし、そこまで気にしなくていいのかもしれない。
異世界だし、前世ではちょっと想像出来ないような行動とか現象とか、きっと沢山あるだろうし。
常時腹話術状態の幼児がいても、別に大したことないかもしれないし。
それにしても次に女神に会うことがあったら文句の一つくらい言おう。
そもそも色々説明が足りてなかったと思うよ。
とりとめもなく考え事をしていたら、少し空が白んできた。
揺れる森の木々が見える。彼らが生きていることを実感して、改めてひどいことをしてしまったと思う。
この森に住んでると、あんな炎のような攻撃的な魔法は必要ない気がしてくる。そもそもそんなものが必要な状況ってどんな時だ?
魔法を使って攻撃してくる敵に会った時か?
それに負けないように、自分も強い魔法を使えるようにしておくべきなんだろうか。
強力な武器に対する防衛手段として、同格以上の武器を準備しておく……。
世界が変わっても同じだな。
突然、足にひやりとした感触があった。
「ぴゃっ!」
変な声出たけど、5歳児だからセーフ。
なに!もしかしておもらし!?いやしてないはず!してないよ!
おそるおそる毛布代わりの上掛けシーツをめくって足元を覗き込む。
なんか、いる。
「……」
言葉もなく息を飲む。
もぞりと動いて、こちらへ這い寄ってくるそれは、金色の幼女。
幼女に夜這いされるなんて、この世界なんでもありだな、なんて茶化してる場合じゃない!なんで突然幼女が…。
そこで気づいた。
この世界に来た時、イヴと出会う直前に見た、あの子だ。
俺の横で、獣に腸を食われていた小さな女の子。
一気にあの瞬間がフラッシュバックする。湿った咀嚼音、獣の牙がカチカチと鳴る音。血と泥の匂いと草いきれ。
なんで?遺体は埋めたはず。
なんでここに?突然の現状に体が硬直して動かない。思考もまともに働かない。
幼女のその目は俺をしっかり捉えてる。
衣擦れの音をさせながら、更に俺に這い寄ってきている。
そのあどけない、けれど血の気のない真っ白な小さな手が俺の足に触れた。
ぞっとするほど冷たい。
「な…なんで…」
「な、なんで」
俺が思わずつぶやいた言葉を、そのまま復唱された。
「君は死んだはずじゃ…」
「きみはしんだはずじゃ」
また繰り返される。
意味が分からない。幼女はさらににじり寄って来ている。すでに俺の足首はがっちりと掴まれていた。
逃げられないなら、俺が出来ることはただ一つ。
「イヴ──────‼‼‼」
俺はあらん限りの声で、イヴに助けを求めた。
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