第2話 高等遊民かく語りきれない

 私は高尚こうしょうな高等遊民である。

 若くして日本の未来をうれい世を背き、現代社会のことわりから外れ、日々をのんびり優雅に過ごしている。

 有り体に言うとニート、無職というやつである。


 しかし読者諸賢、侮るなかれ。

 「ニート」と言ういかにもダメダメ人間を表すような単語に惑わされてはならない。

 「ニート」というのはただの名詞であり、あくまで社会的立場を表す記号に過ぎない。「ニート」と聞くだけで顔を歪め怪訝けげんな眼差しを向ける貴君らには当方、心底傷付けられた次第である。まったく、ガラス細工のように繊細かつ、調理前のはんぺんのように真っ白ふわふわな私の心が再起不能に陥ったらどう責任を取るつもりか。


──藤崎愚淋ふじさきぐりんの損失、それは社会的有為の人材の欠損を意味し、ひいては日本の滅亡に繋がるということですぞ。世間はもっと私に優しくなるべきである。


 そんな尊くも屈折した自尊心をかがげていると、不意にこの世のすべてがむつかしい宿題のように感じる時がある。学校へ通うことも、アルバイトをすることも、就職活動も、免許取得も、資格勉強も。私は特に書類系のごたごたが大の苦手であるから、それらは後回しにしがちだ。たいそうな言葉を並べて、事務的な文字を書くのがだんだんと苦痛になってくるのだ。


 時折、この真面目腐った文章の最中さなかに、これまた真面目腐った堅苦しい文字で「おちんちんびろーん」や「おっぱいぼいーん」などと書きたくなる。そんな経験、きっと諸君らにもあるだろう。

 私はこれを「突発性下ネタ症候群」と呼んでいる。いかにも真剣な場面で突如として低レベルな下ネタを放り込みたくなる現象のことだ。魔が差す、とはよく言うがこれもその類なのだろう。魔というよりはシモだが。


 重要なのは、今私がとある真面目な書類をぶん投げてこれを書いているということだ。

 おちんちんびろーん。

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