第九話 奮戰の先に
― 同日 深夜 首都防空隊基地 滑走路―
「傾注!」
「事前会議で伝達した通り、本日、大規模な空襲が実施されることがとある筋から確認された。
これ以上、皇国の空を奴らにのさばらせるわけにはいかん。
今回、陸軍航空隊、海軍航空隊共同で皇国の迎撃戦力、その全力を挙げて迎撃することとなった。
その敵の総数は五〇〇を超えると予想される。そのまま敵を通すことになれば、いくら皇国であろうと少なくない痛手を負うことになるだろう。
皇国の存亡、この一戰にかかっている。各員一層の奮励努力に期待する。解散!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
「全機出撃!」
「回せ~~~」
零戦五二型を始め
その編隊の中にはあの加藤隼隊を始めとした最精鋭の飛行隊が含まれています。
その総数は一〇〇機以上、敵の五分の一の数しかいませんが、その錬度はケタ違いです。きっと多くの敵機を落とすことができるでしょう。
「よし、行きますよ!」
『『『応ッ!』』』
こうして、我々十三小隊は夜月輝く皇国の空へと舞い上がった。
― 同 深夜 帝都 東京 某所 ―
「~~~~~!!!!!」
今日の目覚ましは朝から鳴く鳥達でも、家の周りを駆けまわる子供たちの歓声でもなく空襲警報。
時間は真夜中、最悪の起床です。
だが、うだうだしている暇はありません。サッサと荷物をまとめて逃げなければ。
「……母ちゃん。怖いよ……はやくにげようよ。」
「そうね。サッサと逃げましょう。お空は父ちゃんが守っているから今日もきっと、無事に逃げられるわ。だから、心配しないで、男の子が泣くなんて、情けないわよ。」
「うん…わかった。」
「よし、いい子ね。さあ、防空帽かぶって。」
「はーい。」
我が子に防空帽をかぶせる。もちろん爆弾が直撃でもしたら意味はないけど、ないよりかましね。
「さっ、逃げましょ。」
「うん。」
我が子を背負い、ドアを開けると、道は、逃げる人でいっぱい。踏まれないように、急いで走る。
「あ、清ちゃん。」
その中で、お隣の幸ちゃんが話しかけてくれた。もちろん、逃げながらなんだけど。こういうときの助け合いは大事、でも、いつもお世話になってばかりね。
幸ちゃんは、いつもにこにこ笑ってる。夫さんを最近なくしたとは思えないぐらい元気な人。
私には、きっとまねできないわね。
「あら、幸ちゃん。どうしたの?」
「今日は北側が爆撃されたみたいなの。その上北から風が吹いてる。いつもの通り、アメ公が焼夷弾を使ってくるならここら辺も危ないわ。だからみんな、火に巻かれないように、海の方に逃げてるみたい。」
「わかった。幸ちゃんありがと。気をつけて。」
「もちろんよ。今日も生き残って、うまいごはんを食べさせてあげなくちゃ。それじゃあ、また。」
「うん。元気で。」
その元気な脚力を生かしてさっさと行ってしまった。幸ちゃんと別れてちょっと心寂しいけど、そうも言ってられないね。
夜中だってのに、空は赤く染まって、ところどころ漆黒のまだら模様になっている。燃えた町が空に反射しているみたい。それに、燃えて出た煙も、まったく恐ろしい限りね
時々、空から燃え盛る塊が落ちてくるけど、大半は味方機、あの中にあの人がいないことを祈ることしか、私にはできない。
そんなことを考えながら走っていたその時だった。とてつもなく大きな塊が、燃え盛りながら落ちてきた。敵の爆撃機だ。それ自体は喜ばしいことだろう。
問題は
それが、私たちの進路上に落ちたことだった。
しかも間が悪いことに、風が東から吹き始めた。
下手すると火に囲まれ、最終的にこの子もろとも炎に巻かれることになってしまう……
それだけは、なんとしてでも避けないと……
西に逃げても火に追いつかれる可能性が高いわね。南西に逃げて火に巻かれないように祈るしかないわね。
その日、航空隊の奮闘虚しくすべての機体を落とすことはなわなかった。しかし、一七機以上を落とすという大戦果を挙げた。
しかしその陰で、多くの人々が走り
結果
ある者は生き延び
ある者は別れを嘆き
ある者は声を出すことすらかなわなくなった
ある者は親を探し、あてもなくさまよった
ある者は子を探し、あてもなくさまよった
ある者は人知れず、もがき苦しみ息絶えた
ある者は、ある者は………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます