第六話 切り替え
― 同 日本時間六日 七時一〇分 現地時間一〇時一〇分
第一航空艦隊上空 Side南雲 ―
あれからしばらくして、何度かアメ公からの攻撃があったが、大半が鈍重な重爆のみで編成されてたってのと、護衛機がももののかずじゃなかったから、今のところ被害は皆無だ。
敵の攻撃の合間空から加賀の甲板見た感じじゃアメ公の基地に第二次攻撃をやろうとしてたみてぇだ、それで、第二次攻撃隊の対艦用の武装を陸用の武装に換装
だが、その後敵機動部隊を発見したみてえで、陸用の爆装から対艦用の魚雷と爆弾にもう一度換装を始めた
もたもたしてるもんだから第一次攻撃隊が帰投しちまって、いつにもまして母艦はてんやわんやだ。
攻撃機が来ているということはこちらの位置は知れているというのに、全く上は何考えてんだか、こんな時に攻撃されたら母艦は火の海だ。
まったく、そうなったら、アメ公が喜ぶだけだぞ。
うん?……
「右下方、敵艦攻隊発見!数は一五」
『でかした南雲。各機、攻撃用意。太陽を盾にして奇襲する。』
『『「はっ!」』』
機体をひねり、太陽を背にして敵機へ向かって急降下する。愛機はびりびりと震え、銃口は敵機へ向かって伸びてる。敵はまだ気づいていないのか撃ってこねえ。
引き金を引かれると。
火薬の破裂音と共に曳光弾がきれいな線を引き
敵機へ向かって吸い込まれる
敵機のコックピットは赤く染まり
エンジンからは黒煙を吐いて、きりもみしながら落ちていく。
反転し、再度攻撃しようとすると、やっと気づいたのか敵の後部銃座から破裂音が響く。
だが、結果は変わらねえ。手間が一つ増えるだけだ
のびてくる死線を避け、標準を合わせ、引き金を引く。
そうすっとよほど固くない限り黒煙を上げ
時には燃えてバラバラになりながら落ちていく。
敵の護衛は味方が処理しているから余計に周りを警戒する必要もなし。
敵は思い爆弾や魚雷なんかを抱えてるから鈍重で回避できるわけもなし
簡単な任務で欠伸が出る
あ~あ、グラマンの相手でもしてぇなあ……
……うん?
一機の艦攻が艦隊の中、それもかなり奥に潜入していた。
鈴木が先に気付いたのか急降下して、敵へ向かって突っ込む。
敵は対空砲か何かで被弾しており煙を吐いていたが、一切怯むことなく、艦隊旗艦赤城に向かって突っ込んでいった。
突っ込んできた鈴木に驚いたのか魚雷を早々に投下した。
余裕で回避できそうだな。
むしろ、あれで当たるやつがいるならそいつはアホだな。
少なくとも空母の操舵士にはなれねえ。
これで一安心
そう思ったその時だった。
敵が、離脱しねえ、赤城に突っ込んで行っていやがる
しかも、指令たちのいる艦橋に向かって
こいつはもたもた見物しちゃいられねえ!
鈴木は……ギリ、間に合うか?
どんどん速度を増しながら敵機に突っ込んでいるが……どうだ。
あと少しでぶつかる。
そう思ったその時……
戦場に破裂音が響き
その死線はそれることなく敵機へ吸い込まれた
バランスを崩したのか
錐揉みしながら艦橋のギリギリ通って
海面へ突っ込んだ。
ふう、全く。ひやひやしたぜ。
あたりを見まわす。
どうやら、今のが最後だったようだな。
『皆、お疲れ。今回も、こちら側の被害はない。よくやった。各機、警戒しつつもしばし、休憩してくれ』
『『「はっ!」』』
その時だった。
『……て、敵機直上急降下!!!』
ッ!
上を見上げるとそこには
奴等だ。
敵の艦爆だ!
上空に味方の零戦は!
いない。
直掩は俺らの機を含め全機低空へ降りていた。
皆、雷撃隊とその護衛に夢中だったのだ。
今から上昇しても間に合わない。
どうする!
ああ、クソ!
加賀の真上にいる爆撃機がその腹に抱えた黒い塊を投下する。
懸命に上る間もなく
黒い地獄への片道切符、爆弾が
整備員が作業し、搭乗員たちが待つ甲板へ
水兵たちが勝利の報告を今や今やと待つ艦内へ
指令たちがいる艦橋に
我々を待つ母艦『加賀』に
落ちていく
墜ちていく
堕ちていく……
何もできねえ
止められねえ
一瞬を一生のごとく感じた
客観的に見ればほんの一瞬の出来事でしかない。
だがやはり、一生、いや、無限に感じたその夢にも思えたその時間にも現実という一瞬がやってくる。
立て続けに三度の爆音が響き、機体も大きく揺さぶられた。
目を開けたそこにあったのは……
地獄だった。
甲板は燃え盛り
その上様々な破片が飛び散り
整備員や搭乗員たちの
服を
身を
内臓を
引き裂いた。
甲板は血と炎で赤黒く染まり
艦内からも炎が噴き出し、ほとんど逃げ場はねえ
火や煙に撒かれ、
気づいた時にはもう火葬されている。
艦橋は跡形もなく吹き飛び生きているものはいないだろう……
クソ!
加賀が、
海の上の故郷が
今や、断末魔を上げてその身を海へ没しようとしてる!
その時、また、爆音が三度鳴り響いた。
音のする方を見ると
蒼龍が燃えていた。
まさに今、発艦しようとしていたんだろう。
艦攻が一機後ろから吹き飛ばされたような位置で沈みかけてた。
あと数秒離陸するのが早かったらあの機は助かっていただろう。
あと数分早ければ加賀、蒼龍双方の機はほぼ全機が発艦しており、少なくとも搭乗員は全員助かっただろう。
あと数時間早ければ、あの時そのまま飛び立っていれば、そもそもあいつらの母艦を先に攻撃しに奴等はここまでこられなかった。
……まただ。また聞こえたあの音が。
計六度聞こえた爆音、今回も合わせれば八度目だ。
今度は赤城が燃えている。たった二回の爆発であれだけ轟轟燃えている。
いろんなものが誘爆する音があちこちから聞こえる。
第一航空艦隊旗艦赤城が燃えている。
あれだけ笑った戦友たちが、笑いあった、同じ釜の飯を食った野郎どもが燃え盛り、嘆き苦しみ、断末魔を上げて死んでいく
俺は、見ていることしかできない。
あれ?なんでだろうな。視界がゆがんじまう。
情けねえ
強くなったつもりだったが、何も守れちゃいねえ
『……雲、南雲!応答しろ!』
はっ!
何をぼけっとしてんだ。ここは戦場だぞ。
「すまねえ、あまりに衝撃的だったからな。」
『ああ、確かにな。まあ、お前のことだから大丈夫だろうが、一応言っておく、気持ちを切り替えろ、命令が出た。』
「了解、で、その命令ってのは……?」
『
『とのことだ。我々も飛龍に着艦、補給したのちに護衛機隊として反撃に加わる。予定は今のところ以上だ。ああそれと、鈴木一飛、舞い上がって、先に黄泉の国へ行ったりしないように注意して。先の南雲ように周りが見えなくなってはどうしようもないからね。』
『『「はっ!」』』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます