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その後、ウァラク衛兵隊在籍証書と衛兵隊徽章をいただき、五日後に王都を発ちウァラクへ向かう事務官さん達と一緒に行くことになりました。
事務官は半年に一度交代となり、新しい方々がいらしたらご領地に戻るのだそうです。
どうやら、わたくしが見本として刺繍をしたのは、その新しくこちらにいらっしゃる方のものだったようでした。
「でしたら、もうお二方分も先に作りましょう。そうしたら、王都で一番格好いい制服を着ていただけますし」
あら?
三人の事務官さん達が、ちょっと……
「ずるい……」
「そうだよ、たまたまこの時期にここに来るってだけで、君の刺繍の制服が最初に着られるなんてさ」
「寧ろ、そいつら一番最後じゃね?」
まあ……
そんなに気に入ってくださったのですかー!
じゃあー、皆様の背刺繍もお作りいたしましょう!
わたくしの提案にいいのか? と聞きつつとても嬉しそうですので、請け負ってしまいました。
でも先に刺したものより、絶対に後からの方ができがいいと思うのですけれど、その辺は黙っておきましょう。
うふふー、練習させていただきますよっ!
あ、でもちゃんとできあがりの品質は保証いたしますから、ご安心くださいませ!
バーラムト工房の信用を落とすような真似は致しませんっ!
一刻半ほどで三人分の刺繍が終わり、次に来る方々の分はお預けくださるというので持ち帰ります。
五件隣の建物である中央役所に行って、衛兵隊在籍の登録を致しました。
そして、在籍地の変更も。
王都の役所では、全ての領地の町への在籍変更ができます。
ただ、直轄地であるシュリィイーレだけは、例外ですが。
採用された一年時は、もっとも南側の町ベスレテア勤務になるのだそうです。
この町、素晴らしいことにエルディエラ領との越領門がある町なのです。
そして最も近いエルディエラの町が、レーデルスなのですよ!
お休みの日に朝一番で越領して馬車で一刻半も走れば、シュリィイーレに入れるのです!
あのお菓子も保存食も、買い足すことができるのですーーー!
これでお料理が壊滅的にできなくても、食事に困ることがありませんっ!
そして、在籍地をここに登録しておけば、三年目以降ウァラク領内のどこに勤務地が変わっても、
素晴らしいです……!
手続きが終了し、身分証を確認すると職業が『風弓術師』に変わっていました。
シュリィイーレで、訓練の時に風の魔法をかなり多く使ったからかもしれません。
そして『ウァラク衛兵隊 一年次/第四位衛士』と、書かれていました。
……嬉しくて、何度も見つめてはニヤニヤしてしまいます。
バーラムトさんの家に戻り背刺繍のことを報告しようと致しましたら、既にウァラクの事務官さんがハウルエクセム卿直筆の依頼書を持っていらしていたようです。
その時にいらした方はあの背の高い事務官さんで、わたくしが刺繍した制服をお召しだったとか。
セリアナさんが大興奮でした。
「すごいっ! 凄いわっ、ヒメリア! あの制服はただでさえ格好良かったけれど、更に素敵になったわ!」
「ちょーーーっと大変になっちゃったけど、追加報酬が破格だったわ……! 流石、ハウルエクセム卿ね」
あ、そうですよね。
袖刺繍より、面積が大きい刺繍ですもの。
大変な手間ですね。
「素敵な刺繍だったわよ、ヒメリアちゃん! ……あの制服、着るのね?」
「はい……五日後に、ウァラクへ向かいます」
ふっ、と、皆さんが沈黙いたします。
王都からウァラクのベスレテアへは、馬車方陣を使っても一日半かかってしまいます。
気軽な距離……とは、言い難いのです。
「……でも、三年以上経ったら、王都の代行役所勤務になるかもしれないわ」
「そうよね! どうしても会いたくなったら、会いに行くことだってできないわけじゃないわ」
セリアナさんとルリエールさんの言葉に、そうですよね、と答えて笑顔を作る。
ティアルナさんに抱き寄せられて、ちょっとだけ寂しくなりましたけれどまた『帰って』こられる。
「そうだ、ヒメちゃん! ウァラクの制服を着て見せておくれ!」
「そうよ! 絶対に似合うわ」
そう言われて差し出された制服には……背刺繍が入っていました。
「こ、これ……先ほど依頼があったばかりだったのでは……?」
「そうよ。でも、みんなで決めていたのよ。ウァラクの制服で一番最初に完成させるのは、ヒメリアの制服だって」
やだ。
涙が、出て来てしまいました……
わたくしのために、わたくしだけのために作られた『服』です。
大きさも丈も、全部わたくしに合わせて。
皆さんの手で仕上げてくださった……この皇国で最高の制服に違いありません。
「ちゃんとウァラクの方に、ヒメリアの分の制服はこっちで渡すからって言ってあるから、大丈夫よ!」
「そうよ。これからも、ヒメリアの分は全部あたし達で作るから! いいわね?」
「はい……! 嬉しいですっ」
「だから、必ず一年に一度は採寸に帰って来なさい」
わたくしがここに来やすい理由を作ってくださっているのだわ。
遠慮したり、変な気を遣ったりしないように。
「ええ、必ず……帰ってきます」
この時の皆さんの笑顔は、絶対に忘れません。
わたくしの大切な大切な宝物になりました。
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