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 合格のお祝いは、工房にお勤めの皆さんとも一緒に大宴会となりました。

 もちろん、わたくしは買ってきたお菓子を……全部ではありませんが、沢山あるものを振る舞いました。

 当然、大人気でした。

 ふっふっふっ、当たり前ですねっ!

 なにせ、セラフィエムスの迅雷の英傑とその妹君推薦のお菓子なのですからっ!


「す、すごいわっ! こんな焼き菓子、王都にはないわっ!」

「セラフィエムス卿のお気に入りなら、きっとシュリィイーレとセラフィラントにしかないのよ!」

「材料が書いてあるけど……これ、王都じゃ売っていないものばかりだねぇ」

「だって、産地が殆どセラフィラントだし……カカオはやっぱり、カタエレリエラなのね」

「……珈琲……? あ、ルシェルスで農園を作っている、あれねっ?」

「この勾漆まがうるしって、頭痛薬よね?」

「きび砂糖はルシェルスのものね。確か、疲労回復の薬の材料にするっていう医師がいたわよね」


 ……皆さん、もの凄くいろいろご存知ですね。

 食品栄養学が、実践として学べていらっしゃるに違いないです。

 そういえば、基礎の基礎って仰有っていましたものねー。

『普通の生活』でも、既に役に立っていることなのですね。



「それで? ヒメちゃんはどこの衛兵隊に行きたいか、決まったのかい?」

 バーラムトさんにそう聞かれて、即答ができませんでした。

 在籍地はカタエレリエラなのですが、あそこにはまったく愛情が持てなくなってしまっています。


「在籍地変更って、できるのでしょうか?」

「できるけど、その領地で仕事を得ているか、五年以上暮らしていないと……」

「でも、衛兵隊に入れば、簡単に転籍できるわよ」


 それじゃ、やっぱり先ずはどこの衛兵隊試験を受けるか……ですね。


「ヒメリアちゃん、迷ったら一番最初に戻る……っていうのも大切よ?」

 え?


 そう仰有ったティアルナさんに手を引かれ、刺繍工房の仕事場に連れて行かれました。

 一体何が……?


 あああーーーーっ!


「これ……全部のご領地の……?」


 ずらりと並べられた、衛兵隊の制服。

 すべて目の高さに吊り下げられていて、前からも後ろからも全身が見えるようになっています。

 これ……大変だったのでは……


「こうやって改めて見ると壮観ねぇー」

「うちだけだからね、こんなことできるの!」

 セリアナさんとルリエールさんの仰有る通りです。

 こんな風に全ての制服が並ぶことなんて、ありませんもの!

 基本的な形はあまり違いませんが、各ご領地で微妙に変えていらっしゃるのがよく解ります。


「ヒメリアちゃんが、一番好きな制服のご領地を受ければいいよ。それが、受験したかった一番初めの理由でしょう?」


 そうです。

 その通りです。

 いろいろな領地のいろいろな知識を得ても、結局は毎日着る制服が好きになれなきゃ!


 わたくしは、ずらりと勢揃いした制服達を眺めていきます。

 あ、ロンデェエスト。

 緋色って綺麗ですねーー。

 リバレーラは、やっぱり好きです。

 でも、銀釦より、金釦が素敵かもー……セラフィラントは、なんて格好いいんでしょう!

 だけど、入れるとしても陸衛隊ですから、男性とほとんど同じ形なのですよねー。

 凛々しいのも素敵ですが、できれば女性用はもう少し可愛らしさも欲しいです。


「女性の制服は、やっぱりシュリィイーレが一番素敵ですけど……」


 ふと、目に飛び込んできた『黒』の制服。

 金釦に金の刺繍。

 袖の返しも黒で、襟と肩章が金糸……!

 女性の制服はシュリィイーレのものと似ていますが、こちらの方が上着が長めで……めっちゃくちゃ格好いいです!


 わたくしがその制服に釘付けになっていると、くすくすと笑い声が聞こえてきました。

「やっぱりねー」

「ヒメリアは、それ、好きだと思ったのよねー」

 皆さんが口々にそう仰有います。

「ウァラクの新しい制服よ」


 あ、そういえば、秋口にはまだできあがっていなくて見られなかった制服が『黒』でした!

「これ……とても素敵です」

 金赤の糸で刺された刺繍は刺草がまるで炎のようになって……広げられた鳥の翼のように象られています。

 簡潔な形ですのに、迸るような力強さと温かみさえ感じます。

 この金赤……わたくしの大好きな糸と似ていますけど、もっと輝きが強いです。

 きっと、あのタセリームさんが『新しく仕入れる』と仰有っていた糸に違いありません。


「『不死鳥』という、炎の中で生まれ変わる鳥なのですって」

「不滅とか再生の象徴だって。第一位階級輔祭書師様のお作りになったっていうウァラクの新しい『印』なのよ」

「セラフィラントと同じで『ウァラク』の文字が入るのも素敵なのよねー」


 炎に中で生まれ変わる鳥。

 わたくしの加護神、聖神三位も炎の女神ですわ。


「……決めました……ウァラクで衛兵試験を受けます!」


 わたくしがそう宣言すると、皆様から『だと思ったわー』と笑い声がおきました。

『初志貫徹』と仰有ったのは、皆様ですよ?


 試着してご覧と言われ、羽織ってみましたけれど男性ものでしたからぶかぶかです。

「ヒメリア、ちょっと計らせて」

「はいはい、動かないでねー」


 え?

 え?

 セリアナさんの【計測魔法】が使われて、わたくしの身体の寸法が露わに!


「ヒメリア、もっとたくさん食べなくちゃ。ウァラクみたいに寒いところにいったら、もう少しお肉を付けないと寒くて凍えちゃうわよ?」

「そうよぉー。寒さは大敵!」


 そういえば、シュリィイーレに行く前に買った熱魔法の魔道具と魔石は、全然使いませんでした。

 厚手の靴下も……

 ウァラクでも、要らないんじゃないかしら?

 衛兵隊の制服って、魔法付与されていますものね。


「……何、言ってるの。休みの日だってあるでしょ?」


 ルリエールさんに呆れ顔をされてしまいました。

 確かにそうでした……

 うっかりが多すぎますね、わたくし。

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