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昼食後は、訓練場に集合です。
剣、槍、弓、体術、仗術などの指導を受けます。
わたくしは弓なので……当然、デェイレスさんと十五番さんが一緒です。
あんなことを言ってしまった後なので、ちょっと気まずいですね……
他にも推薦組からふたり、男性が一緒です。
弓ってどちらかというと女性向きなのかと思ったのですが、そうではないのでしょうか?
「ヒメリアさん、アルドナムと申します。宜しく」
「僕は、フォージェスです」
おふたりは丁寧に自己紹介してくださいました。
この中で名前を伺っていないのは、十五番さんだけです。
「お待たせー。お、今年は五人かぁ。まぁ多い方かな?」
「「「「「よろしくお願いいたします!」」」」」
「うん、よろしくー」
とても砕けた感じの指導教官です。
ちょっとお腹の出た方ですね……珍しいですね、衛兵隊では。
「じゃ、始めようか。えーと、魔法使って放った矢を操りながら的に当ててねー」
は?
「こらこら、何をへんてこな顔しているんだい? 森や林で弓を使う時に、障害物があるなんて当たり前だろう?」
確かにそうですが……
「真っ直ぐ射るだけなら、無位臣民の猟師にだってできる。騎士となるならば決して目標以外に当てぬように確実に矢を射掛け、命中させなくちゃ先制攻撃の意味がないだろう?」
笑顔が……怖いです。
「さ、がんばろうねー!」
「うーん、初日だし、こんなものかなー」
頑張りました……わたくし達、ものすごーーく頑張ったと思いますっ!
「き、教官、お願いしても宜しいでしょうかっ!」
「んー? なんだろう?」
「是非とも、我々に『到達すべき目標』をお示しいただけませんでしょうか!」
十五番さん、果敢です。
教官は少しお考えになったようですが笑顔で、いいよー、と軽ーく頷かれ弓を手になさいました。
え?
なんで三本も矢を番えていらっしゃるのかしら?
ひゅんっ、ひゅんっ、ひゅゅぅぅんっ!
たたたんっ!
三本の矢が全く違う方向に射られ……全く同じ的の中央に……同時に命中いたしました。
「このくらいの距離なら、ひと月後くらいには……そうだなぁ、二本はこんな感じで当てられるようになって欲しいかなー」
同時に射た矢を速度も衰えさせず、違う方向から、同じ的の同じ場所に深々と……ですか?
わたくしだけかと思いましたが、全員が呆然としております。
「副長官、長官がお呼びですので、ここは私が引き継ぎます」
「あ、そう? じゃ、頼むねシュレイス」
ふ。
ふくちょうかん……?
ということは、この国最強の衛兵隊の……二番手ということですよね?
その方の試技に追い付けだなんて、無茶ではありませんのーーーーっ?
ああ、皆さん、涙目でいらっしゃいますねぇ。
わたくし達、本当に合格なんてできるのでしょうか……
一日目の訓練が終わり、宿舎の部屋に戻るために廊下を歩く皆さんの姿が一様に疲れ果てています。
わたくし達、弓術組だけでなく他の方々も厳しかったのですね。
ブツブツと皆さんの呟きが、そこかしこで聞こえます。
「あり得ないわ……どうしてあの態勢で、剣を振るえるの……?」
「槍が……槍が歪んで見えた……うねりながら進む槍なんて……あるのか?」
「見えなかったんだよっ! 絶対にあの腕は、見えないところから出て来たんだよ!」
弓だけでなく、全ての武器や体術を魔法と組み合わせて使っていらっしゃるのだわ。
わたくしも何度か【旋風魔法】で弓を使うことはありましたけれど、速度を上げる程度でした。
『弓術技能』と【旋風魔法】を合わせて使った訳ではありませんでしたわ。
同時に使い、操る。
きっと、魔法で戦うとはこういうことなのですね。
ただ強い魔法を相手に浴びせるのではなくて、技術と技能そして武器とを魔法でまとめあげて使う……
考え込みながら廊下を歩いていましたら、シェレナータさんに声を掛けられました。
シェレナータさんは剣技のようですが、かなりきつかったご様子です。
「私、魔法をあんな風に使うなんて考えてもいなくて……魔力量が低いせいか、すぐに動けなくなってしまうのです」
あらあら、しょぼんとしてしまったわ。
「そうですね……魔力は多く必要だと思います。わたくしも平均的な魔力しかございませんから、どうやったら伸ばせるか思案しているのです」
「昼前の講義で使えば伸びる……と仰有っていましたけれど、闇雲に魔法を使ったら訓練などに差し支えますものね」
講義で……そうでしたわ。
言ってました。
……いけませんね、もう半分くらい忘れています。
部屋に戻り、夕食時間までは自由に過ごせます。
講義内容を書き付けた綴り帳を開いてみましたが……正直、全然覚えていなかったことがいくつもありました。
これではいけません。
きっとこの講義内容からの試験も、あるはずですもの。
んー……もっと綺麗に書かないと読みづらいし……後から見返しても解りづらいですねぇ。
でも、聞きながら書くとどうしても焦ってしまいます。
そうだわ。
講義の時は綴り帳じゃなくてこっちの紙に書いて、この時間や夕食後に綴り帳に綺麗に書き直せばきっと読みやすいわ。
この千年筆の色墨はとても早く乾くから、この質があまり良くないバラ紙でも破れやすくなることはないはずよ。
あら……今、気付いたけれど、赤の色墨塊もあるわ!
二色で書けば、判りやすくできるかもしれないわね。
そういえば、バーラムトさんのお店で刺繍の図案を覚える時に、赤で印を付けられた説明書きがあったわ。
ルリエールさんに『赤で書いたところは大切なところだから、特に注意をしてね』って教わったのよ。
早速、今日の講義を書き直してみましょう。
絶対に覚えた方がいいところを、赤で印を付けたら忘れないかもしれないわ。
こういうこと、どなたかに教えていただけないのかしら……
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