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「王都より、本年の研修及び最終試験受験者二十名を連れて参りました」
試験官達が敬礼し、それに無言でシュリィイーレの衛兵隊員が応えます。
……つまり、シュリィイーレ衛兵隊の方が、試験官達より階位が上ということです。
「予定では二十二名と聞いていましたが?」
「はい、既にふたりの失格者を出しております。こちら、道中の試験詳細でございます」
「……なるほど。お疲れ様でした。本日は彼等と一緒の宿舎ですが、ゆっくりしていらしてください。シュリィイーレ隊にて、試験研修生達の引き継ぎを致します」
「「「はいっ!」」」
試験官達の最敬礼を見て、わたくし達はがっちがちに緊張してしまいました。
そのわたくし達に衛兵隊の方は微笑み、よく通る声で語りかけます。
「わたくしはシュリィイーレ隊教義責任者のオルフェリードです。引き続き、我が衛兵隊にて最終試験と研修を行います。ようこそ、シュリィイーレへ」
……あら?
『オルフェリード』なんて、家門……あったかしら?
でも、どう見ても試験官達より階位が上ということは、銀証……よね。
ということは……『聖魔法師』?
同じことを思った方々が何人がいらしたようで、生唾を飲み込む音まで聞こえました。
『聖魔法師』は、魔法師の中でも特別な方々です。
そして、従者家系では獲得できることが、非常に稀だと言われています。
きっと、シュリィイーレ隊が特別と言われているのは……聖魔法師が多いからなのかもしれない、と皆さんも考えたのです。
だとしたらわたくし達なんかよりはるかに上の階位ですから、少しでも対応を間違えてしまったら大変なことになってしまいます。
不合格とか、失格どころの騒ぎではございません。
場合によっては家門の閉鎖や入牢……などということすら、あり得るのです。
一歩踏み入れただけでこんなにも恐ろしさが倍増してしまうなんて、本当にとんでもない町ですわ、シュリィイーレ!
案内された試験研修生用宿舎は今まで見たどの宿より、不敬を承知で比べるとすればヴェーデリア公の館で借りた部屋よりずっと素晴らしい部屋です。
外の寒気が嘘のように安定した温かさ、それが室内だけでなく廊下や入口までも一定なのです。
そして、特に広いというわけではありませんが、二間続きの部屋がひとりひとりに与えられています。
居間とか勉強部屋としての場所と、寝室が分かれているのです。
そして浴室もあり、なんと、水ではなくて湯が出るのです!
信じられません……王都でだって、こんな行き届いた設備の部屋などありはしないでしょう。
……そうでした、騎士研修試験は貴族も皇族もお受けになるのですものね。
その方々がどの部屋を使用してもいいように、作られているのかもしれないわ。
うん、今年は人数が少ないし、皇族も貴族も受験なさっていないから、こんなに良い部屋を使わせていただけるのね。
まぁ、保冷庫や保管棚まで付いているわ!
この長椅子、なんて座り心地がいいのかしら……寝床も気持ちいいですわぁ……
はっ、駄目よ、着替えたらすぐに集合なのだから!
試験研修生用とはいえ、初めて衛兵隊の制服に袖を通すのはドキドキします。
ふふふ、素敵……やっぱり、衛兵隊の制服は格好いいですねっ!
オルフェリードさんが着ていらした濃紺に金のシュリィイーレ隊員制服は、想像以上に素敵でしたし。
確か女性は少し形が違うんですよね……バーラムトさんの所ではわたくしがいる時には、仕上がりが届いていなかったので見ていないのですよ。
楽しみですーーっ!
集合は『専用食堂』だそうです。
入ると少し広い空間があり、その奥に座席があります。
わたくし達は、広めに開けられていた出入り口近くの場所に集められました。
それにしても、なんて素晴らしい食堂でしょう!
大きな卓もあるけれど、割と広めにひとりひとりに区切られているわ。
これなら、隣の方とぶつかったりせず食事ができそうですね。
いろいろな植物も置いてあって、ゆったりと寛げそうな食堂です。
「全員揃っていますか?」
「はい」
オルフェリードさんと人数確認してくださった方が、わたくし達をひとりひとりよび、少し大きめの盆を渡してくださいました。
なんですか、これ?
「まず、配ったものに魔力を通してください。各自専用のこの盆に載せて、毎食の食事が配られます。食事は絶対にこの食堂でのみ、摂ること。町中では、一切の飲食を禁止致します」
ええええーっ!
そ、それは……お菓子も買えないということでしょうか?
「町中で口にしていいのは、各自に渡す水筒に入っている水のみです。ただし、菓子類や果物など、市場や店で購入したものを各自の部屋で食べるのは自由です」
はーーーー……安心しましたー。
町中の店に入れないのは残念ですが、好きな物を買って部屋に持ち込んでもいいのならば充分ですよね。
「ですが、食事することも『試験』のうちだということを忘れないでください。そしてこの食堂で出された食事は、絶対に全て食べきらなくてはいけません」
どよめきが起きました。
……食べきるなんて、当たり前のことですよね?
「これは『食育』と呼ばれる学問であり、試験です。そしてもし食べきれない、嫌いなものを残す……などという場合は、使用した食器類をこの厨房横まで自分で運んで下げてもらいます」
顔色が変わった方々が、何人もいらっしゃいます。
全員、推薦組ですね。
「当然、残した量や回数が多ければ減点対象です。ああ……採点については『減点法』です。与えられている元々の点数……本試験での獲得点数から、不出来な場合に減点がされ一定の得点を下回ったら、不合格となります。ただ……良い行い、素晴らしい成績などを獲得した場合には加点もありますので、余程馬鹿なことをしない限り強制退去にはなりませんよ」
……『ない』わけではないのですよね。
でも、食事に関してはわたくしは大丈夫そうです。
嫌いなものなんて、ありませんもの。
毒以外。
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