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持っていく物は【収納魔法】に入りますから取り敢えず全部なのですが、余分な物は売って足りない物を買わなくてはいけません。
着るもの……は、基本的にずっと制服なので下着くらいのものです。
でも洗って使えばいいので、そんなに沢山は必要ないでしょう。
たいていの生活用品は、宿舎にあるというお話でしたし……
まあ、どうしても欲しい物があったら、買えばいいのですし。
このひと月半ほどで、随分お金も貯まりましたからね。
「ヒメちゃん、あの町を甘く見ちゃ、駄目だよ」
のんびりとしていたわたくしに、バーラムトさんが真剣な顔つきで忠告してくださいました。
なんでも、シュリィイーレは冬になると殆どの店が閉店してしまい、市場も開かれなくなるのだそうです。
え?
それって生活できるのですか?
「あの町はね、雪がものすごーーーーーーく積もるんだよ。身動きできないくらいにね。だから、雪が降り始めたら、絶対に建物から出られないんだよ」
「そんなに……ですの?」
そもそも、わたくしは雪というものを見たことがございません。
ディルムトリエンには、全く降りませんでしたから。
ああ……カタエレリエラで、たかーーーーい山の上の方が白くなっていたのは、ちらっと見たことがありますが。
あれを『雪』と、言っていたような気がします。
なので、ちょっと楽しみだったりするのです。
建物から出られないとは、どういう状態なのか想像もつきません。
それって、訓練どころではなくなるということなのでしょうか?
そうなってしまったら、自室で待機? とか?
では……室内でできるものを何か……あ、刺繍をしていようかしら。
研修でも、勉強をしない時間もありますわよね?
閉じ込められたら何もできませんから、きっと時間を持て余してしまいますもの。
そうですね、刺繍糸と布地を持っていきましょう!
あのタセリームさんのお店、まだ王都にいらっしゃるかしら。
綺麗な色の糸を、何種類か買っておきましょう。
それと、寒い時にお湯に入るのは……ちょっとつらそうです。
湯を作りながらだと、身体が冷えてしまいそうですもの。
浄化の方陣札を買っておいた方が便利ですね。
うーん……他には思いつきませんわ。
「冬に必要なもの?」
取り敢えず、わたくしはルリエールさんに伺ってみることに致しました。
なんでも、バーラムトさんの旅支度を調えていらっしゃるのは、いつもルリエールさんらしいのです。
「わたくし、ずっと南の地方にばかりおりましたので、よく解らないのです……」
「なるほどっ! そうね……まずは、防寒着!」
「研修生用の制服しか、着られないと思うのです」
「あ、そっか。厚手の靴下くらいね……じゃあ、熱魔法の付与された魔道具と魔石!」
「熱……?」
「そうよー。部屋全体が温かくても、意外と手先とか足先が冷たくなって、かじかむのよ」
「かじかむ……? とは、どんな感じなのです?」
「うーん、痺れるっていうか……冷たくなると動きが悪くなるの。文字も書きにくいし、刺繍なんてつらくて堪らなくなるわ」
まぁ!
それは困りますね!
「足先だと冷たくなり過ぎて痛むこともあるし、眠れないこともあるのよ! 冬はそれが一番身体に悪いわ」
「わ、解りましたわ。魔道具に魔石……と」
「できれば、水魔法の方陣札も」
「え?」
水は宿舎で問題なく出るのでは?
「北の方では外を歩いているだけで、水が凍ってしまうのよ。いざという時に飲み水がないと、結構大変よっ!」
「凍る……?」
「水は寒すぎると塊になって、飲めなくなるの。口に入れれば溶けるけど、寒いのに冷たいものを口に入れたくないでしょう?」
氷……ですのね?
え?
歩いているだけで、氷になってしまうのですか?
夏だったら嬉しいですけど。
氷って、買うと結構高いのですよね。
なんて不思議なことが起こるのでしょう!
『冬』って、やっぱり楽しみですっ!
その他にもいくつか教えていただけました。
……お菓子は、絶対に必要なのですね?
あ、そうでした!
シュリィイーレはお菓子が美味しいと、セリアナさんも工房の皆さんも仰有っていましたね!
お菓子はシュリィイーレに着いてからも買えますけど、流石に種類はさほど多くはないはずですものね。
王都のものを持っていかないと飽きてしまうかも……ということなのですね。
「あと、胡椒を持って行きなさい」
「胡椒?」
「北の方では、あまり香辛料を使った料理が多くはないって、昔マントリエルから代行事務所に来ていた衛兵に、教えてもらったことがあるの。ヒメリアは、香辛料を利かせた食べものが好きでしょ?」
……確かにそうですが、料理を作る時でなくできあがってから調味料を使うなんて考えたこともありませんでした。
それで『自分の好みにする』なんて……
目から鱗が落ちる、とはこういうことかもしれません。
明日、いろいろ買い物に行きましょう!
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