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 受かってましたわーーーー!


 本試験の後、試験会場からバーラムトさんのお宅へ戻った時には疲れていたこともあって顔色が優れず、皆さんに変に慰められてしまいました。

 余程できなくて、落ち込んでいるのだろうと思われてしまったようです。

 筆記試験は……確かに、もの凄く心配でしたけれども。


 発表までの三日間も、腫れ物に触るかのような扱いでした……

 元気に振る舞うと無理しなくていいのにという顔をされ、普通にしているだけで元気を出してと言われるのです。


 ですが、間違いなく、わたくしの名前が書かれております。

 七回ほど確認しましたので、大丈夫です。

 試験の受付と同じ場所で、合格の手続きを済ませた後に次の最終試験への説明会があります。


「今回の合格者は二十二人です。みなさん、おめでとうございます」

 説明会が始まっても、あの最終試験で突っかかってきた馬鹿男は勿論、ベルディア達もいないみたいですね。

 合格発表、自分の名前を見ただけで他の人なんて気にしていませんでしたわ。


 あら、十五番さんがいるわ。

 三十六番さんも。

 よかったわ、彼等のような勇気のある方々が受かってくださってて。

 女性はわたくしを含めても、六人だけね。


 カタエレリエラからの推薦者は……全員不合格だったみたいです。

 駄目よ、ヒメリア。

 心の中で高笑いなんてしては。

 後で……大声で笑っておきましょう。


「次は研修を兼ねた最終試験です。直轄地にて衛兵隊と共に過ごし、学んでいただきます」


 そして別室でひとりひとり、制服を作るための採寸が行われました。

 なるほど、そのためにすぐには出発しないのですね。

 最終試験となるシュリィイーレ衛兵隊での研修は再来月、待月まちつき十五日からだそうです。

 え?

 再来月?


 つまり……それまではどこかで働いて、お金を稼がないといけないのでは?

 まずは、あの銀食器を売ってしまいましょう。

 でも、先にシュリィイーレに行ってしまった方がいいのかしら?


「シュリィイーレには全員で揃って入領する必要がございますので、必ず待月まちつき十二日の朝、この場所に集合してください。来られない場合は棄権とみなし、合格取り消しとなります」


 自力で行くわけではないのですね……

 でもそうなると、絶対に王都を離れるわけにはいきませんね。

 二ヶ月近く……どうしたらいいのかしら。



 合格手続き後に王都中央街を歩いておりましたら、十八家門の大貴族達から皇太子殿下の第一子をご出産されたキリエステス家門の姫君に贈られた祝い品がどのような物であったのかという記事が書かれた『時事記紙』と呼ばれるものが配られておりました。

 あら、羊皮紙じゃない紙に文字が書かれているなんて珍しいわ。


 ……でもこの紙、薄くて破れそうですね……

 よくお菓子の仕切りなどに使われている紙です。

 取っておくようなものではないから、魔力の殆ど入っていないこの紙で作っているのですね。

 なるほど、もっと詳しく書かれた羊皮紙で作られたものは、別に売っているのですね。


 一枚いただいてその記事を見ながら、わたくしは勉強していた時になんて不思議な制度だろう、と感じていた皇室や貴族嫡子の婚姻制度のことを思い出していました。

 皇家と家門を継ぐ嫡子は、必ず血統を遵守している家門の方以外とは婚約できないのです。

 嫡子は正統な婚約者との間に子供が生まれた後でないと結婚ができず、その子供に絶対遵守魔法と言われる血統魔法と聖魔法が顕現しないと家門を継げないのです。

 絶対に婚約者以外との交渉は許されず、もしそのようなことがあれば即座に廃嫡……ということもあり得るのだとか。


 この国では当たり前のことなのでしょうけれど、ディルムトリエンでは国王は気に入った娘を手当たり次第に犯しておりましたし、後宮では侍女達にすら手を付けておりました。

 そして、あちこちに子供がおりましたが……成長して大人になれる子供は非常に少なく、わたくしが知る限り現国王には、嫡子となる男児はいません。

 貴族と呼ばれている者達も、同じような有様でした。


 この国では血統を護らぬ者は王とも貴族とも認めていないので、現在どの国にもイスグロリエスト皇国に認められている『王』も『貴族』もいないのです。

 だからか、この国の貴族や皇族は他国の『自称王族』『自称貴族』とは、絶対に婚約も婚姻もしないのです。

 血を穢さないために。


 きっと、他にもいろいろな制約や決まり事がありそうですよね、貴族の方々には。

 どの国も皇家とか貴族というのは、窮屈なのかもしれませんがこの国は最も厳しいかもしれません。


 でも、嫡子の婚約者は立候補であると決められているから、ご自分でその道を選んでいらっしゃるのよね。

 金証の方や、銀証でも騎士位を獲得した方々だけが行くことを許されている『貴系学舎』でも、男女は分けられているというし行事などがあったとしても知り合う機会は少なそうです。


 家門同士で交流があるのかしら?

 婚約者を親が決めることができないというけれど、誘導は……するのでしょうね。

 嫡子以外でしたらそんなに厳しくはないって、ラニロアーナ司祭様も仰有っていたけれど。

 他国の王族や貴族達とは全然違うのだから、想像もできないわ。


 そういう方々の『幸せ』って、やっぱり血統を継ぐことなのかしら。

 どういうことに幸福感を感じるのかしら。



 新しく皇太子妃殿下となられる方は……幸せでいらっしゃるのかしら?

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