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 昼食後の魔法の試験では怒りとは言わないまでもムカムカが抑えられず、遠慮なく炎をぶっ放してしまいました。

【旋風魔法】で巻き上げた炎は容赦なく的を焼き溶かし、【南風魔法】の熱風は会場の温度を急上昇させて池の水を沸かしてしまうほどでした。

 ……池に生物がいなくて良かったです。


 攻撃魔法って、遠慮しないで使うとちょっとスッキリしますのね。

 新発見ですね。

 でも、危険ですから普段は抑えなくてはいけないですが。


 次の補助系も【回復魔法】を遠慮なく最速でかけてまわり、短時間で課題の倍以上の数を回復させてしまいました。

 あの時、バーラムトさんにかけ続けた一刻半を思えば、なんということもございません。

 こういうのを『チョロい』と言うのでしょうか。

 ……ちょっと、やり過ぎてしまいましたわ。


 それにしても、実技試験に関しては予備試験の方がはるかに難易度が高かったように思います。

 筆記試験は本試験の方が、信じられないくらいに難しかったのですが。

 ……求められているものが違う……ということでしょうか?


 主に従者以外の臣民達が受ける予備試験では、技術の鍛錬が未熟な者や魔力量が少ない者、魔法操作のできない者を篩い落とす。

 従者家系の者達や貴族は元々魔力量がある程度多く、既に技術的な戦闘訓練もできていて当然。

 だから、知識と規範を十全に理解しているかを試されている、ということなのでしょうか。


 でも……どうも、魔法についても、他の方々のやり方というか、使い方? が、しっくりきません。

 もの凄く魔力を使っていそうなのに、効果が低くそうですし。

 どう見ても、魔法を使い慣れていらっしゃらない……あ!


 そうですよね、まだ顕現して間もないのかもしれませんよね。

 だって、成人の儀で初めて得た魔法というものもありますものね!

 だとしたら、ここまで使えているのは、凄いことなのかもしれません。

 きっと試験官達もその辺を知っていらして、顕現したばかりのものをどれくらい使えているか……を見ていらっしゃるのですね!


 いけないわ、機嫌が悪いからって、他の方々を侮るようなことを思ってしまったわ。

 感情にまかせて勝手に人を推し量るなんて、失礼にも程がありますよねぇ。

 ……ん、反省いたしました!


 さて試験の続きを……と思いましたが、どうやらこれだけで実技試験は終了のようでした。

 受験票に終了印が押され、受かっていたら三日後に合格者の名前がこの建物の前に貼り出されるのだそうです。

 名前が書かれていない方は、不合格ということらしいです。

 つまり、受かったかどうかが、掲示板を見た全ての人々に知られてしまうということですよね。


 掲示板は建物の中ではないので、通りすがりの方々どなたでも見られます。

 落ちていたら恥ずかしいでしょうね……

 あ、でも受けたかどうかが解らなければ、名前がなくってもどうということはないのでしょうか。

 でも発表を見に行って、落ちていたら絶対に態度にも顔にも出ますからすぐに解ってしまいますよねぇ。


「実技の終了印を押されたら、南館一階の待合所で待機しているように」


 そう案内の方に声をかけられ、待合所に入りました。

 部屋では既に半分くらいの方々が試験を終了して、寛いだ表情を見せていらっしゃいます。


 壁際に……ふたり。

 あちらの扉の前にひとり。

 試験官と思われる方々が立っていらっしゃいます。

 つまり、まだ試験中なのですね。


 騎士位試験はこの敷地に入った時から出るまで、ということなのでしょう。

 態度や言葉遣い、身分を弁えた行動であるか、正しい行動であるか……それら全てが採点の対象とオリガーナ様が何度も仰有っていましたからね。


「お飲み物がございます。いかがですか?」

 侍従の方が運んできてくださったのは、水です。

「ありがとうございます。喉が渇いておりましたので嬉しいですわ」


 多分、殆どの従者家系の方々は今、わたくしの斜め前に見えている方のように水なんかじゃなくて別のものを持ってこい、と要求なさるのでしょうね。

 周りの人達もご覧になっているというのに止める様子もなければ、水を受け取る方もいないみたいです。

 水にしか見えませんけれど、これ……果実水です。

 ふふふ、こんなに美味しい『水』を断るなんて、馬鹿な方々ですねぇ。


 ばしゃっ!


 突然、わたくしの胸元に水がかけられました。

 あまりのことに側にいた侍従の方は目を剝き、様子を見ていた試験官の幾人かもこちらを見ています。


「おまえ、不正を働いたくせによくもこの場にいられるな!」 

 わたくしに前の席に座られて、文句を言っていらした方ですね。

 試験官達が動くそぶりを見せず、ただ眺めているということはわたくしがどう対応するかを見ているということでしょうか?

 では、無視するというわけにもいきませんわね。


「何をもって不正と仰有っているのか、解りかねますわ」

「研修も受けていないくせに、この試験に参加しているということが不正と言わずになんだと言うんだ」


 ……馬鹿なのかしら?

 予備試験というものをご存じないの?

 わたくしの方こそ伺いたいわ。

 そんな程度で、騎士位試験を受けて、受かると思っているのかって!


 というか、こんな使い古されたやり方の嫌がらせしかできないなんて。

 ディルムトリエンの侍女達に、効果的でもっと相手を不快にさせるやり方を教えてもらった方がよろしいのではないかしら?

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