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昼前の試験、終了です。
……頭の中で、燃えかすがぷすぷすと燻っているかのようですぅーーーーっ!
こんなにあらゆることを考慮して書かねばならない問題だなんて、思ってもいませんでしたーーーーーーっ!
問題に出て来た『犯人』の証拠の列挙と証明だけでも大変でしたのに、不敬罪の範囲とか、罪となる魔法の使用と適正罰則とか、そんなもの審議官にでもなるつもりじゃなければ覚えきれませんよっ!
頑張り過ぎて、手首が限界です。
以前、オリガーナ様が『文字の美しさも採点対象となる』なんて仰有っていらしたから、できるだけ丁寧に書きましたけど、最後の方は……自信がありません。
もう、頭も身体もスカスカです。
お腹が空いて堪らないですね。
食堂まで……走ったら怒られそうですから、なるべく急ぎ足で参りましょうっ!
「……き……ま」
ん?
何か聞こえましたが……今のわたくしは、それどころではありません。
この後の『皇室貴族典範』と『魔法理論全般』の試験までに、食事をキッチリ食べて回復しておかなくては!
食堂にはまだ皆様いらしていないのか、とても空いていました。
よかったわ。
なるべく声をかけられづらいところで、ゆっくりといただきましょう。
身分証を提示すると、案内の方がいらして……あら、好きな席へは座れませんの?
「すみませんが、あちらの端の席ではだめかしら?」
窓際の一番端、ひとり掛けの座席です。
「いいえ、よろしいですが……少々狭いですよ?」
「構いません。ひとりですし、後からいらっしゃる方々に、広く開けておいた方がよろしいでしょう」
「畏まりました。では、こちらで」
良かったわ。
ここならいきなり隣に座られることも、目の前に立たれることもないわ。
窓から見える景色が、カタエレリエラとは全然違って石造りの建物ばかりです。
町の中に、木々が少ないのですね。
運ばれてきた昼食は、なんと三皿もありました。
……困ったわ、絶対に……食べ切れてしまうわ。
だって、もの凄くお腹が空いているし!
あ、美味しい。
流石に食べ過ぎかしら、全部というのは。
だけど、試験の最中にお腹が鳴ったら困りますものね。
二皿、そして三皿目を食べていると、やっと多くの方々が食堂に入っていらっしゃいました。
皆さんが席につく頃には、わたくしは綺麗に食べ終えてしまっておりました。
ふぅ……やっと落ち着きました。
でも、殆ど同じような味付けばかりで、ちょっと飽きてしまいましたけど。
さて、混んできましたからここの席も空けましょう。
おひとりで座りたい方も、いらっしゃるでしょうしね。
わたくしが席を立つと、給仕の方がすっ、と寄ってきて食器を下げてくださいました。
まぁ、なんて行き届いていらっしゃるのでしょう。
すれ違いざまに、ありがとう、と声をかけ、次の試験時間まで中庭に行って食休みです。
中庭を散歩して、気分が落ち着きましたので試験会場に戻ってきました。
満腹だったお腹も、いい具合にこなれました。
これで、この後の試験も集中できそうです。
室内を見回すと、皆様懸命に法典を読んでいらっしゃいますね。
ギリギリまでお勉強なさっているとは、凄いです。
わたくしは『イスグロリエスト皇国法』以外は自分のものを持っておりませんでしたから、以前ニレーリア様の所で書き記したものだけでしか勉強していないのですよね……
うーん、これは少しまずいかもしれません。
でも、今更ですね、答えられる問題だけでも全部正解できるように、できる限りのことを致しましょう。
試験が始まり、はじめは緊張が戻ってきておりましたが、一問一問を落ち着いて読んでいくうちに肩の力が抜けてきました。
魔法による身分階位……これはしっかり覚えています。
教会での魔法師育成についての取り組みは、オルツでラニロアーナ司祭が聞かせてくださいました。
あ、この辺りは、オリガーナさんと議論したところです。
大丈夫。
ちゃんと、覚えているわ。
繰り返し読んだところだもの。
神典と……神話のことも、それに基づく宝具の取り扱いなどについても、全部。
こうして、最後の筆記試験もなんとか終えることができ、やっと少しだけほっと致しました。
まだ、お夕食の時間までは間がありますね。
一度、お部屋に帰りましょうか。
部屋に入って、大きく身体を伸ばします。
ここは各お部屋に小さい流し台があり、身体を洗える洗い場もつけられています。
贅沢な作りのお部屋ですね。
この設備の宿に泊まったらおそらく、一晩で小金貨一枚……一万は、取られてしまいそうです。
取り敢えず顔と手だけ、洗いましょう。
水を手桶に溜め、水の中に手を入れて【炎熱魔法】を使うとお湯を作ることができます。
これ、後宮にいる頃に使いたかったわ。
わたくしのために湯桶が用意されたことなど、ありませんでしたからね。
手と顔を洗ってさっぱりした後に【回復魔法】をかけると、肌が整うのです。
うん、すっきり。
窓辺に座って外を眺めていると、扉を叩く音がしました。
返事をし、扉を開けると、いらっしゃったのは侍従の方でしょうか。
「夕食の支度が調いました。食堂へどうぞ」
「まぁ、態々知らせてくださってありがとうございます。丁度、お腹が空いてきたと思っておりましたの」
とても物腰の柔らかな、お優しい微笑みの侍従の方でちょっと、ドキドキしてしまいますね。
……王都の女性達も、とてもお美しいです。
「お夕食は肉と魚があるそうですので、沢山召し上がってくださいませ」
「あの……何皿、ございますの?」
「確か、五皿……と」
そ、そんなには食べられませんわ!
「残してしまうのは申し訳ないので、できれば……二皿くらいにしていただけませんか?」
わたくしの言葉に侍従の女性は少し驚いたように、一瞬だけ立ち止まりましたがすぐにまた元のように微笑まれました。
「はい、では食堂で食べたいものをお選びください」
良かった!
頑張って食べ過ぎたら、眠れなくなってしまいますものね。
食堂で給仕の方に同じことをお願いし、お肉とお野菜を選ぶことに……ああっ!
「お、お菓子も、ございますの?」
「ええ。召し上がりますか?」
「はい!」
お菓子は、どんなにお腹がいっぱいでも入りますもの!
このお肉、羊だわ。
あの船の上で食べた、わたくしが初めて味わった『ご馳走』です。
お野菜も暖かくて、ほくほくで美味しい。
んんーーーーっ!
このお菓子、オルツで食べた柑橘のお菓子みたい!
美味しいですーー!
王都って、なんでもあるのですね!
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