32
昼食のイノブタ肉を焼いたお食事は、硬かったものの味は非常に美味しくて、大満足。
香辛料が多めのものは、食べ応えがありますね。
わたくしは、上機嫌で魔法の試験へと裏庭へ向かいました。
まだ開始時間までは少しありますが、皆さん集まっていらっしゃいますわね。
得意魔法の色相別に、試験をしていくのでしょうか?
それとも、どなたかと模擬戦形式?
お集まりの皆さんの話に聞き耳を立てていると、どうやら今年は随分と試験方法が変更になっているようです。
多くの方々から、不安そうな雰囲気が醸し出されています。
「では、魔法の試験を開始します」
試験官の声が響き、緊張感が増していきます。
「魔法の試験は、四種行われる。先ずは全員、現在の魔力量を確認する」
魔力量は、身分証で確認できます。
表示されているのは現在の保有魔力で、最大値ではありません。
魔法を使うと表示の数量が減り、食事や睡眠をとると魔力量は元に戻るのです。
試験で魔力量が少なくなりすぎると危険だから、事前にどれくらいかを計っておいて適正量使ったかを調べるのかもしれません。
いくら攻撃が強くても、一撃入れて自分が倒れ込んでは無意味ですものね。
「七十二番、千八百八十三」
あら、成人の儀の時よりちょっとだけ増えていますわ。
あ、お食事後だから最大値なのですわね。
意識して魔法を使っていなくても、微量の魔力は使用されているものだと言いますから。
成人の儀は、昼食の前でしたもの。
十人ずつ試技を披露し、倍の数の試験官がそれを採点します。
ひとつ目の試験は、攻撃魔法。
『魔力量三百の魔法で攻撃する』
自分の魔法をどれくらい理解して使いこなせるか……という試験です。
しかも、ただ使うだけでなく『攻撃』しなくてはいけません。
皆様、あまり大きくない魔法ばかりのご様子ですが、使いすぎに注意していらっしゃるのかしら?
もしかしたら、規定値より大きく魔力量を使ってはいけないのかもしれませんね。
えーと、確か一番初めに【炎熱魔法/青】を使った時は、三百を少し越えてしまったので……抑え気味にして旋風で補助をすれば、威力を落とさず燃やせるかもしれません。
四組目に、わたくしの番が回ってきました。
組み立てた通り、螺旋状に的へと走る炎熱を放ちます。
左手の方がまだ少し威力が弱いので、規定値を超えないためにも左を使いました。
的は……金属だったのですが、ニレーリア様の訓練場にあったものほどは燃え上がりませんでしたから、材質が違うのかもしれませんね。
「七十二番、差・二百九十七」
うーん、惜しいっ!
どうせならぴったりが格好良かったのに、残念です。
次は補助系魔法。
最も多いのはやはり【強化魔法】のようで、その方々は『割れない硝子を作る』というもの。
わたくしは【回復魔法】なので『樹木の傷を治す』。
回復は生きているものであれば、人でも動物でも植物にでも効果があります。
浄化や解毒のように『異物を分解して消す』ことはできませんが、元の状態へ『戻す』ことができるのです。
つまり、毒を受けた傷に【回復魔法】をかけても、毒そのものを体内から除去したり消したりはできません。
ただ毒に冒された部分を回復させ続け、毒を回らせないように押しとどめていることは……理論上可能です。
しかし実際には【回復魔法】の継続には、非常に大きな魔力が必要なので『継続』は大変困難です。
ですから、完璧な回復には浄化や解毒の魔法との併用が望ましいのです。
……浄化と解毒の方陣札、懐に余裕ができたら絶対に買っておきましょう。
わたくしの番になり【回復魔法】を施す若木の苗が目の前に置かれました。
全体を眺めどこに傷があるかを確認していたら、幹に黒っぽくいくつかの斑点があります。
見たことがあるわ、これ。
後宮で侍女が持って来たお茶を飲むとなんだか具合が悪くなることが続いたから、飲まずに植木に注いでいたら……こんなのが出て枯れたのよね。
後でこっそり調べたら、僅かだけど身体に溜まる毒だと解ったのよ。
飲み続けていたら、わたくしはきっと歩くことも困難になったのでしょうね。
つまり、この斑点は毒の可能性があるわ。
【回復魔法】をかけつつ元の状態に戻しますが……やはり、斑点の部分だけが回復しません。
うーん……ここは荒療治かしら。
幸い、この木はとても細くて……わたくしの力でもなんとかなりそうだし。
バキッ!
わたくしが木を折ると、試験官だけでなく周りの方々も吃驚したような目でこちらを向きます。
鋸でもあったら良かったのですが、そんな道具がなかったので毒がまわっている部分を折って取り除き、もう一度幹を繋げなおします。
程なくして幹は繋がり、若木の葉は生気を取り戻しました。
「あの、わたくし、水系の魔法は使えないので、持っている水をこの木にあげてもよろしいですか?」
「あ、ああ、構わないよ」
よかったわ。
植え替えとか回復の後は、水をあげた方がいいものね。
「君、七十二番。なぜ、幹を折ったのだね?」
試験官のひとりが尋ねていらっしゃいましたので、毒に冒されていたようなので……と答えて取り除いた部分を見せました。
「わたくし、【浄化魔法】や【解毒魔法】がございませんので、根本的な治癒にはこの方法しか思いつかなかったのです」
あら……試験官達が、なんだか微妙な表情をしているわ。
乾いた笑いを漏らす方まで……
やっぱり、ちょっと乱暴だったかしら。
でも、あの木を治してあげるには、わたくしにはあの方法しかできなかったのですもの。
次からは、他のやり方もできるように勉強した方がいいですね。
さて、試験も後半。
『異なる魔法の連続使用』では、少しくたびれてきた方々もいるのか、何度も繰り返せる人は少なくなっています。
わたくしは【旋風魔法】と【炎熱魔法/青】を宿の部屋で練習していた時のように、右と左で交互に発動。
炎の玉を二十個ほど、頭の上に出して風でくるくる回して見せました。
これは簡単だし、魔力量も少なくていいので楽です。
そして最後。
『自分の出せる最も大きい攻撃力の魔法を的にぶつける』
ここに来て最大、ですか。
今残っている魔力量を確認したら、千百ほどしかありません。
総量の半分を切ると、気持ち悪くなったり頭痛がしたりするのですよねぇ……
でもここは、四百くらい使って最大効果を出した方がいいでしょうか?
いえ……違いますね。
自分が倒れるのが、一番ダメな結果です。
たとえ敵を倒しきれなくても、走って逃げるか剣や弓で戦える状態にしておかなくてはいけません。
『相討ち』は無意味です。
だとすれば、わたくしが使える魔力は二百まで。
その魔力量で【炎熱魔法/青】を最大効果で使うには、炎熱より旋風により多くの力を注ぎ速度と火力を『風』で押し上げるべきでしょう。
幸い、的は動かないようですから、一定方向への発動でいいので調整は必要ありませんし。
風に炎を纏わせ、速く、強い『
炎自体の大きさではなく、熱を運ばせ、的を燃やすのではなく溶かすように。
もう少し魔力に余裕があったら【南風魔法】の方が良かったのですが、家系魔法だと五百は必要なので今は無理です。
魔力ももう少し伸ばさなくては……本当、勉強しなくてはいけないことが、まだまだ沢山ありますね。
……これは、来年の試験にむけての課題、ですね。
なんとか的の金属を半分ほど溶かすことに成功いたしましたが、ちょっと中途半端な感じは否めません。
今のわたくしにはこれが精一杯なので、悔いはありません。
最後に、現在の魔力量を試験官が確認して、予備試験の全てが終了です。
結果は明日の午後。今日のところは、宿でゆっくり休みましょう。
夕食は、イノブタ肉じゃない方がいいわ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます