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「皆さん、揃っていらっしゃるわね」

 魔法の教官はロッテルリナ様と、フェシリステ様です。

 わたくしとメラニエーラは火と風の魔法ですので、ロッテルリナ様。

 その他の三人は水と土の魔法なので、フェシリステ様が見てくださいます。

 わたくし以外の方々は、もう何度かご指導を受けているようです。


「私も今年から指導に入ったばかりだから、一緒に頑張っていきましょう。よろしくね、ヒメリアさん」

 ロッテルリナ様はわたくし達にそう仰有ると、柔らかく微笑まれました。


 先ずは今、何も教わらない状態で、どんな魔法が使えるのかを見てくださることに。

 攻撃魔法って、どうやって使うのでしょうか?


「では、メラニエーラさん、昨日までにお教えしたことをやって見せてください」

 ロッテルリナ様の言葉にずいっと、わたくしを押し退けてメラニエーラが前に進み出ました。

 どうやら、わたくしに『お手本』を見せてくださるようですわ。

 ではそのやり方を参考にさせてもらって、攻撃魔法の出し方を覚えましょうか。

 なかなか役に立ちますわね、メラニエーラ。


 手のひらを前に向けて腕を伸ばして、魔力を身体の外へ押し出すように手のひらの前辺りに集中……って感じでしょうか?

 わたくしの技能が『精神鑑定』で『魔力鑑定』ではないから、確信は持てませんが遠くはないはずです。


 炎がメラニエーラの手のひらからぼぅっ、と、飛び出し……あまり速くない速度で飛んでいきました。よちよち歩きの子供程度でしょうか?

 着地したのは、十歩くらい歩いた場所ですね。的は、遙か彼方です。


 なのに、メラニエーラときたらもの凄い『如何です?』みたいな、勝ち誇った態度です。

 えええぇぇ?

 火魔法ってこんなものなのですか?

 こんなのつまらない……あ、いえいえ、遊びではございませんわ。


 もしかして、今のはこの庭の安全性のために力を加減して……調整した、ということなのですね?

 そうですよね、無闇に力任せの魔法を放つのは非常に危険ですから。

 実戦ではございませんしね!


 ロッテルリナ様にではあなたも、と促されメラニエーラの『ふふん』とでも聞こえてきそうな笑顔の前を横切ります。

 ……足くらいかけてくるかと思いましたが、そういうことはなさらないのね。

 虐め方が中途半端です。

 まぁ、足を出してきたら思いっきり踏んでやろうとは、思っておりましたけど。


 えーと、手のひらを突き出して、魔力を溜めて、炎を……飛ばすのなら、的まで当たるかやってみましょう。

 あそこまででしたら、問題はないということですよね。

 あまり炎自体は大きくせず、方向は……指で示しましょうか。


 ぶぉーーーーーーっ


 細い炎が螺旋状になって、走っていきます。まるで、矢を射ているような感覚でした。

 そして、的に炎が当たりました。


 ぼわぁぁぁぁっ!


 よ、予想外に大きく燃えてしまいました!

 でも、不思議な炎ですね……青いなんて。


「申し訳ございませんっ、ちょっと大きくしすぎてしまいました!」

 利き手でやってしまったから、強すぎたのだわ。

 あああー、ロッテルリナ様が口をぽかんと……呆れていらっしゃるに違いないわ!

 少し離れた隣で魔法の準備をしていたベルディアさん達も、こっちを見ていますわー。


「ヒメリアさん!」

「はいっ」

「素晴らしいわ!」


 はい?

「初めて【火炎魔法】をお使いになったのよね? なのに、この飛距離と炎の大きさ! しかも、しっかりと方向の制御もできていました!」

「あ、ありがとうございます……でも、わたくしの使いました魔法は【火炎魔法】ではなくて【炎熱魔法】でございます」

「「炎熱ですって?」」


 ロッテルリナ様とフェシリステ様が同時に、驚愕したように声を上げられました。

 炎熱だと、何かあるのでしょうか?


「そうでしたか……! 【炎熱魔法】は【火炎魔法】より、上位に位置する魔法です。道理で素晴らしい勢いでしたわ」

「上位の魔法?」

「魔導史書を読んでいますか?」

「まだ、三巻まででございますが」

「最終の五巻に『上位魔法』のいくつかが書かれています。あなたの炎熱は上位魔法だから、あのように強力な青い炎なのかもしれませんね」


 そう仰有って示されたのは、先ほどわたくしが燃やした的。


「あれは金属、銅でできたものでしたの。普通の【火炎魔法】でも当たると少し色が変わりますが、溶けきってしまうなんてことはないのですよ」

 的だったそれは、すっかり溶けて元の形など全く保っていませんでした。

「あなたの炎はかなり温度が高そうです。使用には十分注意が必要ですが、それさえ克服できれば多くの場所で役に立つでしょう。素晴らしく貴重な魔法ですよ」


 役に立つ?

 わたくしの魔法が?


「ええ。炎熱という上位魔法は、炎を出さずに熱だけを使うこともできるようになるのです。あなたの調整力と練度が上がれば、もっと自在に使いこなせます」

「ありがとうございます……! 励みますわ!」

 嬉しい!

 目標ができたわ。


「さて、メラニエーラさん。あなたはまだ基準には達していませんから、訓練方法を少し再考いたしましょうか」

 あら……あれって、調整していらしたのではなかったの?

 それなのにあの勝ち誇った表情とは。


 あああー、とっても悔しそうですねぇ。

 これ、虐めの対象が、本格的にわたくしに切り替わるかもしれませんわね。

 どんなことをしようと画策しているのかしら。

 行き当たりばったりのつまらないことなど、なさらないでくださいね?


 ふふふっ、面白そうですー。

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