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伯母様の大号泣が収まって、全員着席して全ての事情を伺うことになりました。
正直、わたくしにはどうでもいいのですが、一応エイシェルスの者なので聞かないわけにはいきません。
伯母様曰く、自分には本当は家系魔法なんて顕現していない……とのことです。
あー……予想通りですが、一番ダメな状況じゃないですか。
「サリエーチェに家系魔法が出た時に……私にも……と嘘を吐いてしまったの」
妹に頭を飛び越されてしまって、咄嗟に出た嘘だったようです。
でも、成人の儀で解っているのでは?
「あの子が家系魔法を手に入れたのは、二十八歳の時だったから……」
「それでも、家系魔法証明書はいただいたのでしょう?」
「サリエーチェと一緒に教会に行ったけど、私は……司祭様には会っていないのよ。あとでこっそり、あの子のもらった証明書を写して……作ったの」
どんどん駄目になっていきますわね……既に犯罪ではないですか。
「でも、写している途中であの子が部屋に戻ってきて、最後まではできなくて……」
「それで、写せなかった部分を適当に書いて……魔法の名称まで入れてしまったのですね?」
迷子の子供が衛兵の質問に答えるように、こくん、とだけ頷く伯母様に……息子達は、ただただ呆然としています。
そんなお粗末な偽造証明書が通用してしまうなんて、絶対に正しい継承を行っていないということですよね。
ああ……親に家系魔法がないから、『継承の宣儀』が執り行われていないのですね。
行われていたとすれば、その時に発覚していますもの。
従者家系だと、貴族達より厳しくはなかったのかしら?
それとも……この家門、お金だけはありそうですものねぇ。
役所とかに賄賂でも渡して、有耶無耶にでもしたのかもしれませんわね。
うーん……否定できる要素が、何ひとつありませんわ……
「サリエーチェから『もの凄く熱い風が出るから、吃驚しちゃった』と聞いていたから、熱風の魔法だと……思ったの」
現象としては合っていそうですけれど、いくらなんでも親達は妹のものを見ているでしょうに。
親にすら見せずに、隠し通したのかしら……
「それからすぐに……サリエーチェはある方に恋をして、家門を継ぐのは私に……と両親にも承認されてしまって……」
嘘だと言い出せなくなってしまったのですね。
でも、その時ならばまだ間にあったはずなのに、伯母様はただ口を噤んだだけだったのですね。
「だって、あの子がこの家を継いだら、私は……出て行かなくちゃいけないわ。この家の全てがあの子のものになって、私はただの臣民として放り出されるのよ? 耐えられなかったのよ!」
やれやれ……
家系魔法があったって魔法師でも騎士でもないし、聖魔法もないわたくし達は全員『ただの臣民』なんですけれどね。
その家に生まれたというだけでは、地位も財産の何もないのです。
成人した時にちゃんと職業を示されたのだから、努力すればよかったのよ。
でも、こうなると少し話がややこしくなるわ。
「伯母様、法典改正に伴う身分証の再登録は……お済みですよね?」
その時にどうして発覚しなかったのかしら?
必ず教会か役所で魔法の確認がされて、身分階位が記載されるはずなのに。
伯母様は身分証を握り締めて、口を真一文字に結ぶ。
「……再登録しないと、この家どころかご自身の国籍がなくなり、流民扱いとなってしまいますよ?」
「えっ? 嘘……」
「嘘なんて吐きません。今年中にご登録を済ませなければ、伯母様は流民となり、そちらの三兄弟は流民の母を持つ『隷位』になってしまいますよ?」
「なっ、なんだとっ?」
「母様っ! 今すぐに教会にっ!」
「だめだ! そんなことしたら……この家には……」
「馬鹿を言うな、兄上! 再登録しなければ家どころか、国を失うのだぞ!」
どうせこの三人も、再登録をしていないんじゃないかしらと思ったら、案の定。
どうしてここまで馬鹿でいられるの?
あ、再登録をしたら……『無位臣民』と身分証に記載されてしまうから、それが嫌だったのかしら。
でも『流民』になったら鉄証ですらない
ご自身のことに影響があるとなると、必死ですね。
伯母様を引き摺るように、三兄弟は慌てふためいて教会へと行ったようです。
わたくしは取り残されてしまいましたが……どうしましょうか。
伯母様が家系魔法がなくて『当主』でなかったのだとすると、この家の当主は……わたくしの母上ということですか?
いえいえ、そういうことでもありませんわよね。
なにせ、国外に出てしまっているのですもの。
もう既に、亡くなっていらっしゃいますし。
となると、やはり伯母様はただの管理者で、娘が生まれなかったからこの家は主家に接収。
うん、そうですわね。
「あの……ヒメリア様」
恐る恐るわたくしに話しかけてきたのは、この家の使用人達。
あら、勢揃いしているわ。
「この家は……どうなるのでしょうか?」
「多分、伯母様が亡くなったら主家に接収となるのでは? 伯母様には娘がいないし、あのご兄弟はすぐにでも出なくてはいけないし」
「我々は当主と偽ったあの方に……仕えなくてはいけないのですか?」
ああ、彼等も怒っているのね。
自分たちの主だと信じていた方が、虚偽の塊だったのだもの。
そうだわ……当主の子供であるのなら、成人後もあの兄弟に使った財産については問題にならなかったかもしれないけど、ただの管理者なら別よね。
成人後に使われた金額を調査して、彼等自身から返済させるように主家から求められるかもしれないわ。
その金額によっては伯母様の管理責任も問われ、場合によっては……
なんてことを呟いていたら、使用人達がすっかり意気消沈してしまった。
この方達は、ちょっと可哀想よね。
どちらかといえば、被害者ですもの。
「ヒメリア様が、この家の主になってはくださらないのですか?」
「それは多分、無理です。わたくしは、当主の娘ではありませんし……」
「いえ、アリューテ様が当主でないのなら、家系魔法があったサリエーチェ様がご当主でしょう?」
「そうです! 管理者に預けて暫くお留守にしていらしただけで、そのご息女であるヒメリア様が嫡子ということですわっ!」
えええぇぇ?
随分と強引過ぎませんか?
それは。
困ったわ。
こういうことを判断できる立場ではないし、そんな権限も今のわたくしにはないのだし。
「一度、主家のヴェーデリア様にご報告しなくてはいけませんから、その時にご判断を伺いますわ」
使用人達は歓喜しているけれど、わたくしは接収の方向でお話をさせてもらいますからね。
あなた達でしたらきっと、すぐにお仕事は見つかりますわ。
なんにしても、ご領主様に事の顛末を全てご報告しなくてはいけません。
ああ、なんて面倒なのでしょう……!
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