第6話 フィーネの謎スキル
西の空に飛び去っていく
「お嬢さん、
「意味は分かりませんが『これからはお前の時代だ』と、
あっ、その前に『
「
「そういったものがあるのですか?」
「いや、今思いついただけだ。
それよりも、お嬢さんがここに来ることが予言されていたということは、これからお嬢さんを中心に、世の中が変わるようなとんでもないことが起こるのかもしれない。
とはいえ、お嬢さんの魔力は収まったし、俺たちの目的は達成できた。これから何が起こるかわからないが、まずは街に帰ろう」
「はい」
二人は来た道を引き返していった。重い荷物を背負って山道を昇り降りしようが来た時同様フィーネは一向に疲れを見せなかった。
歩きながら、
「お嬢さん、大穴の底に下りて以降、何か変わったことはないかい?」
「体が軽く、背中の重さもほとんど感じないのは最初に
「お嬢さんの謎のスキルはどうなったのかな?」
「そう言えば今まですっかり忘れていました。私のスキルが分かればなにか今回のことの意味を知る手がかりになるかもしれません。
あれ?」
「どうした?」
「私のスキル、分かりました」
「えっ?」
「私のスキルが分かればいいのになあ? って考えたらいきなりスキルが見えました」
「スキルが見えた?」
「はい。目の前に文字盤が浮かんでそれに書いてました」
「まさか、鑑定スキルじゃないだろうな?」
「さあ」
「いきなり鑑定が使えるようになれば、それが鑑定かどうかなど分からないものな。だが俺の知ってる鑑定スキル持ちは、目の前に文字盤が現れると言っていた。
それで、スキルの名は?」
「まず」
「一つじゃないのか?」
「はい。
まず、総合魔術スキル」
「うーん、聞いたことはないが、魔術のスキルということは分かる。しかし魔術は言葉の通りスキルじゃないんだが、何かしら違うんだろうな」
「次は、魔力強化スキル」
「これはよくあるスキルだな」
「次は、肉体強化スキル」
「聞いたことはないが、それでお嬢さんは疲れにくい上に重い物も持てたのか」
「次は、古龍言語スキル」
「なるほど」
「次は収納スキル」
「これも聞いたことはないな」
「次は転移スキル」
「帝室だけ使えると言われている転移魔術は聞いたことはあるがそれがスキルなのか」
「次は錬金術スキル」
「これもタダの術ではなくスキルか。一体いくつスキルがあるんだ?」
「あっ、鑑定スキルもあった!」
「お嬢さん、もういい。たしかにこれからはお嬢さんの時代だ」
数日後。二人は出発した宿場町に帰り着いたのだが、どことなく町の雰囲気がおかしい。
預けていた荷物を取りに冒険者ギルドに顔を出したところで、フォルツがギルド職員に聞いたところによると、誰もこれまで使えていた魔術が数日前から使えなくなったと騒ぎになっているそうだ。どうも貴族も同様に魔術が使えなくなったようだ。
魔術帝国では魔術を使えない貴族はタダの平民の扱いとなることは常識だ。スキルがないことは隠せるが魔術が使えないことは隠せない。そういう意味では、魔術が使えないということは、スキルがないこと以上に重大かつ深刻な貴族の欠格要因である。
従って、貴族たちはその事実をひた隠しているようだ。平民の場合、もともと魔術に頼った生活をしていたわけではないし極端に魔力が少なく魔術の使えない者も一定数いた関係でそれほど混乱はなかった。
フォルツ自身はとある有力貴族の傍系であり、これまで魔術は使えたが、もっぱら魔術関連ではないスキルに頼っていた関係で、魔術が使えなくなったことさえ町に帰り着くまで気づいていなかった。
そういった中、フィーネだけが今まで以上に魔術が使えた。
「この分では皇帝を含めて帝室でさえ魔術は使えないだろう。
お嬢さん、この前はスキルの数で『これからはお嬢さんの時代だ』と言ったが、これからは本当の意味でお嬢さんの時代になるぞ」
魔術帝国ではこれまで魔術がいかに使えるかが出世の鍵だった。魔術関連スキルがあれば魔術能力が格段に上がるため、魔術が使えることを大前提に魔術関連スキルのある者が貴族として優遇されてきた。貴族のだれもが魔術を使えなくなった今、魔術能力の強化スキルがいかに強力でも無意味だ。
街道沿いの宿場町での混乱はさほどではなかったが、帝都マギアレグノでは混乱を極めた。多くの市民が貴族街に押し寄せて、貴族の屋敷に向かって『魔術を見せろ!』と声を上げた。貴族の屋敷内でも使用人たちが、主人たちに対し不信の目を向けている。
帝都内の警備兵たちはそういった騒ぎを見て見ぬふりをしているため、貴族街に押し寄せた市民の数はどんどん膨れ上がり、やがてその波は帝宮に向かって進み始めた。
もちろん、そういった混乱は貴族の治める地方都市でも見ることができた。フィーネの両親の住む北方の街、シームースでも市民たちが領主であるバイロン伯爵の屋敷に押し寄せた。
屋敷の外から『魔術を見せろ!』という市民たちの声が聞こえてくる。
「どうなっているんだ? なぜ魔術が使えなくなった?」
「あなた、どうするのです? 屋敷の周りを大勢の平民たちが囲んでいるのですよ!
使用人たちは使用人たちで、誰も何も言うことを聞かなくなって」
「魔術が使えない以上、何もできることはないだろう」
「あなた、それでも貴族なのですか? あなたは、スキルが無いとフィーネを追い出したんでしょ! なんとかしてください!」
「このままでは、バーバラの婚約も流れてしまう」
「もう婚約どころではないことが、あなたにはわからないのですか!?」
二人の言い争いは延々と続いた。
[あとがき]
次話で完結です。よろしくお願い合います。
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