第69話 規格外の脅威、再来

 迫りくるゾンビの群れへ、俺は両手のサブマシンガンの掃射を浴びせて蹴散らしていった。普通のゾンビ相手じゃ、もう怖がる事もなくなった。未だに血や臓物をぶちまけながら迫る姿は気持ち悪いと思うけど。


「問題は……」


 視線の先にいるのは、他のゾンビと違ってふらついていない、さっきも出会った『走るゾンビ』。体の至るところから血を流しながら、その目は確実に俺を捉えていた。


 今更だが、普通とは違うゾンビの呼称について先ほど虹枝にじえださんから訂正があった。なんでも、俺たちの言う『進化型』とスターゲートの言う『変異種』は別物らしいのだ。


 進化型は、俺たちがショッピングモールでのみ出くわした個体。虹枝さん曰く、肉体強化手術を受けたスターゲートの警備員がゾンビになったモノ。体も人間より一回り大きく、身体能力が高くしぶとい。おまけに物を投げたり走ったりといった芸当までやってのける、まさにゾンビ界のボス的存在。


 そして変異種とは、先ほど隻夢ひとむたちと撃退した、走るやつだったり異常に硬いやつだったりと、種類が複数存在するらしい。それぞれ別の『変異』を成し遂げた結果、それぞれが変わった特性を持つゾンビだ。一点特化した変異には気を付けなければならないが、それ以外は普通のゾンビと大して変わらない。進化型よりかはいくらか楽な相手である。


 そして今俺の目の前にいるのは、走るタイプの変異種。スターゲートはこの個体を『ランナー』と命名したそうだ。シンプルで分かりやすいネーミングだ。


「来るなら来やがれ!」


 俺は『ランナー』へ向けてサブマシンガンをぶっ放す。足の筋組織が腐らずに変異したと思われる『ランナー』は、しっかりとした足取りでこちらへ走って来る。

 だが、その胴体はただの肉。次々と弾丸が貫いて行き、目的である俺へ噛みつく前に、地面に倒れ伏した。


「慣れると対処も簡単だなー」


 弾が少なくなった弾倉を捨て、新しく生み出したものをサブマシンガンに装填する。弾切れを気にせず戦えるのは、まだ完璧には銃撃戦に慣れていない俺にはありがたいな。撃ちまくって半部以上当たれば上々、って感じで戦ってるからすぐ弾無くなるし。


あおいん所は大丈夫かな」


 一応予備の弾は渡したけど、蒼と唯奈ゆいなが弾切れになった場合は逃げるしかなくなる。一応、連絡さえすればブレインドローンが必要な弾薬などの物資を持ってきてくれるみたいだが、心配なのには変わりない。


『Aチームに通達する。お前達から見て前方約二十メートル地点に「進化型」一体の姿を確認した』


 進化型。その言葉を聞いて、俺の身が引き締まるのを感じた。あの筋肉マッチョゾンビがこの先にいるのか……!


『このまま行くと、勇人ゆうとが一番近いな。いけるか?』

「任せてください! ガツンとやっつけますよ!」


 俺は両手のサブマシンガンを消しながら答える。次いで生み出したのは、アサルトライフルを三つ横に並べたような大きさの、不思議な形をした銃。虹枝さんに一度向けられた事のある『プラズマガン』だ。どんな強靭な肉体でも、高火力のプラズマをぶつけてやれば焼き殺せる。


「……見えた!」


 歩き続けた俺は、ゾンビの一群を見つけて立ち止まる。十体前後の普通のゾンビの中にひときわ目立つ存在がいた。筋肉質な胴体はデカく、スターゲートの警備員のものであるプロテクターを身に付けている。進化型だ。


「会ったのは二度目だな。お前とは始めましてだけど」


 両手で構えるプラズマガンの銃口を向け、狙いを定める。以前は対物ライフルとマシンガン百発でようやく仕留めた進化型。今度はスターゲートの次世代兵器をお見舞いしてやるぜ!


「吹き飛べ!!」


 引き金を引き、進化型ゾンビへプラズマの塊が放たれる。空気を焦がすような音と閃光を伴って放たれたプラズマは、進化型の胴体を直撃。超高熱が肉を焼き切り、脇腹に大穴が開いた。


「良しっ! 命中!」


 プラズマガンを床に放った俺は、すかさずアサルトライフルを生み出し、進化型の周りを取り巻く通常ゾンビを蜂の巣にするべく構える。

 と、その時。そろそろ倒れるかと思っていた進化型の腕が動いた。隣にいたゾンビの頭を鷲掴みにし、自分へと引き寄せる。


「うえっ!?」


 そして、丸かじり。首筋に噛みつき、歯で肉を引きちぎって飲みこんだ。

 ジタバタうごめくゾンビにも構わず、再びかぶりつく。その度に足元に血がボトボトと零れ落ちた。


「ゾンビが、ゾンビを喰ってやがる……」


 気持ち悪いなオイ!

 俺は構わずアサルトライフルを掃射する。穴だらけになった普通のゾンビはなす術もなくその場に崩れ落ちる。しかし、進化型は未だ健在。

 いや、それどころかプラズマガンで抉ったはずの胴体が、みるみる元に戻っていくではないか。


「虹枝さん! ドローン越しに見えてますか!? あいつ、再生してます!!」

『ああ、確認している。何だこれは……』


 ショッピングモールで出会った時は、進化型以外のゾンビはいなかった。なので他のゾンビを捕食して自己再生をするなんて知らなかったが、これも進化型の特性なのだろうか……。


『あーあー、割り込み失礼します。勇人クン、聞こえていますか?』

灰仁かいじん博士!」


 通信機から聞こえた声は、灰仁博士のもの。


『先ほどDチームから、他のゾンビを捕食し、損傷部位を再生する変異種、「イーター」の出現報告がありました』

「そんな変異種までいるのかよ……」

『キミが目の当たりにしているソレは、進化型としてではなく変異種「イーター」としての特性なんですよ』

「って事はコイツは、進化型であり変異種でもある!?」

『そういう事になります。仮に進化型ゾンビを「パワードゾンビ」とでも呼ぶとすれば、今のソレは「パワードイーター」といった所でしょうか。言うまでも無く強敵ですね』


 何だその無茶苦茶なゾンビは……! 俺の頭が通り抜けられそうなほどの大穴を食べるだけで塞ぐとか、まるで異能力だな。


『ゾンビというものは、まだまだ我々には計り知れない存在だという事です。くれぐれもご注意を』

「分かりました。ありがとうございます」


 アサルトライフルの掃射によってゾンビはほとんど倒した。残るは進化型であり変異種でもある規格外のゾンビ、『パワードイーター』。名前まで強そうだ。

 二、三体ゾンビを貪ったあいつの傷は、ほとんど完治していた。恐るべき再生能力だ。


「再生するってんなら、そうする間もなく連射で消し飛ばして――」

『勇人! 右だ!!』


 虹枝さんの叫び声。アサルトライフルを捨てプラズマガンを生み出そうとした、その一瞬の隙に。物陰から飛び出した『ランナー』が、すぐ傍まで迫って来ていた。『パワードイーター』に気を取られ過ぎて、回り込まれたのに気付かなかった!


「くっ……!」


 プラズマガンを生み出したとて、発射する前に追い付かれるだろう。

 生み出す武器をプラズマガンからサバイバルナイフへと変更――間に合うか!?


 目と鼻の先まで来た『ランナー』が俺の右腕を掴む。俺がその脳天へ突き立てるべく、サバイバルナイフを握る左腕を振り上げた直後。


 プロテクターの無い右手を、黒手袋の上からゾンビが嚙みついた。

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