第61話 おいでませ、超科学の魔王城
ヤタガラスの人達の後に続き、俺達は地下に降りる。内装は下部サイト01とほぼ同じ、寒々しい真っ白な壁や床。いかにも研究所って感じの雰囲気だが、入口付近だからだろうか。人の気配や物音が全くせず、どこか寂しい景色だった。
途中何度も生体認証の分厚い扉を潜り抜け、
薄暗く、青白く輝くモニターがたくさん浮かび上がっている。一瞬、映画館かと思ったが、客席の代わりにコンピューターがずらりと並んでいたのでたぶん違う。
「ここは?」
「スターゲートの中央指令室だ。私も実際に来たのは数えるほどしか無いし、もう二度と来ないと思っていたんだがな」
俺たちもスターゲートの恐ろしさは虹枝さんから聞かされていたので、もちろん警戒していた。だがこの指令室に入り、各々の作業に取り掛かっている生きた人間を見つけると、何とも言えない安心感を覚えていた。
「
「あー、先ほど『ハイエンド』の覚醒処置に手間取ってるので遅れると連絡が」
「そうか……あの方の事だから、また無断でゾンビ狩りにでも出かけたのかと思ったが、それなら待とう」
ヤタガラスのリーダーと部屋の機械を操作していたオペレーターのような人が、そう話しているのが聞こえた。知らない名前が出てきたが、どうやら俺たちを案内してくれる人が不在っぽい。というかゾンビ狩りって何。自分から進んでゾンビを狩ろうとするアグレッシブな博士がスターゲートにはいるの??
「おい、ゲートリーダーはいないのか」
そんな中、虹枝さんは遠慮なくリーダーに言葉を投げかける。リーダーと話をしていたオペレーターさんは虹枝さんを見て目を丸くしていた。虹枝さん、もしかして本部の人達の中でも有名人なのだろうか。
「お前達は先ほど、私たちを招き入れるという案にゲートリーダーも合意したと言ったな。その本人はどうした」
「司令官――ゲートリーダーは、確かに君達を迎え入れる事には同意を示された。だが『ハイエンド』クラスの能力を持つ君達に対し、脅威を感じているようだ」
「ありていに言えば怖がってんだよ。今もあんた達の処遇を決める会議とかいう名目で奥に引っ込んでるのさ」
リーダーの言葉を引き継ぐように、ヤタガラスの金髪の青年が言った。ゲートリーダーって、スターゲートのトップに立つお偉いさんだよな。ここにいないとはいえ、そんな人物に対してもバッサリと言うなこの人。
「てか、さっきから聞こえる『ハイエンド』って言葉、どういう意味なんだ?」
「お前と唯奈には一度プロジェクト・ハイエンドの話をしたと思うが」
「……え?」
虹枝さんからの一言に俺は思わず首を傾げた。隣から唯奈のため息が聞こえた。
「お兄ちゃん、聞いてなかったの?」
「いやちゃんと聞いてたよ! ゾンビウイルスのもとになった生物兵器が、そのプロジェクトのおまけだとか何とか……そんな話だろ?」
出て来た単語を全て覚えてないだけで、話はちゃんと頭に残ってるさ。うん。
「まあ、あの時留守番してた
俺と唯奈のやりとりの意味がよく分かっていない双笑たちに向けて、虹枝さんは再び説明を始めた。
「思えば今まで、あの子たちが生まれた経緯について説明を後回しにしてたな。端的に言って、スターゲートは人間の手で最上級の人間兵器を生み出すために作られた研究機関なんだ。その理念であり計画こそが『プロジェクト・ハイエンド』。私は『
思い出した。確かそんな話もしてたっけな。
スターゲートが創設された理由でもあるプロジェクトの話なんて、機密中の機密に決まっている。しかし虹枝さんの話を遮る人は誰もいなかった。数いるオペレーターたちはもちろん、機密を守るために虹枝さんや俺たちに一度銃口を向けたヤタガラスの面々さえ。
俺たちがスターゲートの一員として認められたって事か? もしくはそんな機密をいちいち気にしてるのはお偉いさんだけで、実はスターゲートもそんな事を気にする余裕すらないほどに、ゾンビに追い詰められているとか。前者であって欲しいな。
「つまり僕たち――少なくとも
「そういう事だ」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ!」
ふと、聞き覚えの無い朗らかな男性の声がした。それは俺たちがさっき入って来たのとは別の入口から。
「なにも民間人のキミたちに、戦闘用に造られたハイエンドと同じ戦果をあげてこいだなんて無茶な要求はしませんので」
重厚な扉を越えた先に立っていたのは、白衣を着た顔面蒼白で血まみれの男性だった。
「うわああああああ!? この人どうしたんだ!?」
「ぞ、ゾンビが入って来てますよ……!!」
俺は思わず大声を上げ、それに続くように小さく悲鳴をあげた
「おやおや、そんな反応をされるのは新鮮ですねぇ。最近のスターゲート職員は血を見慣れ過ぎててリアクションがイマイチなんですよー」
ボサボサ頭の長身男は笑いながらこちらに歩いて来る。いや、黒音はゾンビと見間違えてたけど、確かにこの人顔色がとてつもなく悪い。かけている眼鏡にも血がべっとりと付いていて前が見辛そうだし、足どりもふらふらしていて今にも倒れそうだった。
「博士、とりあえず血を拭いて、そして補充してください。どうせまた出血なされたんでしょう?」
「ご名答! 覚醒したばっかりの『HP-A』に血管をいくつか千切られましてねー。医療ナノマシンが無ければ今ごろ三途の川を泳いでたでしょうね、ハハハ」
オペレーターの一人から呆れ顔でタオルと携帯輸血パックを手渡され、それを笑顔で受け取る男性。シンプルに怖いわこの人。
それより今博士って呼ばれてたけど、もしかしてこの人が俺たちの案内役?
俺の視線を受けて、虹枝さんは身内の恥を見られたかのように居心地の悪そうなため息をついた。
「あいつがさっき名前の出た博士、灰仁
散々な紹介だ。でも間違ってなさそう。見ただけでも分かる。
パッと見悪い人じゃなさそうだけど、血管が切れても笑ってるなんて、さすがにイカれてるって言われてもしょうがないよな……。
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