第60話 暫定的和平条約
リーダーの彼に続いて、後ろに控えていた四人のアーマー人間も顔を見せた。当たり前だが全員大人の人達。彼らのこの行いは、敵意がない事の現れなのだろうか。俺はそう捉えたいが、シオンやアカネ、そしていつの間にか降りて来た
「話とは何だ。大人しく死んでくれと言うのなら全力で反撃するが」
明らかに信用していない様子のシオンの鋭い言葉にも、リーダーは物怖じしない。大人の男性らしいしっかりした声で答えた。
「君達に武器を向けるつもりはない。むしろ逆だ。私達は君達と交渉しに来たのだ」
「交渉って……?」
「私達スターゲートと、協力してほしい」
リーダーの男性から出た驚きの提案に、俺達は息を呑んだ。まさか一度襲って来たあちら側から、協力の申し出が来るなんて。
「……どういう風の吹き回しだ? 邪魔者を排除し自分達だけで安全圏に籠りきりなお前達が、民間人に協力を乞うなんて」
虹枝さんは訝し気に問いかける。
彼女の言う通り、スターゲートは虹枝さんや子供たちを殺すという形で秘密を守ろうとする組織だ。なのに俺達みたいな素性の分からない人と手を取り合うなんて、確かに不自然だ。
「今までのスターゲートなら考えられない提案だという貴方の意見ももっともだ。事実、貴方たちの殺害命令を出した時まで、司令官の考えも今まで通りのものだった。こんな世界で何の役に立つかも分からないまま、『機密を守り続ける』という事を目的にしていた」
リーダーは静かに語りながら、不意に俺と
「その方針が変わったのは、君達と戦った時だった」
「え、俺たちと……?」
「君達は私達ヤタガラスにとって、今までにない強敵であると同時に、この状況を打開する希望の光に思えたんだ」
希望だなんて大袈裟だと思うが、リーダーの彼は真面目に話しているようだ。
「正直に言って、私達の要求は君達の力を利用したいと言っているようなものだ。君達と正面からぶつかり合っても、私達はまず勝てないだろう。だからこそ君達と協力してゾンビを滅ぼし、より良い環境にするべきだと私は思う」
驚いた。まさか俺と同じような事を、スターゲート側も考えてたなんて。
「そしてこれは、今のスターゲートの総意でもある。現トップの『ゲートリーダー』も私の提案に賛同し、今は君達の力を借りる方向で話を進めている所だ」
そのゲートリーダーってのがスターゲートのトップらしい。彼の言う事が本当なら、スターゲートはもう俺達の敵ではなく、味方になったのか。
「どうするよ、シオン」
俺が声をかけると、隣にいるシオンは何かを考えるような間を開けて、リーダーに尋ねた。
「知ってるとは思うが、俺達はサイト01から脱走した。本来なら処分対象だ。そんな俺達を受け入れるのか?」
「それについては保障しよう。君達の超能力は立派な戦力でもある」
「……そうか。まあ、疑い続けてもキリがないか」
シオンは小さくため息をついた。それから、鋭い眼差しを刺す。
「その言葉、噓じゃないな?」
「ああ」
ここにいる誰しもが、スターゲートに対して悪印象を抱いているだろう。だが利害が一致する今は、感情を押し留めて手を取り合う。守るべき人たちのために、最善の手段を選ぶ。そんな選択が出来るほどに、シオンは大人だった。
俺もただ疑ってるだけじゃ駄目だな。
* * *
戦いになるかと思って上階で待機していた
そうして俺達は、ヤタガラスが手配した軍用の大型長距離輸送機でスターゲート本部へと赴くことに。20人以上乗っても広々スペースのある大きな輸送機だった。これもスターゲートの超技術によるものか、飛行中の振動や騒音は感じない。快適な空の旅だ。
「すごい……私、飛行機に乗ったの、はじめてです」
「私もだよ。綺麗だねー」
黒音と双笑は窓に張り付いて外の景色を眺めている。こんな状況で空の旅を楽しむ余裕があるとは……さすがだな。
まあ、二人の気持ちも少しは分かる。俺だって空からの景色を見てるとワクワクするし、乗ってるのが軍用の厳つい輸送機だと分かってても、楽しくないと言えば噓になる。
時折雲の隙間から見える地上の景色は、パッと見ればゾンビパンデミック発生前とほとんど変わらない。ガス漏れや爆発事故があったのか崩れた建物もたまに見かけるけど、ほとんどの建物はそのままだ。ゾンビによって変えられたのは、人間の数だけなんだな。
「そろそろ到着だ」
怖がる子供達を気遣ってか、少し離れた場所に座っていたリーダーがそう言った。
やがて見えて来たのは、都心部の大きなビル群。その内のひとつ、何の変哲もない高層ビルの近くには自衛隊基地のような開けた場所があり、そこに輸送機は着陸した。敷地内には人もゾンビもおらず、だだっ広い敷地に倉庫やテントなどの建物が点々と建っているだけだ。
そこから安全な敷地内を歩く事しばし、大きなビルの傍へと到着した。
「うわぁー、でっけぇ」
「この中にスターゲートの本部があるんだね」
「ああ、コレはフェイクだぜ」
かなり高いビルを見上げる俺と双笑へ、ヤタガラスの一人――金髪の青年がそう言った。
「あそこには重要度の低いものばっか保管されてんだ。中はスッカスカ」
「なんでそんな事を?」
「そりゃ、他の組織とかの襲撃を想定してさ」
襲撃。スターゲートの持つ超技術や武器なんかを狙ったものだろうか。他の組織からの襲撃なんて、フィクション以外でもそういうのあるんだ。
そして目的地として目指していたビルが偽物なのだとしたら、本物の本部はどこにあるのか。それはやはりというか何というか、地下だった。下部サイト01もそうだし、シオンたち曰くサイト01も地下にあったらしい。
スターゲート、地下ばっかだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます