第59話 黒い風が吹き抜ける
「
そんな中、俺が休憩もかねて皆の飲み物をリュックから取って来た時の事だった。テーブルを挟んで向かい合わせで座る蒼とシオンの間には、ただならぬ空気が漂っていた。
蒼の言葉に、シオンは耳を疑うかのような反応をしている。表情が銅像のように動かないあのシオンが、驚きからかほんの少し顔が険しかった。
一体、何の話をしてるっていうんだ……?
蒼はそんなシオンの紫の瞳を見て、口元に意味ありげな笑みをたたえながら言う。
「ふりかけと呼ばれる物を白米にかけるとね、美味しいんだよ」
本当に何の話をしているんだ。
俺は取って来たペットボトルを抱えながら、無言で続きを聞いていた。
「そんなものが……? 俺たちが施設を出て初めて食べた白米は物凄く美味かったんだが、更にあれを美味しくする必要があるのか?」
「毎日食べると飽きちゃう人もいるんだろう。とにかくふりかけには無数の種類があってね、白米に振りかけるだけで、自分好みにアレンジできるんだ」
「……スターゲートの外にも、恐ろしい事を考える奴がいたもんだな」
「ちなみに、君達が施設で見つけて食べたって言うご飯はインスタントのものだろう? 炊飯器で炊いた米はあれの倍は美味しいよ」
「それはどうやって手に入る」
シオンが真剣になり出したのでここで止めておこう。いや、外の世界に興味を示す彼らの気持ちを汲むのなら、止めずにやりたい事をやらせる方がいいのか? でも炊飯器の事で頭がいっぱいになられると話し合いが進まなくなるし……。
いくつものペットボトルを抱えたまま俺がもたもたと考え込んでいる間に、ふらふらとどこかへ行っていたらしい
「た、たいへんです!!」
長い黒髪を揺らしながら走って来た黒音は、今までの彼女からは聞いた事もないような切羽詰まった声で言った。
「皆さんが言ってた、スターゲートの黒い人達が……すぐそこまで来てます!!」
「――!?」
驚きの余り抱えていたペットボトルを落としそうになった。
ヤタガラスの奴らが来たなんて……いくらなんでも速くないか!? まだ襲撃を受けてから二日しか経ってないってのに!
「……ッ! シオン!」
一番に行動を起こしたのはシオンだった。彼はこのデパートの中央にある吹き抜けへと飛び込むと、今いる三階から一気に一階へ、重力に身を任せて飛び降りた。
超能力を使ったのか、彼は何の怪我もなくすんなりと着地を決めていた。俺も慌てて異能力を使い、隣にテレポートする。視界内の景色に飛ぶ時はイメージに時間がかからなくて助かる。
続いて飛び降りて来たのは、
「どこから来る……」
シオンは鋭い視線を周囲に巡らせながら呟いた。大きな入口は南北の二か所。黒音がすぐそこまで来ていると言っていたので、こそこそ回り道してるなんて事はないだろう。
「シオン、気持ちは分かるがいきなり飛び出すのはやめてくれよ?」
「……分かってる」
結論こそ出ていないものの、スターゲートへ協力を申し出るという俺の意見は切り捨てられてはいない。だから俺は武器を持たず、話し合いの姿勢で待つ事にした。
そして数秒と経たないうちに、奴らは姿を現した。
「……まあ、五人いるよなぁ」
虹枝さん曰くヤタガラスは全部で五人の部隊。今回はフルメンバーでご登場だ。
全員同じ漆黒のアーマースーツに身を包んでおり、当然表情も読み取れない。機械を相手にしてる気分だ。見た目だけはカッコイイのに、命を取られる危険もあると考えると緊張が止まらない。
「ちょっと待ってくれ。まずは話を聞いてくれないか」
先手必勝だ。奴らが何かしらの動きを見せる前に、俺は片手を突きだしてストップをかけた。今はどうか近寄らないでくれという意思表示。あんまり近いと怖くて舌が回らないかもしれないし。情けないが、ここは虚勢を張ってでも続ける。
「お前たちは虹枝さんや子供たち、逆らう俺達を排除しようと思ってるんだろうが、俺はお前達と話し合いがしたいんだ。だからいきなり斬りかかるのは止めてくれよ」
意外と話が通じるのか、それとも何か考えがあるのか。奴らはありがたい事に一歩も動かない。これは続けてもいいって事で良いんだな……?
「言っておくけど、戦う覚悟だって出来てるんだからね。向かって来るんなら覚悟して来る事ね」
アカネが後ろで、炎をちらつかせながら何か言ってる。挑発しないでくれよ!? できるだけ穏便にいこうぜ!
「単刀直入に言う。俺達は、お前達スターゲートに協力を申し出たい」
俺の言葉に、一番先頭にいるアーマー人間の顔が僅かに動いた。驚いたのか呆れたのかは分からない。だが少なくとも反応はあった。それだけでも話す甲斐はある。
『なるほど。そちらも同じ意見だったか』
しゃ、しゃべった!
先頭のアーマー人間が一歩前に出ると同時に、頭部を包み込んでいたアーマーがいくつもに分裂し、肩や首周りに固定された。中にいる人間が、見える。しっかりとした顔つきの男性だった。
「私はヤタガラスの
アーマー越しではないクリアな声が耳に届く。落ち着きのある低い声だった。
俺達にいきなり銃をぶっ放した人の声とは思えない。道を尋ねたら普通に教えてくれそうな、頼もしさと優しさの見える声色だ。
「同じ……? じゃあ戦う気は無いんだな?」
「そのつもりは無い。今回は武装は全て置いて来たからな」
俺の確認に両手を広げて頷くヤタガラスのリーダー。どうやらこの前のリベンジマッチをしに来たようではなさそうだ。なら、話って何だ……?
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