第53話 暖かな陽の光
だが外の隠し扉や地下一階の隔壁はすべて破壊されて、実質野ざらし状態。このままここで暮らし続ける事は出来ない。
話し合った結果、計画を早めてサイト01へ向かう事になった。
最終殲滅部隊『ヤタガラス』。
虹枝さんから聞いた話によると、彼らはスターゲートの超技術によって造られた最新鋭の兵器を携えて任務に臨む、組織最強の機動部隊だそう。
変幻自在で自動修復もする漆黒のアーマースーツや、電磁力の力で弾を超高速で発射する近未来銃などの武装も、ヤタガラスだけが使えるすごい武器らしい。
「今回の襲撃の目的は、十中八九私と子供たちだろう。世界がゾンビパニックに陥った今、下部サイトのような末端施設は情報漏洩の危険があるだけで、奴らからしたら生かしておく価値もない。百害あって一利なしというヤツだ」
「機密情報が外に漏れる危険があるから、施設ごと襲ったって事か。人の命を何だと思ってるんだ」
「奴らがいつ戻って来るかも分からない。ならその時が来る前に、ここを去ってしまうべきだ」
俺たちはサイト01へ向けて進む準備をしながら、虹枝さんの話を聞いていた。
サイト01への道のりは俺たちだけでも徒歩一週間前後の計算という地獄のウォーキング。更にずっと下部サイト01で暮らしていた子供たちは長時間の運動に慣れておらず、休憩を頻繁に挟まなければならない。それも加味すればさらに長い旅になりそうだ。対ゾンビ戦闘は問題ないとしても、旅の準備はしっかりしなければ。
「はぁ……俺のテレポートでサイト01まで飛べればよかったんだけどなぁ」
どうやら俺が異能力で生み出したテレポート能力は、実際に行った事のない場所には飛べないらしい。虹枝さんにサイト01の映像を見せてもらったが駄目だった。虹枝さん曰くテレポートの座標設定に失敗すれば壁や床にめり込んで一生出られない、なんて事もあるらしいので、横着するのはやめておこう。
「でも驚いたよ。まさか異能力で異能力を生み出すなんて事が可能だなんて」
「今回のテレポートみたいに多少の制限はあるものの、自由に異能力を生み出せるんだろう?」
「まあ、銃とかナイフとかと一緒で、頭の中でイメージできればだけどな」
「イメージか。上手くできそうかい?」
「バリア張ったりテレポートしたりなんかは比較的簡単だ。あとは隻夢のとか
この下部サイト01にいる八人の子供たちはそれぞれ超能力を持っているらしいし、彼らの能力をこの目で見る事が出来れば俺も生み出せる能力のレパートリーも増やせるだろう。でも、それはしたくなかった。
超能力のためだけに造られた子供たちに超能力を使うよう求めるなんて、スターゲートの連中と同じ事をするようで気分が良くないのだ。超能力に関しては虹枝さんに話だけ聞いて、後は自力でなんとかしよう。
「虹枝さん、ユズハちゃん達の準備も終わりました」
別の部屋で子供たちの準備を手伝っていた
「よし、お前達は少し休んでいてくれ。この作業が終われば私の準備も完了だ」
「虹枝さん、何してんすかそれ……」
研究室の一画で屈みこんでいる虹枝さんは、片手に電動ドライバーを、もう片手には黒いタイヤのような部品を持っていた。
そんな彼女の目の前にあるのは、冷蔵庫四つ分ほどある大きな機械。俺ぐらいすっぽり入りそうなサイズだ。そして俺と蒼が話している間も電動ドライバーをぎゅいんぎゅいん回してた虹枝さんは至極真っ当な顔で、
「持ち運べるようにこいつに車輪を付けてる所だが?」
「何してんすかほんとに! まさかサイト01に持って行く気ですか? こんなバカでかい機械を!?」
「強引な遺伝子組み換えをして造られたあの子たちは、時折副作用とも言える症状に苛まれる事があるんだ。それを治すにはこいつが必要なんだよ。万が一の時とはいえ、これはあの子たちの為に必要な事だ」
「いざとなれば下部サイト01にならテレポートできますから、そんな機械は置いてってください!」
俺が強く主張すると、虹枝さんは渋々といった表情でため息をついた。ホントにこの人、子供たちの事になると何しでかすか分からんな……。
* * *
サイト01への旅支度が整い、俺達は瓦礫の転がる通路を慎重に通り抜け、外に出た。俺や
「やっぱり外の空気は美味しいねー! 地下に籠ってるとより感じるよ」
「ゾンビも同じ空気を吸ってるって思うと、何か汚く感じますけど」
「それは言っちゃだめだよ」
隠し扉のある車庫から出た双笑と唯奈のそんな話を聞きながら、ふと後ろを振り向いた。そこには虹枝さんの買って来た服を着たユズハをはじめとする八人の子供たちが、言葉も無く立ち尽くしていた。彼女たちは、ただ静かに空を見上げている。
そうか、あの子たちは組織によって造り出されて、ずっと地下で暮らしていたんだ。だから今日、あの子たちは初めて外に出た事になる。
産まれて初めて太陽の光を浴びて、産まれて初めて風を感じているんだ。
「私たち、外に出られたんですね……」
思わず零れたようなユズハの小さな言葉に、一体どれだけの感情が込められているのか、俺には分からない。
ゾンビのせいで人の全くいない都会の景色だが、そこは余計なものが一切無い。ある意味ではこの世界のありのままの姿を取り戻しているのかもしれない。
幸い、景観を台無しにするゾンビは周辺に見当たらない。彼女たちの瞳に映されたこの景色が、良い思い出として人生の一ページに記される事を願うばかりだ。
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