クールな幼馴染と公園
鈴華に誘われ、少し寄り道をする。
見慣れた住宅路をしばらく歩いていると、目の前に小さな公園が見えてきた。
「ねぇ、あのベンチで少しお話ししましょう?」
幼馴染からの提案。
僕は「分かった」と答え、公園に入った。
もう7時を越えていたこともあり、ここで遊んでいる者は誰一人としていない。
ただ、何も言わぬ電灯が夜番の勤めを果たしているだけだ。
「ここにしましょう」
真ん中に設置されている木のベンチに座って、長く息を吐く。
目の前にあるのは、小さい頃に遊んだ数少ない遊具の姿。
全てが久しかった。
「この公園も半年後には無くなってしまうのね」
「……そうなんだ」
それは……悲しい。
今までずっとお世話になった公園だ。
これが昼だったら、もう少し思い出に浸っただろう。
しかし、今はもう夜だ。
聞く準備を整えて、僕は問いかけた。
「それで……お話って?」
わざわざこんな所で話そうと言うんだ。
余程の案件だろう。
そう思い、隣のいる幼馴染の言葉を待つ。
彼女が口を開いたのは、それから間も無い時だった。
「昔、ここで遊んだのを覚えている?」
「覚えてるよ」
この公園は僕が幼い頃からよく遊んでいた場所の1つだ。
今、隣にいる少女と初めて会ったのもこの公園だったし、それからの日々や彼女の両親が仕事で不在だった時も、よくここで遊んでいた。
鈴華にとって、僕の家が『第二の家』なら、ここは僕たちの記憶だろう。
「それで、それから今までずっと一緒に居たわよね」
「うん……」
昔語りなんて、鈴華にしては珍しい。
しかし、何だこの雰囲気は。
非常にやりにくい。
「それで……ご用件は?」
「貴方なら分かるでしょう?」
スッと顔を上げ幼馴染。
そこには真っ直ぐと射貫くような赤い瞳があった。
そしてその直後、ゆっくりと彼女の口が開いた。
「好きなのよ。 貴方の事が」
「……」
告白。
予想していなかったと言えば嘘にはなる。
フラグもいくつもあった。
朝の様子。
それに結婚雑誌や婚約者と言う言葉。
そしてあの手紙。
あの時は思い出せなかったあの文字。
今思えば、それは幼馴染のモノとそっくりだった。
予想はしていた。
していたけど、実際にその場になると困惑する物だった。
心臓はドキドキするし、上手く言葉が出ない。
さまざまな感情が心に姿を現す。
嬉しさ。
驚き。
戸惑い。
「……どうして?」
──疑問。
確かに鈴華とはそれなりの良好な仲だ。
そうでなければ、性別も性格も異なる僕たちが10年以上も幼馴染をやっていない。
だけど、その関係性は親友というよりも家族と言った方が近いだろう。
だから、どうして恋愛感情になるのか。
僕には分からなかった。
「貴方は……私の憧れだったのよ」
「憧れ?」
一体、僕のどこに憧れがあるのだろう。
学力でも人気さでも彼女の方が上。
自分で言うのもあれだが、僕に憧れる要素はどこにもない。
ただ、彼女はそうでは無かったようだ。
「覚えているでしょう。 小学生だった時はずっと暗かったのよ」
「そうだったね……」
懐かしい記憶。
昔の彼女はいわゆる隠キャでほとんど話す事は無かった。
隣の家に住んでいた僕が声を掛けていなければ、今頃どうなっていた事か。
そのおかげとも言うべきなのか、今では随分と変わってしまったが。
彼女の独白は続く。
「──だから、そんな私を救ってくれた貴方のことが好きなの」
──あの時からずっとね。
頭を下げて、飾らない本当の気持ちを伝えた幼馴染。
冗談でないことは見れば分かる。
逆に、これを本気と受け取らない方が無理あるだろう。
いくら鈴華とは言え、失礼だ。
「……」
目を閉じて考える。
時々、その言動にはムッとはすることはあるが、彼女の事は嫌いではない。
よく揶揄っている鈴華だが、根は真面目で優しい。
いつも朝起こしに来てくれるし、今日だってお弁当を持ってきてくれた。
「……」
考える。
目の前の少女を彼女にするという選択肢。
今までずっと一緒にいたのだ。
ただ、友人から恋人に関係性が変わるだけ。
「……」
俯いている鈴華。
ここまで弱々しい姿を見たのは、久しぶりだった。
しかし、いつまでもこうしている訳にはいかない。
幼馴染は「好き」と言ってくれたのだ。
僕もそれの答えを言わなければならない。
「……鈴華」
そして、彼女の告白に僕は──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます