クールな幼馴染と夜①


夜の住宅街。

街頭だけが照らす道を歩くが、その足取りはとても重かった。


「はぁ……」


何度目だろうか。

数え切れないくらいため息。

フラフラした足取りで、僕は先程の事を思い出していた。


予期していなかった訳ではない。

だが、あまりにも唐突すぎて、想像以上に体力を消費するものだった。


「黒歴史だな」


幼馴染からの告白。

結果から言えば、僕は彼女に「はい」とも「いいえ」とも答える事が出来なかった。

「少し考えさせて」と言うもの。

逃げと言えば、逃げである。


「はぁ……」


今、数えただけでも2回目。

しばらく歩いていると、ようやく見慣れた我が家が見えてくる。

光はついていない。


「今日は……母さんがいないんだっけ?」


今朝、鈴華に言われた事を思い出す。


「……」


正直に言えば、このまま真っ直ぐベットに倒れたかった。

だが、もうそろそろ8時。

一般的には早いだろうが、寝てもおかしくは時間だ。


「さっさと寝よ」


もう一度ため息を吐き、僕は我が家の扉を開けた。

すると──。


「あら、ようやく帰ってきたのね」


「鈴華?」


家の中から聞こえてきたのは、いるはずのない少女の声。

先に帰っていたはずの少女がそこにはあった。


「なんでいるの?」


「あら、居てはいけないの?」


「そうではないけど……」


時計の針も既に8時を回っている。

彼女のご両親が戻ってくる時間だろう。


「でも、門限厳しいんでしょう?」


「大丈夫よ。 今日は特別な日だから」


特別な日?

朝も言ってたけど……。


「とりあえず、お風呂を借りても良い?」


「風呂? ああ、別に良いけど……」


「ご飯はもう作ってあるから。 じゃあ、借りるわね」


ご機嫌が良いのか。

るんるんと有名なクラシック音楽を鼻歌を歌いながら、洗面所に向かう幼馴染。


「あれ? 着替えは?」


「お義母様が貸してくださるらしいわ」


「あっ、そうなんだ……」


でも……たぶんだけど、大きさ合わないと思う。

身長的には同じくらいだけど……。

胸がね……。

本人の前では口が裂けても言えないな。

いや、考えるだけどもアウトだろうけど。


「……寝るわけにはいかないよな」


仕方ない。

スマホを起動し、お気に入りのソシャゲを起動する。

デパートでは、中途半端な所で中断させられていたので、周回のシーンからだった。


「早くオート周回、実装してくれ」


目の前のゲームに対して、そんな不満を呟きながら、慣れた手つきで操作する。

すると、机の上に見慣れない紙袋が置いてある事に気がついた。


「……」


何これ?

お土産?

一旦ゲームを中断し、紙袋を寄せる。

そして、中身を見ようとしたが、そこに入っていたのは1枚の紙だった。

その紙には達筆で『娘をよろしく』とだけ書かれている。


「『よろしく』か……難しいよな」


彼女との関係。

今まではずっと友人として接ていたのだ。

いきなり恋人の関係になれと言われもかなり難しいだろう。

それに鈴華のことは好きだ。

好きだけど、これが異性への好きなのかはまだ分からない。

だから──。


「もう少し時間が欲しいな」


「他には……」と探そうとする。

すると、「全部、冷蔵庫に入れたのよ」と風呂に入っていたはずの幼馴染が声が聞こえてきた。


「冷蔵庫?」


「そうよ。 高級なお菓子だから」


「そうなんだ……」


「じゃあ、良いや」とゲームを再開する。

すると、水滴がスマホの画面に垂れた。


「……ん?」


何だ?

顔を上げると、そこには幼馴染の姿。

黄色のパジャマにバスタオルを肩に掛けている。

まだ風呂上がりなのだろう。

白い肌はほんのり火照っており、下ろしていたロングヘアの黒髪はしっとりとしていた。


「水垂れてるけど……拭かないの?」


「水も滴る美少女でしょう?」


「……ああ、かもね」


何て言っているんだ?

ちょっとよく分からなかったので、素気ない返事をなってしまう。


だけど、内心ではかなりドキッとしていた。

もし彼女が見慣れた幼馴染じゃなければ、かなりまずかっただろう。

そもそも少女の風呂上がり姿なんて、修学旅行でしか見れないほどかなりのレアな場面だ。

鈴華でも少しドキッと来たんだ。

見知らぬ美少女だったら死んでた。


「そう……」


僕の考えが漏れたのか。

「じゃあ」と後ろにいた鈴華は移動して、僕の隣──それも体が密接するくらいの場所に座った。


「……」


近っ……。

いくら幼馴染とは言え、ここまで密着させるとかなり緊張してしまう。

それにさっき告白してきた女の子だ。

いつもよりも心臓の音が激くなっている。


──聞かれて……ないよね?


「どうかしら?」


「どうって?」


……落ち着け僕。

相手は幼馴染。

しかも、あの鈴華だ。


そう暗示して、何かと平常運転させる。

もし、彼女にあるべきものがあれば、即死だっただろう。

しかし、天は二物を与えず、かなり助かった。


「敢えて、貴方と同じシャンプーを使ってみたのだけれど?」


長い髪を腕で流す鈴華。

感想を言えという事なのか。

でも絶対にテンパる気がする。


「……確かに、髪を下ろした姿は久しぶりに見るね」


なんとか言葉にする、

だけど、それは幼馴染の新鮮な姿についてだった。


「大丈夫よ……すぐに見慣れるから」


見慣れるか……。


「それは……ちょっと困るかも」


「あら、どうして?」


「かわいいから……」


あっと思った時にはもう遅かった。

「そう……」と小さく呟く幼馴染。


怒らせちゃったかも。


「ごめん」と声を掛けるが、幼馴染の返事はない。


「鈴華?」


「えっ、ええ。 問題……ないわ」


ご本人はクールな回答をしたつもりなのだろう。

でも、頬はまだ赤くなっていた。

髪下ろしの姿に、可愛らしい態度。


「……」


このままだと不味いかも。

主に、僕がヤバい。

何か雰囲気を変えないと。

そう思った僕は、ソファの横に置いてあった箱からテレビゲームのコンソールを取り出した。


「……やる?」


「へぇ……良いわよ」


──いじわるな貴方はボコボコにしてあげる。

ニンマリと笑う鈴華。


いじわるか……難しいよな。

ただ時間が欲しいだけなんだよ。

それに今だって結構我慢してるんだ。

理性を保たないとすぐにでも襲ってしまいそう。

たぶん返り討ちに合うだけだと思うが。


「じゃあ、始めようか」


「ええ。良いわよ」


端末を起動して、ゲーム開始。

ついつい盛り上がってしまい、気づいた頃には日付が変更していた。

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