クールな幼馴染とお昼②
昼休みの時間もそろそろ半分。
教室にいる大半の生徒は既にご飯を食べ終え、スマホで何かのゲームをしたり、机の上でぐっすりと寝ていたりしていた。
勉強をしている生徒もいる。
そして、僕の弁当もかなり無くなっていた。
残りはおかずがあと2、3品くらいだろうか。
ほぼ食べ終わりと言っても言いだろう。
だけど、弁当の中身が無くなることは無い。
これは断言しても良い。
だって──。
「……邪魔だな」
白米の上に乗っていた赤い玉を箸でつまみ、端っこの方に寄せる。
……母さんめ。
僕が梅干しが嫌いだと分かっていれたな?
心の中でブツブツと文句を言いながら、分別作業をする。
鈴華には「残すな」と言われたが、嫌いなものは嫌いなのだ。
幸いな事に、彼女には気づかれていない。
あとは、隣にいる黒髪のクール少女にバレないように急いで食べ終えれば良い。
そう思ったが──。
「やっぱり、梅干しを残すつもりだったのね?」
「……」
やべぇ、バレた。
おかしいな。
気づかれないと思ったのに。
ただ、こうなると少々まずい。
「……だって、酸っぱいじゃん」
──酸っぱいのは嫌いなの。
なんて、子供じみた言い訳を言ってみる。
見つかった以上はどうしよもない。
ヤケクソだ。
すると、当然のように幼馴染は呆れたようなため息を吐いた。
「そう……分かったわ」
ボソッと呟き、箸を置く鈴華。
何をする気だ?
どんな事をしても、梅干しだけは食べないよ?
「では、こうしましょう」
「うん」
さあ、どうする?
「私が食べさせてあげる」
「はい?」
今、なんて言った?
食べさせる?
彼女の口から出た言葉。
なんだろう。
あれほど騒がしかった教室が一瞬で静かになった気がする。
しかも、彼女の言葉に周囲のクラスメイトもチラリと視線を向けていた。
「だから、私が『あーん』って食べさせてあげるわ。 昔からの憧れだったでしょう?」
「そうだけど……」
──大丈夫よ。 梅干しの酸っぱさなんて、何も感じないわ。
なんて言って、早速、僕の手から箸を取る鈴華。
どうやら本当のやるつもりらしい。
……でもね?
それとこれは全く関係ないと思う。
確かに学生時代に一度は女の子から『あーん』はしてもらいたい。
その相手が美少女なら尚更だ。
鈴華は顔のかなり良い。
出来るなら、やってもらいたい。
だけど──。
「梅干し、か……」
「そうよ?」
その食材が梅干しは……ちょっとね。
せめて卵焼きとかさ、あるじゃん。
いろいろと反論したいが、鈴華はいつの間にか僕の箸で梅干しを取っていた。
「さぁ、口を開けて?あーんよ。 あーん」
そう言って、箸の先にある梅干しを押し付けるように近づける鈴華。
……えっ? マジ?
食べないといけないのか……。
いや、せめて隣にある卵焼きにしてくれよ。
「……ちょっと早く食べてくれないかしら?」
──だんだんと腕が疲れてくるわ。
と少し頬を膨らませる鈴華。
かわいい。
でも、ごめんね?
僕は食べたくないんだ。
特に梅干しは。
大嫌いなんだよ。
声に出して、そう言いたい。
後夜祭の屋上から叫ぶアレみたいに。
絶対に、言わないけど。
「そんなに嫌なら食べなくても良いのよ? その代わり、お義母様に伝えるだけだから」
……ん?
唐突な台詞にちょっと理解が追いつかない。
このまま食べなければ、母さんに伝える?
「ゲーム禁止にされるかもしれないわね」
いや、それは困る。
今は大事なイベントなんだ。
ゲーム禁止は辛い。
「食べないとそうなるわよ?」
「……」
出来るなら、食べたくない。
しかし、時間は刻々と迫ってきている。
「さあ、どうするのかしら?」
どちらも最悪な選択肢。
しかし、どちらかを選ばなくてもアウト。
どうしようかなと思い、チラリと周りを見てみる。
すると、なんと驚き。
大半のクラスメイトが僕たちの事を見ていた。
ある者は微笑ましい視線を向けていて、ある者は僕を親の仇のような視線を向けている。
ただ、ある思いがみんなして一致していたと思う。
──早く食べろよ、と。
「……分かったよ」
是非に及ばずだ。
もう後には引けない。
こうなったら開き直ってやる。
僕は酢っぽいあの感触を我慢して、梅干しを無理やり口の中に入れる。
そして噛む。
何が酸っぱいだ。
そう思って、おもいっきり噛む。
──だけど、耐えられなかった。
酸っぱい!
これだから梅干しは……。
中和させるために、急いでゴクゴクとお茶を飲む。
「あら、酸っぱかった?」
「うっ……」
なんて酸っぱさだ。
このまま流し込んで……。
ゴクゴクとお茶を飲む。
ペットボトルの中身は、あっという間に半分まで減ってしまった。
「どうやら、上手くいかなかったみたいね……ごめんなさい」
「死ぬかと思った……」
出来るなら二度と食べたくない。
そんな事をすると、暖かい手が頭に触れた。
「はい、よく食べられました」
「ご褒美に『えらいえらい』と頭を撫でてあげましょうか?」なんて、まるで小さい子どもを誉めるような口調の鈴華。
僕は即座に首を振った。
いや、辞めてくれと。
周りの視線が怖い。
「ふふ、冗談よ」
教室のチャイムが鳴ったのは、丁度その直後だった。
昼休み終了5分前を告げている。
「じゃあ、次の授業でまた会いましょうね」
「あっ、うん」
次は移動教室の授業だ。
動かしていた席を元に戻し、自身の席へと戻っていく幼馴染。
何処かで「おめでとう」と言うお祝いの言葉と「おのれ!」と恨めしい声が聞こえてきたような気がした。
……気のせいだな。
うん。
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