クールな幼馴染とお昼①
あれからしばらく。
朝礼が終わり、午前の授業が始まった。
眠い。つまらない。
……お腹減った。
三重苦。
早く終わってくれ。
空腹の感覚と共に、そんな思いだけが強くなるだけの午前であった。
ちなみに、授業の合間で訊こうと思っていた鈴華の件だが、結局はぐらかされる結果に終わってしまった。
無念。
キーンコーンカーンコーン。
「気をつけ……礼!」
しかし、何をしてもしなくても時はやがて経つというもの。
3時間も待てば、待ち待った昼休みになる。
教室で授業を受けていた生徒たちが一斉に廊下を飛び出ていった。
おそらく食堂に行くのだろう。
あそこは早い者勝ちの激戦区だからな。
「今日も騒がしいな……」
そんな事を思いながら、鞄を取り出す。
だが──。
……無い。
「……あれ? 何処にいった?」
もう一度、リュックの中を見てみる。
しかし、入れたはずの弁当の姿はそこには無かった。
「……」
マジかよ。
冷や汗が流れる。
弁当が無いと、あと6時間は何も食べれない事になる。
別に死にはしないが、かなり苦痛だ。
ちょっと待って。
焦ってリュックの中を覗いていると、頭上から少女の声が聴こてきた。
聞き慣れたあの娘の声だ。
「何してるのかしら?」
……まずい。
弁当を忘れたなんて言えば、絶対に煽ってくるだろうな。
そんな事を思いながら、リュック漁りを続ける。
すると、頭に何か温かい物が置かれた。
「これを探しているのでしょう?」
「ん?」と顔を上げる。
そこには小さな鞄を持った鈴華の姿。
そして彼女の手にあるのは、毎日目にしている青色の風呂敷である。
「……何でそれを持ってるの?」
おかしい。
今頃、リビングの机の上にあるはずだけど……。
「貴方がリビングに置き忘れたのよ?」
呆れたような口調の幼馴染。
彼女曰く、急いでいた僕はどうやら弁当を忘れてしまっていたらしい。
……マジかよ。
でも、おかしい。
確かに入れたと思ったんだけどな……。
まっ、あるなら良いや。
「ありがとう……でも、登校中に渡してくれてもよかったと思うよ?」
「貴方のお義母様が電話で仰ったのよ。 『弁当を忘れたあのバカには渡さなくて良いよ』ってね」
……えっ?
あの母さんが?
彼女の言葉にちょっとショックを受ける。
「でも、それだとお昼が食べられなくて辛いでしょう? だから、秘密に持ってきたのよ」
ふふっと微笑む幼馴染。
……本当かな?
どうも信じらない。
だけど、持ってきてくれたのは事実。
僕はもう一度「ありがとう」とお礼を述べた。
「残すのはダメだからね」
「うん」
彼女は別の手に持っていた同じ柄の風呂敷を机の上に置く。
唯一異なるのは、布の色だけ。
彼女の風呂敷は赤色だったのだ。
「じゃあ、失礼するわ」
近くの席から拝借しただろう。
彼女は椅子を置くのだが、少し変だった。
「……そこに座るの?」
「あら、ダメなの?」と質問に質問で返された。
「別に、ダメでは無いけどよ……」
なんでここ?
前の席とかあるじゃん。
わざわざ隣にしなくても……。
驚いた事に、鈴華は僕の真横に座ったのだ。
1人用の机に2人がギシッと座っている。
とてもではないが、窮屈だった。
それに……。
「それとも貴方の事だから、何かいやらしい事でも考えているのかしら?」
「いや、考えてないよ……」
確かに服が触れてしまうし、彼女の暖かさが布を通して伝わってくる。
気を抜いたら、危険だ。
でも、そんな考えた時点で、痛い目に遭うだろう。
それに鈴華だからな……。
普通の女の子と比べると無いのよ。
何をとは言わないが。
「何か言ったからしら?」
「いや、何も」
彼女の十八番とも言うべきだろうか。
勘が鋭い。
まあ、良いや。
そんな事よりもお腹減った。
早く食べたい。
「まあ良いわ。それではいただきましょうか?」
「そうだね」
風呂敷から弁当箱を取り出す。
「いただきます」
偶然か、あるいは意図してか。
珍しく声が重なった瞬間だった。
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