クールな幼馴染と結婚雑誌


学校に着けば、そこにはいつもの光景が広がっていた。

ガヤガヤとした朝の教室。

ある者はクラスメイトの友人と楽しく語り合い、ある者は1年後に控える大学受験の勉強に集中している。

何度も見ている光景だ。

何も変わりない。


「あっ、おはよう」


クラスメイトの1人が挨拶をしてきた。

僕も「ああ、おはよう」とお返しする。


「今日もギリギリだね」


「マジ?」


クラスメイトの女の子に指摘され、時計を見てみる。

丸い縁の中にある針は8と15の数字を指していた。

遅刻の門限が8時20分。

確かに、ギリギリだった。


「じゃあね」


「うん」


教室の中に並ばれたいくつもの机の間を通り、自分の席に向かう。

僕の席は1番窓側。

ラノベやアニメなどで、よく主人公が座る席だ。

実際に、授業中にグランドを見ることも出来るし、ボケっと空を見て黄昏れる事も出来る。

ただその反面、夏は強い日差しのせいでとても熱いし、光が耳に当たってだんだんと赤くなる事も多々あった。


机の脇のリュックを掛け、ドサッと椅子に腰掛ける。

すると、坂道で別れた幼馴染の姿が目に入った。

生徒会じゃなかったのか?

生徒会の仕事はかなりあるため、特別に朝礼に遅刻しても許される事がある。

今日も仕事があるから早めに学校に行ったと思っていた。

でも、どうやら違うみたいだ。


しかもだ。

よくよく彼女を観察してみると、何かの本を読んでいるようだった。


何の本だろう。

いや、まず本にしてはかなり大きい。

手から比較するに、A4サイズはある。

とすると、何かの雑誌か?

……気になる。


僕は席を立つと、そのまま彼女の所に向かおうとする。

だが、そこで足が止まった。

いや、止まってしまった。


目を大きく開けて見てみる。

そこに描いてあるのは、『結婚雑誌』の4文字。

しかも、彼女は嬉しそうな表情でそれを読んでいた。


「……」


えっ?

いや……何で結婚の雑誌を?


寝ぼけているのか?

そう思い、目を擦る。

しかし、景色は何も変わらない。


「……」


驚き半分。

不安半分と言った所か。

鈴華が結婚の雑誌を読むなんて。

全く恋愛に興味が無さそうなあの鈴華が、だ。


……どうして?

少し気になっていた感情が、どんどん肥大化する。

僕は真っ直ぐ彼女の席に進み、そして「やあ」と肩を叩いた。


「──っ!」


バタン。

大きな音を出しなら、思いっきり雑誌を閉じる鈴華。

まるでいかがわしい本を読んでいる子供が、急に母親に声を掛けられたような反応だ。


「……来てたのね」


いつも通りの口調。

だが、その声がどこか焦っていた。

しかも、さっきまでの余韻なのか、顔はまだ赤い。


「結婚……興味あるの?」


「なっ……貴方は何を言っているのかしら?」


──おかしくなったのかしら?

まるで何も無いような口調で答える鈴華。


でもね?

鈴華さん。

キミは気づいていないかもしれないけど、腕の間から雑誌のタイトルが見えるのよ。

そこには思いっきり『結婚雑誌』って書かれてある。


「そこには、結婚雑誌ってあるけど……」


指さしで、僕が指摘すれば、彼女は更に覆い隠すように腕をくっつけた。

そして──。


「……友達が貸してくれたのよ」


絶対に嘘だ。

あからさま過ぎる。


しかもだ。

指をモジモジ。

黒い前髪をクルクルッとしている。

どう見ても嘘を吐いている行動だった。


それに、ぷいっと横に向けている顔はまだ赤いまま。

それでも彼女は、嘘を押し通すように淡々とした口調で説明を続けた。


「私と貴方って昔からの幼馴染で仲良いでしょう? だから、友達が後押しの為に貸してくれたのよ」


一見あり得そうだ。

でも、後押しならもっと恋人らしいの。

それこそデートとかあっち系の本を貸すと思うの。

いきなり結婚は早すぎる。

だから、僕はやる行動は1つ。


「……」


「……信じてないのね?」


「……」


何も返事をしない。

鈴華が何を言っても、ずっと口を閉じている。


そうすれば、彼女は自ずと答えてくれるからだ。

今までも大体そうだった。

クールに見える彼女だが、こういう戦法には弱いのだ。


だから、今回もそれを狙おう。

そう思った僕だが、今日は運が悪かった。


時間切れとでも言うべきだろうか。

キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴ってしまったのだ。

教室の扉がガラガラと開き、「席につけー」と担任が入る。


「じゃあ、また後にしましょう」


「……」


絶対に逃げる気だな。

そんな事を思いながらも、僕は自分の席に戻っていった。


──昼休みにゆっくり聞こう。

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