長い1日
一緒に戦ってほしいと言われても……。
困惑しているとウサミーが
「何も矢面に立って欲しいとは言わないッキュ…サクラが多少まともに戦えるようになるまでサポートしてくれるだけでいいッキュ」
「いや、サポートと言われてもそんな都合の良い魔法なんて知らないし…」
そもそも僕は独学で魔法を学んだソロプレイヤーだ。いきなりパーティープレイ、しかもサポートをしろと言われても難易度が高すぎる…。
ボッチの
「うーん…ウサミーが思うに、サクラ達は相互理解が足りてないッキュ。サクラが何を出来て何が出来ないのか。カイトが何が得意で、何を知らないのかよく話し合う必要があると思うッキュ」
「
「平たく言えばそうッキュ、ただ普通に友達になるよりもお互い目的を持って親睦を深めた方が効率的だッキュ残念なサクラのおつむではそこまで理解できてなかったみたいッキュ」
「ん?僕の名前知ってたの?」
「圧縮袋にいても会話くらい聞こえるッキュ」
すごいな妖精…なんでもありか。
清河さんには散々だな本当、妖精のくせに言葉に毒が混ざってやがる。
圧縮されてること根に持ってないか?
そもそも協力するとは言ってないのに、当たり前のようにサポートされる気でいるのも気に食わない。
「僕、協力するとは言ってないよね?」
「きっと協力したくなるッキュ!」
「どういうこと?」
何か策でもあるのだろうか。
「サクラは何も感じなかったッキュ?魔法少女だと聞いても顔色ひとつ変えずにウサミー達の話を聞いてるッキュ、普通の人ならまずそこに突っ込んでくるはずだッキュ…つまり魔法少女という存在は知っているはずッキュ」
「…そういえば」
清河さんは今までの僕との会話を振り返っているように思い出している。
「極めつけはウサミーの存在だッキュ、妖精と聞いてもスルーだし召喚獣の存在も知ってそうだッキュ…今までコスプレだの趣味だの言って一般人を気取っていたのにッキュ」
「高嶺くん…本当に?」
そうだね…知ってたよ前世の記憶あるし。
というかそんな深刻そうに話すことか?
ちょっと調べればわかることだよ?
「さっきの魔法技術も半端じゃないッキュ、普通の魔法少女なら数年の訓練を積めば出来るッキュ」
「じゃあ私も…」
「サクラは無理ッキュ」
バッサリ…
さっきから清河さんの扱いがひどい。
「数年で済むのは魔法少女だからッキュ、ウサミーのようなサポート妖精もいない一般人は、いくら才能があったとしても
「え?そうなの!?」
エッ!?そうなの?!
僕は幼少期に友達と公園で遊んでいた記憶を思い出していた……アレが訓練だったのか…?
普通にブランコや滑り台で遊んでいただけのような……?
「だからこそ、カイトには魔法少女関係で過去に何かあったと考えてるッキュ…魔法少女でもない普通の人間が今も魔法を鍛えている理由、しかも自分を一般人だと偽って生活する理由があるはずだッキュ!もしかしたら、ウサミー達がカイトの過去の問題をどうにか出来るかも知れないッキュ!」
「そう言うことだったの?ウサミー!」
そうだったのかー!
びっくりした表情をしていると清河さんもびっくりしていた、なんで?
…どうしよう、ドヤ顔ですごく見当はずれな予想されてる…勝手に壮大な過去を持つストイックな魔法使いだと思われている。
魔法が使えたのはたまたまだし、悲惨な過去なんて一つもないんだけど……。
「どうッキュ?ウサミー達に協力してみたくなるッキュ?」
したり顔で、まるで名探偵が犯人を追い詰めたかの様な雰囲気を出されてる。
全部違うんだけどー。
ここまで推測されると否定するのも可哀想になってくるなぁ。
「高嶺くん……」
清河さんは
『私たちが一緒に解決してあげるよ』って顔だ。
そんな顔されても無いものは無いし…でも否定してこの雰囲気をぶち壊してしまうのも怖いなぁ……。
誰かが言っていた。勘違いを正そうとしないのは嘘をついているのと同じだと…。
「うーん……」
僕は悩みに悩んだ…ここで本当の事を言ってしまえば、今までこんこんと語っていたウサミーを蹴り落としてしまう気がするのだ。
罪悪感が心を揺らす。
個人的にはウサミーに思い入れなんて全く無いのだけれど、さっきまで圧縮袋に入っていた妖精の努力を僕は知ってしまった。
僕は彼(?)の考察をどうしようもない現実でぶった斬りたくない…。
むしろよくここまで想像したものだと褒めてやりたい。
こんなに頑張っているんだから気持ちよく帰って貰いたい。
「……僕にはやらなきゃならない事がある」
真顔で嘘をつくことに決めた。
不思議と罪の意識なんてなかった。
むしろ『もうどうにでもなれー』と思考を放棄して話の流れに身を任せた。
このまま勘違いしていた方が面白そうだし、バレたところで大したダメージも無いだろう。
実は何にもありませんでしたー!なんて言われたら僕だったらどう思うだろうか。
少し怒るけど気にしないかな。
うん、大丈夫でしょ。
ウサミーと清河さんはゴクリと唾を飲んで次の言葉を待っている。
え?その先も言わなきゃダメ?
ちょっと待っててね、悲しい過去がある壮大な
えーっと…えーっと………。
「倒さなきゃいけない奴がいるんだ…」
「やっぱり」
やっぱり?やっぱりって言ったよこの子。
清河さんは何を確信していたの?!
どんな奴なのか是非教えてほしい。
「それはカイトの一生を賭けても倒さなきゃならない相手ッキュ?」
「一生…僕が生きている間には無理かも知れない」
一生探してもそんな人見つけられないからね。
そもそもいないんだから。
「でもやり遂げなきゃならないんだ、絶対に」
倒置法使うと強い決意がある風に聞こえるよね。
「今は詳しくは聞かないッキュ…でも協力できる事があれば遠慮なく言ってほしいッキュ!サクラはポンコツだけど…きっと魔法少女にしか出来ない事があるッキュ」
圧縮されてること根に持ってるだろお前。
そしてウサミーにも励まされている…2人して一体どんな想像してるんだ…。
「色々と察してくれて助かる、でも君たちの手を借りるかは少し考えさせて欲しい」
「それは……答えが出るまでは魔法を教えてくれないのかな…?」
清河さんは控えめに、だが困った様な顔をして聞いてきた。
どうしようかな…ノリで僕に暗い過去があるっぽい流れになったけど…何のメリットも無いんだよなぁ…ぶっちゃけると教えるとかめんどくさい、家でゲームしてたいっていうのが僕の本音だ。
「今日はせめてこの臭いだけ…これだけどうにかして欲しいの、じゃないと明日からなんて言われちゃうか」
清河さんの表情は絶望に染まり切っていた。
今日来ただけでも充分すごいと思うんだけど…
その勇気があれば明日も大丈夫では?
「ウサミーからもお願いするッキュ…そろそろ限界だっッキュ」
「妖精も匂いとか気にするんだ…」
臭いの原因が魔力だと知っているからお願いされなくても取ろうとは思ってたよ。
僕は両手の手のひらに密度の異なる魔力の層を幾重にも集積させる。
そのまま両手をと合わせると、反発し合う魔力から魔力波が発生する。
薄い魔力層の中を何回も反射させて波長を重ね合わされた魔力がパチンという音と一緒に広がった。
周囲一帯が僕の魔力情報で上書きされる、まるで世界の中心にいるような感覚を味わえるが一瞬で塗り替えられて元に戻った。
「はい、これで臭いは消えたでしょ」
清河さんは自分の服をくんくんと嗅いで確かめる。
「……消えてる…消えてるよ!ありがとう高嶺くん!やっぱり魔法ってすごいね!」
「そだねー」
「今のは魔法…というより……」
キャッキャとはしゃいでいる清河さん。
大した手間ではなかったから良いけど、本当は自分でやるんだよ?
ウサミーはキュッキュ言いながら首を傾げている、首…?ほぼ2頭身のウサミーに首はなかった。
「返事は数日後で良いかな…ゆっくり考える時間が欲しい」
僕の設定とかも練り直さないと…!
勢いで嘘ついちゃったからとても面倒なことになっているし、このまま会話を続けていたらすぐにバレかねない。
「じゃあウサミー、私たちも帰ろうか」
「ぅ……またこの中に入るッキュ?」
清河さんは満面の笑みを浮かべながら圧縮袋を取り出した。
「ウサミー圧縮するの…?ここで?」
「うん、かさばるし目立つでしょ?」
清河さんはカバンから取っ手のついた細長い吸引機を取り出した。
あぁ…手動式の圧縮だったんだ…、てっきり掃除機使ってたのかと思ってたよ
ウサミーをぎゅむっと詰めて吸引機をセットした。
シュコシュコシュコシュコシュコシュコ………
公園に響く手動ポンプの可動音、ウサミーの詰められた袋が着実に薄くなってきている。
シワが……すごいことになってるよ清河さん
一方のウサミーは。
「あっあっあっ………あっあっあ……」
圧縮される度に肺から無理矢理空気を吸い出されているかのような小さい悲鳴をあげていた。
「ねぇ大丈夫なの?!ウサミーすごい表情してるよ?」
「いつものことだから大丈夫!ウサミーってば大袈裟なんだよー」
シュコシュコシュコシュコ…
「あっあっあっあっあっ……」
全然大丈夫そうな声に聞こえないよ!めっちゃ苦しそうだよ!?
本当に大丈夫なの?!
「あっあっ………あっ…………」
「ウサミー?ウサミー!!」
ついにウサミーの声が聞こえなくなった。
そして元通り(?)のペシャンコ状態になっていた。まるで干物だな…。
臭いが消えた綺麗な清河さんは満足そうにウサミーを鞄にしまう。
「じゃあ…また何かあれば連絡しますね」
「あ…ハイ」
連絡先知らないけど。
その後は清河さんとさらっと分かれた。
なんだかすごく疲れたなぁ。
結局、一緒に戦うのは保留になった。
保留というか、返事してないだけなんだけど。
色々と濃い1日だったなぁ…。
家に着いた僕は早速風呂に入って今日の疲れを癒した。
両親は先に帰宅していた、先に学校の説明会が終わっていたらしく昼ご飯は食べ終わっていた。
僕は昼食を簡単に済ませて自室に戻る。
「はぁ…疲れたなぁ……」
と言いながら携帯ゲーム機を取り出してグダグダとしていた。
怠惰に過ごしていると時間の経過が早い、いつのまにか夕食を終えて夜の1時になろうとしていた。
「もうこんな時間か…」
1日の半分以上はゲームして過ごしていたけど、なかなか濃い日だったなぁ…。
部屋の電気を消して布団に入る。
少し深い呼吸をして目を閉じたところで外から笑い声が聞こえてきた。
こんな時間になんだ?
「ギュハハハハハハ!!」
僕の長い1日はまだ終わってくれそうになかった。
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