え?僕も一緒に戦うの?


 僕が盛大に自爆した後、クラスでの自己紹介が始まった。

 皆んなが無難に自己紹介を終える中、ついに僕の番になってしまった。


高嶺快斗たかみねかいとです、東中から来ました。趣味は特にないです、よろしくお願いします」


 あまり目立たず、みんなと同じくらいのテンションで簡単に終わらせた。

 パチパチとまばらな拍手を聞きながら席に着いた。


 ここでもう少し自分史を振り返る。

 なんとなく覚えている程度でしかないが、僕には前世の記憶がある。

 3歳の頃、テレビに映ったニュースのテロップにデカデカと『魔法少女?』の文字を見た。

 真面目な顔したコメンテーターとシュールな絵面を見て違和感を覚えたのだ、それから走馬灯のように前世の日本で暮らしていた自分を思い出した。


 この世界では魔法少女が当たり前のように存在している、そしてもちろん不思議な力も当たり前にある。



 彼女達の活躍は前世のように毎週日曜日から放送されていたりはしない、プライベートもあるだろうし毎週女の子の日常を追いかけるようなメディアは存在しないのだ。


 前世を思い出した3歳の僕は興奮した、涎垂らしてあばあばと興奮していた。

 この世界には魔法がある、それ以外にも不思議な力が溢れている!

 僕は魔法少女の活躍を調べまくった、魔法を使うヒントを得たいと思ったからだ。

 彼女達の活躍は地元の新聞やネットニュースの小さい記事に上がるくらいの情報しか得られなかった。それもそうだ、人知れず悪と戦う主人公なのだから。


 情報収集のおかげで、魔法使ったり大地の力を使ったり、たまに人の心の力を使う魔法少女がいることに気が付いた。


 まあ、気が付いてもどうしようもない。

 魔法の使い方のヒントは新聞にはないのだから。


 僕は必死で修行した。

 公園で走り回り、ブランコに乗って飛距離を競い、砂場で芸術性を高めていた。

 たまに友達と喧嘩をしながらも楽しく遊具を使い分けていた。


 何年かしたら自分の中に魔力を自覚出来るようになった。本当になんで?と思ったけど気にしないことにした。


 僕は親戚の叔父さんが経営しているという古武術の道場の門を叩く、魔力を秘密にしながら身体を鍛えていたのだ。

 数年経つと何故か大地の力も使えるようになったのだ、僕は全能感に支配された。

 ついにこの世界の不思議な力を全て手に入れたのだ!

 しかし、同時に気付いてしまった『この力を持って何をしたかったのか』と。


 魔法も大地の力も、なんでも出来るように見えて意外と制約が多いのだ。

 瞬間移動が簡単に出来る訳じゃないし、重力に逆らって浮かぶなんてかなりの高等技術だ。

 自由使えるのは身体能力が精々で、筋力を向上させたり、治癒を早めたりと地味なものが多い。



 しかし、テンションが上がるとビームを出せる。



 …今でも謎だけど僕もビーム出せたし、原理も不明だ。

 まぁ、魔法少女のいる世界だもんなぁ…ビームの制約くらい低くなるか…?

 そんなこんなで叔父の道場は半年前に潰れて、晴れて自由の身となった僕は高校生活を存分に謳歌したいと思っている。



 つまり、何が言いたいかと言うと。

 僕は少し不思議な力使えるただの一般人の高校生だ。

 小学、中学と貴重な青春時代を無碍してしまった感は否めないが、そんなの今からでも取り返せるはずだ。

 魔法と引き換えに社会性が無くなったと考えればなんとでもないさ!





 しばらくして数人の自己紹介が終わり、チラリと横を見ると魔法少女が立ち上がった。


清河桜きよかわさくらです、出身中学は広陵こうりょう女子です。今日は……色々とご迷惑をかけていと思いますが、はやくみんなとお友達になりたいです。…あ、趣味はお菓子作りです、よろしくお願いします!」


 鈴の鳴るような透明感のある透き通った声だった。

 凛とした態度とは裏腹に、言葉の端端に羞恥心が散りばめられていて庇護欲ひごよくを唆る、男子生徒からの視線が熱くなりそうだった。この臭いさえ無ければ。


 女子中から来たというのも珍しい、付属の高校に進学しなかった理由はわからないが、どう見ても完璧美少女だ。この臭いさえなければ。

 どうして僕の周りにいる人は残念なのが多いのだろう。


 クラス全員の自己紹介も終わり、解散の時間だ。


 僕は帰る準備を終えてのっそりと席を立った。

 今日は早く帰って睡眠をキメたい気分だぜぇ…


「あの……」


 清河さんが僕に話しかけていた。

 いや、本当に僕なのか?

 もしかしたら僕の後ろに彼女の知り合いが居るのかもしれない。

 ここで返事をしてしまったら自意識過剰男としてクラス中に知れ渡ってしまうのではないか?


 咄嗟に清河さんから視線を外し後ろを振り向いた。


 …ん?窓しかないなぁ。


「あの…!あなたです!高嶺くん私のこと覚えてますよね?」


 清河さんが一段と声を張って僕を呼んでいる。

 なんだろう、呼び止められる心当たりなんて無いのだが…。


「覚えてないッキュ!」

「それぇ!それです!」


 えぇ…やっぱり昨日のこと?

 僕の中では忘れたい出来事ランキングの上位にあるんだけど…できれば関わりたくないんだよなぁ。


「快斗帰ろうぜ……って、もう友達できたのか?しかも女子じゃん」


 清河さんと関わりあぐねていたら慎哉しんやが声をかけてきた。


「どうも、快斗の友達の戸田慎哉です」

「ええと…清河桜です」


 2人は簡単に挨拶を済ませていた、このままの流れで帰宅できたら良いんだけど…


「ああ、今帰るよ」

「清河さんと話してたんじゃないの?」

「もう用事は済んだから」

「済んでません!」


 解放してほしい、というかぐいぐい来るなこの子。


「済んでないってよ、お前が女子と話してるなんて珍しいな…何かあったのか?」

「いや、今日は特になにも…」

「今日は?…もしかして今朝言ってたアレか?」


 清河さんはうっ…と引いてしまう。

 他人には聞かせたくない内容だよなぁ…あんな格好して深夜で騒いでいたんだもの。

 魔法少女だってことも秘密にしたいのかな。


「あの…ちょっと…」


 慎哉の質問をスルーして清河さんが僕の側に寄ってきて耳打ちしてくる。くっさ…


「まさか…昨日のこと…誰にも言ってませんよね?」

「言ったけど…?」

「〜!なんで?!なんで言っちゃったの?!」

「なんでも何も、秘密にしてとは言われてないし…」

「ああああぁぁぁぁ」


 清河さんが頭を抱えてうずくまってしまった。

 やっぱり秘密にしたかったのか…でもそうなら別れ際にひと言伝えてくれれば秘密にしたのに…。

 落ち込んでる女の子を放っておく趣味もないし、ここは軽いフォローでも入れておくか。


「大丈夫だよ清河さん、伝えたのは慎哉だけだから…その、そういう趣味って人それぞれだと思うんだ」


 僕はあくまでも魔法少女の存在を知らない一般人というスタンスで接することにしている。

 日々何かと戦っているのに、部外者からの過干渉は良くないと思っているからだ。

 そもそも魔法自体がおおやけにされている訳ではないし、僕が知っていた方がおかしいのだ。


 まぁ、一般人の僕が頑張って調べればわかるくらいだし情報統制なんてされていないかも知れないけど。


「だから趣味じゃないんです…」

「高校生にもなってあの服はどうかと思うけど…」

「うわぁぁ…心をえぐってきたぁ…」


 清河さんは顔を赤くしたり青くしたり百面相な表情を見せてくれる。

 今は涙目になりながらプルプルと震えている。


「あぁ…快斗と清河さんの態度でなんとなくわかったよ、清河さんは快斗に話があるんだろ?」


 慎哉に何かを察されてしまう、まあそうか。

 2人でコソコソ話していたら何かあると思うだろうなぁ。


「それにしても清河さんがなぁ……そうかぁ…」

「うっ……あの……私のことなんて聞いてたんですか?」

「あー…」


 慎哉はチラリと僕の方を見てすぐに清河さんへと視線を戻した。

 なんだよ?ボロクソに言ってたなんてことないよね…ないよなぁ……?


「ノーコメントで」

「……そんなに失礼なことを…?」

「そんなことないって…あ!俺は先帰ってるから…じゃあな!」


 慎哉はあっという間に教室から消えてしまった、残された僕は清河さんから突き刺さるような視線を受けている。


 清河さん…失礼なこと言われて怒ってるみたいだけど。

 本当に失礼な事をしてたのは君らだからね?

 僕が怒られる筋合いないよね?……ないよね?


 僕は彼女の視線を受け流し、鞄を肩にかけて帰る準備を再開する。


「あ、ちょっと待って」

「まだ何か?」

「まだ何も話してないよ!」

「何を話すってのさ」

「それは……昨日の…アレだよ」

「知らないッキュ」

「それよ!」


 清河さんはムキー!と怒りながら僕を止めてくる、見た目は大人しそうなのに結構ノリがいい人なんだなぁ。臭いさえなければ本当に良いのに…。


「とりあえず…誰もいない所で話そう?」


 清河さんの目からハイライトが消えていた。

 あぁ…これはヤる時の目だ。

 僕もサメ男のようにマジカルバーストされてしまうのだろうか。


「……僕もマジカルバーストされちゃうの?」

「しないよ!」


 清河さんは恥ずかしがりながら強い言葉で否定した。




 僕らは高校近くの公園へやってきた。

 広い芝生と点々と置かれた遊具、舗装された道は青々とした木々に囲まれている。

 平日の昼過ぎだから人が少ない、僕がバーストされるには好条件だった。


 僕らはベンチに腰掛けている。

 ここまで黙ってついてきたけど、一体何の話をされるのだろうか。

 こんな状況なのだ、告白ではないことは鈍感な僕でもわかる。

 だとすれば口封じか…金で解決させるなら2万円から応じてやろう。

 力ずくで魔法を使って口封じをされても、僕は魔法で対抗できるし大地の力でも同様だ。

 と言うことは純粋な肉体言語か僕の知らないサイコなパワーでねじ伏せてくるのか…それはそれで胸熱というか、悪の提督とか僕の好きなシチュエーションだ。むしろどんと来いや!


 腕を組んで顔の堀を深くするように意識する、小声で「フハハハハ」と笑っていると清河さんが声をかけてきた。


「高嶺くんどうしたの?」


 どうやら本気で心配している顔だ…なに、そんな気にすることじゃないよ。僕はサイコパゥワァ〜を感じてるだけさ。


「サイ…パゥ…?まぁいいや、私は真面目に話したいんだけど?」


 おっと、無意識で口に出していたみたいだ。

 ここらへんでやめないと全てを滅ぼされてしまいそうなので提督モードを解除した。


「ねぇ、高嶺君ていつもこんな感じなの?」

「そんなことないよ、今日はたまたまそういう気分なだけ」


 嘘だよ、いつもこんな感じだよ。


「まあ良いや、今からウサミー呼ぶからちょっと待ってて」


 清河さんは通学バックから見るからにカチカチ圧縮袋を取り出した。

 中にはウサギっぽいぬいぐるみ…?が1cmほどに圧縮されていて……あれ?こいつ見たことあるぞ?


「出てきてウサミー」


 清河さんは圧縮袋の口を開ける。

 パシューっと袋の中に空気が流れる音がする。

 もりもりと厚みを取り戻すぬいぐるみ…いや、ウサミーはブルブルと震え出した。

 なにこれ怖い……


 清河さんは、なかなか袋から出られないウサミーの頭を鷲掴みにして上に放り投げた。


「フゥー!やっぱ外の空気はうまいッキュ!」


 放り出さられたウサミーは清河さんの周囲に浮かび、汗を拭う仕草をしながら話し出した。


「いやいやいや、待て待て待て」


 清河さん『呼ぶ』って言ったよね?

 召喚とかじゃないの?魔法少女じゃなかったの?


「?どうしたの?」

「呼ぶってそういうこと?魔法は?魔法少女だよね?」

「私…最近魔法使えるようになったからちょっと苦手で…」

「いや、そういうことじゃなくて!ウサミー?って召喚獣とかじゃないの?」

「ウサミーは妖精だッキュ!」


 そうか…妖精だったか。

 いや、そうじゃない。


「圧縮袋に入れて持ってきてたの?」

「高校生にもなってぬいぐるみを持ち歩くのは恥ずかしくて……圧縮していれば目立たないかなって」

「ウサミーは恥ずかしくないッキュ!」


 お前には聞いてねーよ。


「平気なの…?色々と」

「その…私が恥ずかしいって言ったら提案してくれたの、ウサミーが」

「……ウサミー……」

「召喚獣ならそんな可哀想ことできないんだけど、ウサミーは妖精だから大丈夫って」


 妖精なら圧縮しても大丈夫なの?!

 お前…苦労してるんだなぁ。

 というか、可哀想な事してるって自覚はあるのか。


「それよりも聞きたいことがあるッキュ」


 圧縮袋のシワが消えてないウサミーが声のトーンを少し落として話しかけてきた。

 先にシワ伸ばそうよ、全く真剣に話を聞く気になれないから。


「君は魔法使いッキュ?」


 いきなりぶっ込んだ質問してきたな。

 一般人に聞くことじゃないだろう、だが確信があるようで全く疑っていない素振りだ。

 正確には魔法使える一般人という自覚はある。

 実際、サメ男を殴った時も魔法と大地の力を混合して放った技だしその言い方は正確ではない。


「多少心得がある程度だよ」

「やっぱり!それならお願いしたいことがあるッキュ!君は結界をものともせず普通にウサミー達を認識してたッキュ!魔法によほどの抵抗があるか魔法使いじゃないと説明できないッキュ!」


 確信を持って話していた根拠はそこだったのか…いきなり声をかけるのは失敗したかなぁ。


「僕の魔法はほとんど独学で教えられることなんてないよ」

「それでもいいッキュ!サクラは新米魔法少女の中でも使い方にセンスが全くないッキュ!なんなら歴代最弱と言っても過言ではないッキュ」

「うぐっ…」


 散々な言われ様だ。

 それにしても歴代最弱とは…何故パートナーにしたのか疑問はあるが、あまり突っ込まない方がいいのだろうか。


「そのせいで一日中魚くさいッキュ!」

「ん…?魚くさいのと魔法が下手なのはかんけいあるの?」

「あのヴィランの臭いは身体の魔法に染み付いてしまう特性があるッキュ!それを払えないせいでサクラはずっと臭いッキュ!」

「…マジか」


 僕は咄嗟に右手に滞留していた魔力を手のひらへ凝縮、固定させてから近くの木へと放出した。

 再び手を嗅ぐと臭いが完全に消えている…。

 本当だったのか…。


「うわぁ!」

「それッキュ!それ!今の流れるような一連の動作は歴代魔法少女でもなかなか出来ないくらい素晴らしい動きッキュ!それをサクラに教えてほしいッキュ!」


 そんなこと言われても…。

 僕が教える理由なんてないのだが。というか関わりたくないので。


「魔法少女の先輩とかに教われば…?」

「残念ながらこの地区にはいないッキュ……」


 えええ…ここらへんにいないの?

 でも戦ううちにわかっていくもんじゃないかな…。

 あぁ…センスがないって言ってたっけ。

 なら本当に苦労してるのか。


「サクラは歴代最弱…センスは壊滅的、撃退したヴィラン数はゼロのダメダメ魔法少女だッキュ」

「うぅぅ…面目ない…」

「そんなにひどいのか…」

「だから、サクラが一人前になる間だけでいいッキュ!一緒に戦ってほしいッキュ!」

「私からもお願い!一緒に戦って!」


 え?……僕も一緒に戦うの?




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