幕間:地獄
――遠い昔の話。魔術に
その当時は魔術は限られた特権階級が持つべき物であるという風潮があったものの、あまりの才能の高さから例外を認められ平民の生まれだったが彼女は魔術師ギルドが開いた魔術学院への入学を許された。
当然の事ながら、その待遇は憎みや妬みを産むには十分過ぎた。畢竟彼女は苛めの対象となる。
「どうして……私、何にも悪い事してないのに」
生まれを詰られ、両親や兄弟を馬鹿にされるに始まり。可愛がっていた使い魔を惨殺され、顔以外の目立たない所には暴力の痕が刻まれた。目立つ部分の顔は不細工と
馬鹿にされ、侮辱され、殴られいたぶられなかった箇所など無かった。
渡される実験道具や魔道書は何時だってボロボロに使い古された物であり、それが彼女を一層惨めな気分にさせた。
「私の顔、不細工なのかな……。髪もお母さんとお揃いだったのに」
長かった茶色の髪は無理矢理切られ、ショートヘアになった。切られた髪は彼女の右手に握られている。
「あぁ、そっか私の顔不細工なんだ……」
そして、何時の日か彼女はこう思うに至った。
「こんな目、こんな鼻」
鏡に映った自分を見つめるその目は、憎しみと嫌悪に満ち始めていく。
「こんな口、こんな頬、――こんな髪」
青い瞳に涙がうっすら目に溜まっていくが、それを右腕で拭う。
「こんな姿、全部全部大ッ嫌い!」
最初の頃は常に泣き腫らしていたが、涙が枯れた時決意する。自分は偉くなってやる、偉くなって何処までも何処までも凄い魔術師になってやると。そして何もかもを見返してやるとも。
魔術だけ極めるんじゃない、美しさだって手に入れてやる。顔が不細工なら、誰よりも綺麗になってやる。
お金だって一杯研究して、一杯稼いでピカピカの新品の実験道具や魔道書を――いやそれよりも大きな工房を幾つだって持ってやる。
何もかも全て手に入れてやる。
――いや、そんな事どうでもいい。どうでもよくは無いが、一番大事なのはそこじゃない。
「帰る。家に、帰る……」
そして、それは。
「か、顔がぁッ!」
右半分を焼かれた事を経て、決意から呪いに変わる。彼女の心という器がそこで歪んだ。
全ては、遠い遠い昔に過ぎ去った話――
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