第12話
…カチャッ
桜が静かに刀をしまう。あれだけ強力な技を放っていながら、桜に疲れた様子は見られない。
かと言って戦闘中は終始余裕そうな素振りは見せず、まるで他の者とは別の領域に入っていたかのように集中していた。
まさに歴戦の武士といった雰囲気を感じる。
「今のは桜の得意技『
桜をぼうっと見つめている晴空に舞冬は話
しかける。しかし舞冬の目線は桜に向けられていた。
「さっきの蟲のような敵、
祭壇の前、それと『
『桜金旋刃』という名前からして、あの金色の旋風は小さな粒一つ一つが刃ということになる。その大量の鋭い刃を操るのに相当な集中力がいる事は想像が付くだろう。
そしてその技を放つ適任者こそ桜であり、他の2人は攻撃をせず桜のサポートをしていたというわけだ。
(…待って?『300年間』?もしかして、
既に死んでいる者に不死という言葉は不適切な上、過言なのかもしれない。
しかし舞冬の言い方からするに、300年という数字は
それに桜の金色の髪や格好はともかく、あのただならぬ雰囲気は300年前の人だと言われれば納得がいく。
「
さらっと言われたが、やはり
しかし
そしてただ生きるだけなら過剰に思えた
「
舞冬は先程の
晴空もその方へ見ると、かえでが屈んで何か作業をしていた。
「丁度回収できたところだよ!舞冬ちゃん!」
かえでは立ち上がり、何かが入った円柱型のケースを持ってこちらへ歩いてきた。
あれだけ動きがうるさかったかえでさえ、ケースを両手で支え落とさないよう慎重に持っている。余程重要な物らしい。
近くまで来ると、ケースの中に赤黒く光る小さな物体が入っている事が確認できた。あの
「
(疑問が消えたと思ったらまた謎が増えた…まだ分からないことが沢山あるのに)
「私たちは
これで舞冬たちの立ち位置がぼんやりとわかってきた。
それにあの詩紀という男。彼も
初対面の時も晴空が作り出した空間の裂け目から出てきた。彼もまだ謎が多そうだ。
「まあ新しい単語をごちゃごちゃ言ったけれど、いちばん肝心なのはここからよ。いい?『
舞冬が真剣な面持ちで晴空に詰め寄る。勢いに負け、晴空は思わず後退した。
(い、いきなりそんなこと言われてもなぁ…)
物事に取り組む意欲に乏しい晴空にとって、どこかに所属することに関して決め兼ねる。
委員会、部活、進路。今まで晴空は幾度となく悩んできたが、結局他人に任せるか残り物で誤魔化してきた。
もちろんそんなやり方で得をした覚えは無い。かと言って自分に利が無くとも晴空にとってはどうでもいい事だった。
(入っとけよ。どうせ居場所はねぇんだろ?)
又も脳内に謎の声が響く。
(確かに居場所は無い。けど探すつもりもない)
(ならなぜここまで話を聞いてきた?こんな在り方やめて死んでしまえばいい)
(そんなの…)
記憶の中にあるあの旭光が目の前を
『生きたいから』
ただそれだけの言葉が脳内を満たす。
(生きたいなら1人は無理だ。あの旭光を見失うことになるぞ)
(木村さんを…見失う…)
晴空の表情がだんだんと険しくなる。
それを見たかえでは顎に手を当てて何かを考えている。
そして何かを思いついたかのように胸の前で手を叩いた。
「…まあまあ舞冬ちゃん!まだこの子は『
「…っ!確かにそうね…ごめんなさい。そろそろ夜が開ける時間だから少し焦ってたみたい。この話はまた今度にしましょう。結論を出すより先に、彼を現世に送らなきゃね」
今まで周りが明るかったため気に止めていなかったが、どうやら今まで夜中だったようだ。
空を見渡してもどこにも月や太陽が見当たらない。それならこの場所に昼夜が無いのは当然のことである。
(えっ、てか、返す?返してもらえるの?)
確かに現世に返してもらえるなど一言も聞いていなかった。
舞冬の言い方から察するに、あちら側にとっては既知の情報らしい。
情報の聞き漏らしがあったのか、はたまた伝え忘れたのか。どちらにせよ、晴空は最初からここに留まる気などなかった。
「あっ!」
舞冬がはっとした顔したかと思えば、目線がゆっくりと晴空の頭の方へ向けられる。強いて言えば髪の方へ──
「戻る前に、その髪色をどうにかしなきゃね」
(髪色…?一体なんの事だ…)
困惑し始める晴空に、舞冬は情報空間から手鏡を取り出し晴空に渡した。
(…確かに変わってる)
確かに晴空の髪は元の黒色ではなく、澄んだ藍色に染まっていた。まるで最初から地毛だったかのように艶やかな色を放っている。
それどころでは無い。瞳の色も淡い空色に変わっていた。
こんな姿を周りに見られれば、髪を染めて、カラーコンタクトをつけたと思われるだろう。
(あれ?これってもしかして…校則違反?)
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