第88話 天下統一、そしてのラン救出

「殿!殿ーーー!!!」


最初に駆け付けたのは秀吉だった。


歓喜と感動の涙を流しながら駆け寄ってくる秀吉の顔はサルよりもひどかった。


だがノブナガは振り返って穏やかに笑みを浮かべた。


「殿!!!これが!!!これが!!!」


立っていられなくなった秀吉はノブナガの前で泣き崩れる。


「ああ、サル。これが天下だ」


雲が晴れ、陽光がノブナガに降り注ぐ。


見上げていた秀吉からはまるで神のように見えただろう。


「これが天下なのですね。儂が獲った天下とは天と地の差にござりまする」


「サルよくやった」


「もったいなきお言葉でございます!もったいなきお言葉でございます!!」


「やっと見せられたな」



『サル、俺が天下を見せてやる。だからその時は俺の隣にいろ』


『はっ!必ず!!!』



秀吉は昔を思い出す。


「いいえ、あっという間にございます!!!」


「そうか」


二人にとってはもう言葉はいらなかった。



「「「「「「ノブナガ様ーーーー!!!!!」」」」」



遅れて生き残ったノブナガ軍も集まってくる。


天下人の元へ。


皆が賛美の声を上げた。


まさにゲーム完全クリアの喜びに浸っていた。


「ノブナガの旦那ーーー!!!」


だがそんなムードに似つかわしくない声が響いた。


焦りと悲痛に塗れた声。


声の主はトリだった。


ボロボロになって飛んでくるトリを見てノブナガもすぐに異変に気付く。


ランがいない。


「トリ!何があった!!!」


「明智光秀みたいな奴には勝ったんですが、死に際に何か呪いみたいの駈けやがってランの嬢ちゃんが目を覚ましません!」


「今もか!?」


「はい、旦那がゲームをクリアすれば目覚めると思ったんですが、一向に変化がありません」


「ゲーム内での呪いじゃないってことか?」


「ノブナガ様!光秀も儂と同じ霊体のようなものです!そしてあちらは悪霊に近い。もしかしたら奥方様の本体に作用しているのかもしれません!」


今度は秀吉がノブナガの問いに答える。


「ちっ!俺は今すぐログアウトする!サル!ランも強制的にログアウトさせることはできるか!?」


「ゲームクリア後の今なら可能です!!!」


「頼んだ!!!」


「お任せください!!!」


「私もすぐに向かうわ!」


「ウヌカル、いやみっちょん。あんたの力も必要だ」


「当たり前よ!親友を奪われてたまるものですか!!!」


ノブナガ軍は現実へと最後の戦いへ向かう。





「ラン!ラン!ラン!!!くそっ!!!」


「殿!殿!」


パソコンから秀吉の声が聞こえる。


「サルか!ランの容体はどうなっている!」


「VRゲーム機を通して、バイタルなどを確認しましたが身体自体には異常はありません」


「本当に呪いってわけか。ギリっ!光秀はどこにいる?」


ノブナガがから殺気が吹き上がる。


「いえ。光秀の魂は完全に消滅しています。今この呪いを操っているのは別の存在かと」


「誰だ?」


「おそらく儂や光秀の魂を呼び寄せた者」


「心当たりがあるのか?」


「、、、はい。儂も呼ばれた張本人ですから」


「言いづらそうだな。つまり俺も知っている人間か」


「はい、、、森蘭丸です」


「、、、そうか」


ノブナガは目を閉じてゆっくりと息を吐く。


「殿!?」


「蘭丸もまた霊体となってネットの中にいるのか?」


「はい、おそらく」


「場所の特定は?」


「もう少しお時間を」


「急げ。そして俺も電脳の中に入れるか?」


「VRゲーム機をカスタマイズすれば可能です」


「私も入れるの!?」


駈けつけてきていたみっちょんが画面内の秀吉に詰め寄る。


「もう一人ぐらいなら!VRゲーム機はあるのか?」


「持ち運びタイプは持って来たけど、これでも大丈夫?」


「持ち運びタイプはゲーム内なら感覚機能の劣化があるが、今回はゲームではないから問題ない」


「じゃあお願い!あのバカを早く起こさないと!」


そう言いながらもみっちょんの手は震えていた。


彼女もまたランを失うのではないかと不安でしょうがないのだ。


「ノブナガ様!もうすぐ準備が整います!二人ともVRゲーム機の準備をしてください!」


覚悟が決まったところで秀吉の合図が来る。


「わかったわ!」


「わかった。サル、後は頼んだぞ」


「お任せください!儂が必ず森蘭丸の元まで連れて行きます」


ブン!!!


こうしてノブナガたちは秀吉に連れられて電脳世界の中へと潜っていく。


そして辿り着いた先に在ったのは巨大な闇の塊だった。


「な、なにこれ?」


「、、、これが蘭丸なのか?」


みっちょんは不気味な闇の塊に恐怖を隠しきれなかった。


だがノブナガは表情を変えずに秀吉に聞いた。


「はい、これが森蘭丸だったものです」


「そうか」


少し寂しそうな顔をしたノブナガはゆっくりと闇の塊に近づいていく。


「殿!?」


そしてその闇の塊に優しく触れる。


「久しぶりだな、蘭丸」

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