第36話 真田幸村の裏切り

「信玄様!!!春日山城周辺が雪と氷におおわれております!!!」


「見りゃわかる」


「防寒の準備をしてこなかった我が軍は大きく体力を奪われており、攻め切れない状況となっています」


やられたな。蝦夷は式神の宝庫だった。だがこんなに一気に気温を下げることなど可能なのか?まるで謙信のようだ。一体の式神では無理だろう。複数の式神が動いている。だがそんなに多くの式神を同時に操るなんて、そんな強力な陰陽師が向こうにいるというのか。というかいくらレベルを上げたところで基本職である陰陽師にそんなことが可能なのか?もしかすると向こうにも中位か上位職持ちがいる?


はは、だとすると今度はこっちがヤバいな。


「今すぐ幸村の元に兵を集めろ!向こうの狙いは幸村の首だ!!!」


「はっ!!!」


「幸村を討たれればひっくり返される可能性もあるぞ!」


「はい!!!」


向こうに陰陽師の上位職持ちがいるなら、正直幸村の生死は五分五分。

これは俺の上位職スキルを使うことも考えておかなくてはいけないな。あれはリスクが半端ないからあんまり使いたくないんだが。いよいよとなったらしょうがない。こっちも覚悟を決めよう。




武田信玄


レベル 772


職業 神宿り


特殊スキル 神降ろし







「はぁ!?ノブナガが俺の首を狙ってる!?まったく何をやってるんだ信玄のやつは」


「幸村様!!!我々真田十勇士が必ずお守りします!!!」


「わかってる」


真田十勇士は俺の優秀な部下たちだ。その力は俺が一番わかっている。武田の家臣団の何倍も使える。というかこの戦に勝利した辺りでこいつらを使って信玄を殺し、全部手に入れる予定だった。


俺は真田幸村を任されたときから信玄の首を狙っている。真田幸村は史実的にも天下を取ってもおかしくなかった最強クラスの武将だ。


だからまあここで裏切ってもいいんだが、ノブナガを討って武田が東北一帯を手にしてから裏切ったほうが得だ。武田は天下を獲る気はあまりない。だったら踏み台にする方がいい。


そもそもこの武田軍は俺の力がなければ戦国最強ではいられない。というか武田が最強なのは俺のこの上位職の力のおかげだ。


このゲームのバイトを始めたのもただの小遣い稼ぎ。他のバイト大名と違い必死に今の地位にしがみつくこともない。


どうせなら天下を狙った方が面白い。だから俺は静観するとしよう。信玄、ノブナガ、どちらが勝っても構わない。勝った方を殺せばいいだけだ。




真田幸村


レベル 453


職業 狂科学者(マッドサイエンティスト)




俺のスキルを使えば人間や動物をいくらでも改造できる。


つまり数を減らすのと引き換えにそれ以上に強力な生き物を生み出せるということだ。


ノブナガは蝦夷にしばらくいて、その後天下を取ろうと北から降りて来た。何をしていたかなんて考えなくてもわかる。式神の収集だ。アイヌを味方に付ければ可能だろう。隠しステージ蝦夷の特別なところは、初めからステータスの高いアイヌ兵、そして蝦夷全土に住まう妖怪たちだ。


本州にいる妖怪の数は少ない。だから陰陽師はその辺の動物を使役して育てていくのが定石だ。だからあまり人気のない職業となっている。


おそらく信玄は俺を守るための兵を送ってくるだろう。俺が死ねば一気に形勢逆転だからな。


ならわざわざ俺が私兵を戦わせる必要はないか。俺を守るために武田には兵を使わせる。武田とノブナガの戦いに勝負がついた時、出来るだけ両軍には疲弊していてもらいたい。


ならば―


「佐助!」


「はい!どうしましたか?殿!」


呼べばすぐ来てくれるのが真田クオリティ。俺には勿体ない配下たちだ。俺はこいつらと天下を取る。


なら俺がやることは簡単だ。


「ノブナガの式神が俺の首を獲りに来るが、応戦してお前たちを危険にさらすのはつまんねぇ。だから武田軍を盾に雲隠れする」


「つまり?」


「武田とノブナガを潰し合わせ、勝った方の首を俺たちが獲る。簡単だろ?その時のためにも真田兵を失うわけにはいかない。てなわけでちゃっちゃと武田を裏切るぞ~」


「了解しました。では真田軍は撤退します。ですが本当によろしいのですか?我々が撤退すれば武田から殿の能力が失われ、潰し合いというよりノブナガの一方的な勝利に終わってしまうのでは?」


「確かに俺がいなくなれば武田の有利は消える。だがそれでも信玄には『神降ろし』がある。ならば拮抗した戦いになるだろう。それにノブナガ軍の式神も厄介だ。最悪その二つだけでも潰し合ってくれれば御の字だ」


「さすが殿!」


「さすがではねーだろ。結構最低なこと言ってるぜ、俺」


「最低?この戦国にそんな言葉ありませんよ」


「そりゃそうだ。漁夫の利を得てなんぼの戦国時代!さて撤退ではなく雲隠れをするにはお前ら真田十勇士ののスキルが必要だぞ」


「はっ!」


それじゃあ真田軍は高みの見物と行くか。





トリは心底震えていた。


ノブナガの命で絶対に失敗できない真田暗殺に来たのに真田のさの字もなかったのだから。


「ヤバい。マジでヤバい。失敗の報告をノブナガ様にしたらマジで消されちまう」


そこからトリは必死に真田軍を探したが見つからず、仕方なくそのまま報告をした。


虚偽の報告をした方が後が怖いと思ったからだ。


でもノブナガからの返事は予想と違った。


「なるほど真田はそう来るか。じゃあトリ、お前はその辺りを焼き尽くせ。真田が姿を現せないように」


「りょ、了解です!!!」





真田幸村への援軍に向かわせたものから連絡が入った。


『真田軍はどこにもいない』と。


と同時にウチの騎馬隊がただの人と馬に戻った。


幸村め、裏切ったな。


まあいつか裏切るとは思ってたけど、最悪のタイミングでやりやがった。


こうなったらいよいよ神降ろしを行うしかないな。はぁ、やりたくねー。でもまあここで負けるよりもましか。



ー神降ろしー





ノブナガは消えた真田を追い詰めるためにトリに辺り一面を焼き払うよう命じた。さすが第六天魔王。容赦ない。


でもそれでなんでか武田軍のキモいケンタウロスが元の人間と馬に戻った。たぶん真田幸村が能力の効果範囲からも離れたみたい。どゆこと?


「真田が武田を裏切ったんだよ」


心読まないでよ、ノブナガ。


「じゃ、じゃあ真田軍はウチの味方になったってこと!?」


「そんなわけあるか。真田は漁夫の利を狙ってる」


「漁夫の利?ってなに?」


「やっぱりバカだな、お前」


「バカって何さ!否定はしないけど。それで漁夫の利って何ですか?」


「つまり俺たちと武田軍がやりあって勝負が決まった瞬間に疲弊した勝者を叩いて美味いとこ全部持っていく気ってことだ」


「うわっ!ズル!」


「いや、戦国なら正解だ」


「じゃあどうすんのさ!武田のキモタウロスは解除されたけど、それでも馬自体の機動力は底上げされてるし、信玄にも隠しだねがあるってノブナガも言ってたじゃん!そこに真田まで攻めてくるなんて!」


「ああ、かなり頭の痛い状況だ。だがそれでも勝つさ。武田にも真田にもな」


「なるほどなるほど!ん?で、どうするの?」


「とりあえず全力で武田を叩き潰す。その後の真田については俺が考えるから安心しろ」


「なるほどなるほど!おっけー!」


「お前さっきから『なるほどなるほど』しか言ってねーけど」


「なるほどなるほど」


「うん、なにもわかってねーな。いいからお前は何も考えるな。感じてろ」


「え!?エッチなこと言ってる!?」


「もう黙れ。何も考えなくていいから俺が武田も真田も打ち倒す所を見てろ」


はぁ、もう当たり前に、というか必然的に、か、か、か、か、かっこいいー!!!


ノブナガの言う通りは私は黙ってみていよう。


私はここから何も考えずノブナガVS武田、後のノブナガVS真田の実況をしていこうと思います。


「いや、式神は動かせよ」


はい、式神は動かします。


「さあて武田と真田か。どうやって潰してやろうか。面白くなってきやがった」


ノブナガはとても楽しそうに笑った。かっこよかった。でもちょっと今の状況がよくわからない。まあいいか。ノブナガかっけぇし。


よっしゃあ!武田に真田!かかってこいやぁ!!!

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