第34話 ノブナガの敗走
「戻ってきたか。トリ、パプル」
『はい、旦那!しっかり仕事してきましたぜ!』
「ノブナガ様。武田信玄の職業について調べてまいりました」
トリとパプルがノブナガの前にひざまづいている。
、、、何度も言うけどトリは、わ・た・しの式神なんですけどね。
、、、はぁ。もういいや。ちゃっちゃと報告しちゃってー。
『俺は武田信玄の基本職を調べてきました。武田信玄の基本職は神職です』
「神職か。傾奇者と同じ支援職だな。だが回復とバフに特化している。神って文字が入ってなかったら俺も選んでたであろう職業だ」
え、そんな理由で傾奇者にしてたの?神嫌いすぎでしょ、この人。
「武田軍の戦歴を調べてみましたが、上杉の時と同じようにほぼ圧勝でした。ですがこれも上杉戦でのことなのですが、悪天候で劣勢になっていた武田軍が一気に盛り返すことがあったようです。そしてこの時、何よりも活躍したのが騎馬兵だったようです」
「まあそりゃ武田だからな」
「いえ、騎馬兵というか馬だったようなのです」
「馬?」
「はい、悪天候で悪くなった足場をものともせず、普通の馬の3倍ぐらいのスピードで駆けまわったらしいです」
「3倍ってマジか。3倍はルールが根底から覆るレベルだぞ」
「更に何時間戦っても馬たちが疲れる様子はなかったようです」
「はぁ。つまり3倍の速さで疲れることなく動き回る化物に乗った兵たちを相手に戦わなきゃいけないってことか。考えただけで頭が痛くなるな」
「、、、はい」
「しかも神職からの上級職だろ。てことはその馬の力をただ上げているだけっではないな」
「おそらく。そしてこれは本当かどうか疑わしい情報なのですが、その時武田兵は馬と一体化していたとか」
「馬から兵士が生えてる感じか?」
「はい」
「キモいな」
「かなり」
「だがまさに人馬一体ということか」
「神職の能力は自軍の回復とバフです。馬には作用しないはず。つまり馬も兵の一部としたことによって馬にまでバフをかけられているのではないでしょうか」
「だろうな。だが神職の能力とはかけ離れている。あくまで上級職は基本職の上位。まったく関係ない能力になることはない。つまりー」
「はい、武田軍にはもう一人上級職持ちがいます」
「確かに武田に帰属している大名の中には上級職に覚醒している奴もいるだろう。で、それが誰かはもうわかってるんだろ?」
「はい。真田幸村です」
「真田幸村ね。あいつなら不思議じゃないな」
『真田幸村の基本職は薬師でしたぜ!』
なんかすごい情報が報告されている。二人は優秀な斥候だ。それはわかる。すごくわかる。
ただパプルと比べるとトリの小物感が凄い。
こいつ本当に神獣かよ。
「真田は同じ薬師だった最上よりも強力な上級職だろうな。戦国時代の頃も真田は強かった。最上なんかとは比べ物にならないぐらいな。錬金術師の上位互換なら人と馬の融合も不可能じゃないかもしれない。そうなると馬だけじゃなく他の動物とも融合させることが出来そうだな」
「そして武田信玄の能力で彼らの力は何倍にも膨れ上がるという訳ですね」
「そうなるな」
「ですがすみません!武田信玄の正確な能力はわかりませんでした」
「いや、よくやった」
パプルはコブができるんじゃないかって勢いで床に頭をぶつけて謝っていた。だがノブナガはそんなパプルを労った。
「しかし!」
「たぶん信玄の能力は神職の力が何倍にも強力になったものだ」
「なんでわかるのですか!?」
「勘だ。何となくそんな気がした」
「え、勘??」
「ああ、俺の勘はよく当たる」
「え、、、ふ、ふはははは!!!さすがノブナガ様!あなたこそ天下を取る方です」
「当たり前だ」
「はい!」
「開戦まで引き続きお前らは武田軍を探れ!どんな小さなことでもいい!かき集めて持ってこい。俺がそれを勝利に変えてやる」
「『はっ!!!』」
ノブナガの言葉に鳥肌が立った。なんか今までの『カッコいいー!!!』って感じじゃなく、背筋が凍るようなゾクっとするような高揚感。こんなの初めてだ。
そしてトリとパプルはその場から消えていった。
すぐ消えるな、こいつら。
でもやっぱり私のノブナガ!かっこ良すぎる!ノブナガのカッコよかったセリフを切り取って一つの動画にしたい。
レディオヘッドかシガーロスあたりをバックに流しながらYOUTUBEにあげたい。
いや、あげよう!あげるべきだ!
そうか!それが私の使命なのだ!
私は動画編集ソフトを購入することを決めた。
*
「そろそろ行くぞ。ラン」
私がノブナガの名シーンを切り取り一つの動画に仕上げていると、ノブナガに呼ばれた。
おっと、もうそんな時間か。
続きは武田を落としてからにしますか。
という訳で私たちは仲良くゲームにダイブ。
ノブナガは兵たちの前にある高台に登る。
「さあて、日ノ本最強と言われる武田と戦うわけだがどんな気持ちだ?怖いか?それとも腕が鳴るか?まあどっちでもいいが。心構えとして一つだけ言っておく。殺せ」
え?
「殺して殺して殺しまくれ。神が許さぬその行為を俺が許す。だから殺せ。俺が許すから殺せ。俺の命令で殺せ。だからお前たちが閻魔の前に立った時、その罪は問われない。お前らの罪も、生も死も、俺が全部持っていく。安心して鬼になれ」
「「「「「「おおおおお!!!!」」」」」
なんか今日のノブナガは少し怖い。ゲームなんだから罪とかそんなこと言う必要ないのに、まるで本当の殺し合いをするみたいだ。
「ねぇねぇノブナガどうしたの?なんか変だよ?ってからしくねーじゃん!おいおい、どうしたんだよ~」
ノブナガを小突いてみる。
うん、わかる。ちょっとシリアス感だした直後にこんな絡み方されるのはイラっとするでしょう。
でも思い出して!私ってこういう人間なんだよ!わかってくれるよね、ノブナガ!
空気は読まないし、気になったら何でも聞いちゃう。物凄く辛そうな過去でも、ぐいぐいと。
だけどそんな自分を悲観したりはしていない。むしろこんな自分が好きだったりする。やっぱり今は自分に正直に生きる時代じゃない?
という訳で普通に聞いたんだ。もう一回言うけどわかってくれるよね、ノブナガ!
「少しゲームだってことを忘れてたな。いや、忘れたかったのかもしれない。武田信玄とは本気でやり合いたかったからな」
「あ、そうなんだ」
あれ?あんまり怒ってない?本当に分かってくれた感じ?
「武田信玄は俺が恐れた戦国大名の一人だ」
「え?ノブナガが恐れたの?マジ?」
「ああ、武田が攻めてきた時はもう終わりだと思ったさ。だが運よく信玄が病死して撤退していったんだ。間違いなくあの時代武田軍は最強だった。だからこそ滅ぼしてやりたい。武田信玄って男の国を」
ノブナガが獰猛な笑みを浮かべる。マジでこの顔好き。超かっこいい。大丈夫だよ、ノブナガ。私にはもう圧勝してるよ!
「でも上杉も武田も、越後の龍とか甲斐の虎みたいなめっちゃカッコいいあだ名ついてるのにそんなに天下狙ってる感じなかったよね」
「あいつらは天下を取るつもりなんてないからな」
「え?なんで?最強なんでしょ?」
「将軍や仏みたいな意味のないものをを本気で敬っているからな。その辺はマジでバカだ。あんなカスを血筋だけで敬う。見たこともない仏なんてのを信じる。どんなに戦が強くても所詮血筋や言い伝えを信じる老害に過ぎない。だからそんな馬鹿どもを今度こそ自らの手で殺せると思うと血が沸く」
「ノブナガ楽しそうだね」
「ん?そうだな。伊達、上杉もそうだったが、戦国時代では闘えなかった強敵と戦えるってのはゲームならではの醍醐味だな。現代にタイムスリップして来たかいがあるってもんだ」
「うん、なるほど。でも、、、負けちゃだめだよ。絶対」
「負けるかよ。誰に言ってるんだ」
「ただの第六天魔王に言ったんだよ!」
「ただの魔王舐めんなよ」
「、、、信じてるからね」
「信じ切っておけ。さあ始まるぞ」
「おうよ!」
我々ノブナガ軍の鉄砲隊は武田の騎馬隊と向かい合う。
そして耳が痛くなるほどの鉄砲の発砲音が鳴り響く。
だが伊達の時とは違い、武田の馬たちは取り乱したりしない。というか武田の騎馬兵は人馬一体となっていて、なんと言うか失敗したケンタウロスみたいになっていた。その姿はまさに『キモい』の一言に尽きる。
なんか馬の背中から人間の上半身が生えているような、それはそれはキモキモな生物だった。
「ノブナガ!武田の騎馬兵、というかキモい馬人間がすごい勢いで攻めてくるよ?鉄砲もあんまり効いてないみたい!」
「本当だな。ウチの鉄砲隊の銃撃が一切効いてないな」
「だね!」
「・・・」
「ちょっとノブナガ~。ツンツン」
ノブナガ、ラグってるのかな?ちょっと小突いてみた。
「武田の騎馬兵たち強すぎじゃね?」
「え?」
「ヤバい。かなりヤバい!このままじゃ負ける」
さっきまでイケイケだったノブナガが焦りだす。
「ヤバいの!?なんか他に策とかあるんじゃないの!?」
「思ってたより武田の騎馬隊が強い。ゲームバランスとかを考えて予想してた強さを平気で超えてる。こんなのゲームが成り立たなくなるほどの強さだ。運営は一体何を考えてるんだ!」
珍しくノブナガが運営に対して文句を言う。
こういうのはあんまり言わないから驚いた。もしかしたらノブナガは追い詰められると弱いタイプなのかもしれない。
「こんなに強いとかありかよ!!!よっしゃ!!!逃げるぞ!!!」
「武田に攻め込んだ側なのに逃げるの!?」
「はぁ!?勝ち目がないなら逃げるに決まってるだろ!!!わかったらさっさと俺について来い!俺はこのまま誰よりも早くこの戦場から逃げて越後に帰る」
「いさぎよっ!てかもう駆けだしてるし!」
「死んだときは自己責任で!とにかくみんな逃げろ!全員、春日山城集合で!!!」
「そんな!自己責任って!!」
こうして私たちノブナガ軍は一旦春日山城まで退くことになった。
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