第33話 ノブナガ、競馬、友達、信玄

最近は戦はお休みでノブナガは武田を倒すために力の底上げを行っている。私はレベル上げをしてる。


うん、つまり地味。退屈なのだ。


ということでこの辺でノブナガと一発デートをと思ったんだけど、ちょっと気になることがあって今日はノブナガをつけてる。


というのも伊達を倒したあたりからノブナガは『信長の覇道』でお金を儲けるようになった。今では立派なプロゲーマーだ。


そして自分でお金を稼ぐようになってからノブナガは毎週日曜の昼に出かけるようになった。


なのでつけています。


もしかしたらいかがわしい店に通って女に貢いだりしているかもしれない。浮気している可能性もある。もしそうだとしたらノブナガを殺して私も死ぬ。


という訳でバッグに念のための包丁を忍ばせ、私はノブナガを尾行するのであった。


ノブナガは電車に乗り、浅草で降りた。


そのまま向かったのはホッピー通りだ。


ホッピー通りが密会場所なのかしら。


「よう!」


「あ、ノブさん!お疲れ!」


やはり密会していたのだ!ノブナガめ!私というものがありながら!


ノブナガが近づいて行った浮気相手は、タバコを吸いながら競馬新聞を広げているおっさんだった!


おっさんもいけんのかい!ノブナガ!


キィー!!!女にとられるより悔しいィ!!!


・・・


ってそんなわけないか。


普通に考えてこれから競馬に行く二人組って感じ。景気づけにここで一杯飲んでるみたいな。


そして思った通り二人は酒を飲み干すと、当たり前のようにウインズへ入っていく。


・・・


競馬かよ。競馬友達かよ。確かに毎週日曜日の昼からって。うん、競馬だわ。


なんかイラっとしたので更につけてみる。


ここからはエキシビジョンみたいな感じ。ここまで私を心配させたんだから、盛大に馬券を外してほしい。


ノブナガが賭けた馬が、毎度毎度公衆の面前で走らされることに疑問を覚えますように。そして走ることの虚しさに気付きゆっくりと歩き出しますように。今までしっかり見れていなかった周りの景色を今日はゆっくり見られますように。


私は心から祈った。


だがノブナガは一位どころか3連単まで当てて大儲けしていた。


競馬でもノブナガ無敵かい!


だけど一緒にいるおっさんはもっと当てていた。何この2人。めちゃめちゃ当てるじゃん。競馬場にとっては疫病神みたいな2人だ。


うん、なんかもういいや。どっと疲れた。帰ろ。さっさと帰ろ。ダッシュで帰ろ。というかもうタクシーで帰ろ。


「運ちゃん!法定速度の倍で走って!」


「無理ですよ」


「お金倍払うから!!」


「・・・やっぱ無理でしょ」


「ちょっと悩んだけど、よく誘惑に打ち勝った!感動した!じゃあ法定速度の倍で走って!」


「ふりだしにもどってますよ、お客さん」


「、、、じゃあ法定速度ギリギリで」


「はい、出来るだけ急ぎますね」


「、、、お願いします」


、、、世の中は思う通りに行かない。


家に着いた私はノブナガの帰りを待つ。


「ただいま。ん?まだ帰ってないのか」


ノブナガは悪びれもせずに帰ってきて電気をつける。


そしてそこにいる私。


「うわ!いたのか!なんで電気付けてないんだよ!」


「、、、ノブナガのせいだよ」


「はぁ!?意味が分からないんだが」


私は思いのたけをノブナガにぶつけた。


最近のノブナガの行動が怪しくて後をつけたこと。でも女とかじゃなくて結局競馬だったこと。それによってめっちゃ気疲れしたこと。


「いや、それ俺まったく悪くないだろ」


「確かにそうとも言えるけど!ノブナガがちゃんと言ってくれてたら私が悩むこともなかったってことだよ!」


「はぁ、オレハ オマエ ヒトスジダカラ シンパイスル ヒツヨウナイヨ」


「なに!?そのSiriみたいな答え方!!!でもその言葉信じる~」


「信じるのかよ。マジか、お前」


「私は自分にとって都合のいい言葉は基本的に信じる~」


「お前そんなんだと詐欺にあうぞ。心配になるわ」


「心配ならノブナガが守って~」


「はぁ、わかったよ。俺が守ってやるから、勝手な行動はするなよ」


「グス、わかった~!!!」


私はノブナガの優しさに感極まり、気付いたら抱きついていた。


やっぱりノブナガと私はベストカップルだ。というか夫婦だ。同じ墓に入る運命なのだ。


「ノブナガぁぁぁ!!!」


「もう泣き止め」


「うん、うん!それじゃあ、、、ズズッ!武田を滅ぼしに行こうか」


「、、、ああ、行こう」


離婚の危機を乗り越え、より強固な絆で結ばれた私たちは武田をフルボッコにしに行くのであった。





最近競馬仲間が出来た。


そいつは勝ち馬をデータや血統よりパドックでの状態や騎手の状態を見て選ぶ。


そう、俺と一緒だったのだ。


だからいつのまにか意気投合し、毎週二人でウインズに行く様になった。


俺の実家は競走馬を育てる牧場だった。だが高2の頃、借金して買った有望馬が突然死して潰れた。


まあそんなこともある。馬は生き物なんだから。だからこのことに関しては運がなかったなとしか思っていない。


だが俺はどうしても競走馬を育てたかった。馬が好きだったから。ダビスタはもっと好きだったから。


だが競走馬を育てるには金がいる。そもそも馬を買うのに金がいる。


そういう訳で競馬をやりながら元手を貯めている。まあ単純に競馬が好きっていうのも大きいが。


たださすがの俺も百発百中とは行かない。まあ俺の馬を見る目なら少なくともマイナスにはならないが。


でもこのままじゃいけない。賭け金を上げていかないといけない。


そんな時に割りのいい仕事を見つけた。



『信長の覇道 Online』



このゲームでNPCの中の人をやるというものだ。


『信長の覇道 Online』はクオリティが高かった。


特に生き物に関しては。もちろん馬もだ。細かいデータを元に本物の馬と大差ないものを作り出していた。


それでもさすがに人間だけは再現できないらしく、NPCの中に入る本物の人間を募集していたのだ。まあ募集ではデバック作業ということになっていたが。


本当の仕事内容は採用されてから伝えられた。まあ本当にデバック作業として採用された奴もいたのかもしれないが。


それなら武田信玄に一番向いているのは俺だ。武田軍の主力は騎馬隊。馬において俺の右に出る者はないんだから。


俺は武田信玄を担当することになった。


ああ、申し遅れた。俺は林山真司、34歳。趣味は、というか生きがいは競馬。いつか馬を買ってリアルダビスタをやるのが夢だ。


順調に『信長の覇道 Online』で稼いだ金を元手に競馬でさらに増やす日々。マジで順調だった。ゲームをやってるだけで高い給料がもらえる。そして競馬は当たりまくり。気の合う競馬仲間も出来た。


夢に近づいて行っている確かな手ごたえを感じていた。


だけど人生はそうそううまくはいかないようだ。


『信長の覇道 Online』で武田軍を本気で落とそうとしてくるプレイヤーが現れたのだ。


負けて殺されてしまえば、武田信玄はこの『信長の覇道 Online』の世界からいなくなり、俺はわりの良いバイトを失う。


つまり負けるわけにはいかないのだ。馬のために。


基本的に武田の騎馬隊が負けることはない。


歴史通りなら警戒すべきは尾張の織田信長だ。でもまさか北から違うノブナガが来るとは。


そもそもこのゲームで大名になっているプレイヤーは珍しい。


なぜならプレイヤーが大名になるには、どこにも属さずに独力で大名を倒すか、どこかの大名の家臣になって登りつめ内乱を起こしてその座を奪うしかない。


ちなみに今現在大名の座についているプレイヤーはたった3人。


三好家から四国東部を奪い取った『エイ皇』、島津家から薩摩を奪い取った『NPL』、そしてこの『ノブナガ』だ。


だがノブナガは大名になった過程が他の2人と違う。


エイ皇とNPLは大名の家臣として懐に入り、内乱を起こした末に大名の座に就いたが、ノブナガは隠しステージの蝦夷で軍を組織し、大名を合戦で討ち滅ぼしたのだ。


はぁ、これは厄介だ。蝦夷って行くだけでも大変なはずだし、住んでるのはアイヌの民。基本ステータスは高いらしいが、思想が違うから仲間にすることはかなり難しいとされている。だから武力でアイヌを排除して蝦夷の資源を得るというのが隠しステージの流れだったはずだ。


なのにそれを全て味方につけて新たな軍を組織するなんて。


ちなみに俺たちNPCの中身を担当しているバイトたちにも隠しステージ『蝦夷』の詳しい情報までは明かされていない。


もしかしたらアイヌの兵たち以外にもノブナガには隠し玉がまだあるのかもしれない。


いや、あの謙信を破ったんだ。間違いなくあるだろう。


そして何よりも頭が痛いのはノブナガ軍が戦った合戦の情報が全然残っていないことだ。確かに油断していて情報を集めるのは遅くなったが、それでもここまで一切情報が手に入らないというのは偶然ではないだろう。間違いなくノブナガが意図して情報の痕跡を消している。


つまり戦において最も重要なものが情報だとわかっているということだ。競馬と同じで。


これは強い。ディープインパクトぐらい強い。


この時点でもうウチは後手に回ってしまっている。


ではどうやって勝てばいいのか。


情報戦で今から巻き返すのはキツイ。


それなら地力で勝つしかない。要するに何も考えない力押しだ。まさにバカな大将がやること。だがそれしかない。というかそれでいい。


油断をした。後手にも回った。だがそれだけだ。


油断も後手に回ることも武田からしたら誤差でしかない。


謙虚に言ったとしても、武田軍は戦国最強なのだから。

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