第31話 【織田家サイド】織田信長になった男

最上、伊達、そして上杉を倒して東北を獲ったノブナガ軍だったが、それが霞むほどの出来事が中央では起こっていた。


織田軍の躍進である。織田軍は西日本へと一気に領土を広げる。


そして遂に織田が上洛を果たしたというニュースがゲーム中にアナウンスされた。


織田は徳川と同盟を結び、斎藤、浅井、朝倉を滅ぼして行った。ついでに三好も退け、上洛に成功したのだ。


このゲームの名前は『信長の覇道Online』。その名の通り織田軍はゲーム内で最も大きな力が与えられている。


だが織田信長はこのゲーム内の主要大名の中で唯一中に人が入っていない。織田信長だけは本当にAIなのだ。最強のラスボスとなるように。


キャラのスペック、織田家の武将たちの強さ、さらにこれをAIが最適解で天下取りに向けて動ごかす。ゆえにその動きが史実と異なるなら、AIはかつての織田信長は最適解ではなかったと判断したということだ。


そういうことだった。


最初の頃は。


だが今現在織田信長を動かしているのはAIではない。人間だ。



織田信長の中に入っている男。彼は『信長の覇道』の運営をハッキングして織田信長のアカウントをAIから奪い取った。


彼もまたノブナガと同じく戦国時代を生きた男、まあ心だけだが。ノブナガとは違い死んだ後に転生した存在。そして現在は大学8年生の引きこもり。


彼の前世での名前は明智惟任光秀。なんとノブナガを本能寺で討った男である。


彼はノブナガに憧れていた。というかノブナガに成りたかった。


だがノブナガが天皇を討つと言ったとき、彼の中で何かが壊れた。天皇を討つということはすなわち神殺しなのだから。明智家は天皇を崇拝していたし。光秀もまた天皇を神と崇めていた。


もちろん光秀はノブナガも崇拝していた。


だが人間と神は違う。


神殺しなど人間が行っていいことじゃない。これだけは出来なかった。いくらノブナガの命令であったとしても。だから彼は涙ながらにノブナガを討ったのだ。


だがいざ討ってみると、とんでもない高揚感に包まれている自分に気付いた。


ノブナガになりたかった自分がそのノブナガを討ったのだ。つまりノブナガを超えた。


まるで神にでもなったような気分だった。


だが彼の天下は3日で終わる。光秀にとってライバルのような存在だった羽柴秀吉によって。


彼は秀吉に負け、逃げていたところ竹槍で刺され重傷を負った。そしてもうお終いだと生を諦めた。これが主君を裏切った報いかと。彼は自分の死を受け入れ、目を閉じた。


だがその目は再び開かれることとなる。光秀の目が再び開かれたとき、彼はこの現代にいた。赤ん坊の姿となって。


光秀は現代の世界で人生を再スタートする。


現代に馴染みながら生活をしていたある日、光秀は『信長の覇道Online』の存在を知る。


そこには信長が存在していた。光秀はこれを許せなかった。


自分は信長を超えた。信長はもういない。自分以外が信長を名乗っていいわけがない。


だから光秀はこのアカウントを奪い取り、自ら信長になった。




ー清州城



「揃ったな」


家臣は一同に頭を下げている。


「面を上げい」


「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」



今清州城には織田家の武将たちが集められていた。


まずは四大将の柴田勝家、丹羽長秀、明智光秀、羽柴秀吉。


そして前田利家、佐々成政、森長可、堀秀政、池田恒興、前田慶次。


このそうそうたる顔ぶれの上座に座っているのが『信長の覇道』での織田信長である。


「各々各地で戦果を上げているようだな。今日はこの清州城でゆっくりして行け」


「ありがとうございます。でも本当の要件はそんなことではないはず」


明智光秀が信長の真意を聞く。


今の信長の中身は光秀だから、光秀が光秀に聞いたみたいになるけど、光秀の中身はまた違う人なわけで、つまり誰かよくわからないやつが光秀として信長をやっている光秀に聞いたといった感じだ。


イラつくレベルでややこしい。


まあそれは置いておくとして、今は織田家の会議である。


光秀に真意を聞かれた信長(光秀)は背後に貼ってある日本地図の東北地方を前を向いたまま親指で差す。


「最上、伊達、そしてあの上杉を滅ぼし、東北一帯を支配下におさめた大名がいる。俺たちが西へと進んでいるときにまんまとしてやられた。名前はノブナガ。皮肉なことに俺の名と同じだ」


「ですが所詮田舎大名でしょう。東北など取ったところで大したことはない。もし殿がお望みなら拙者が滅ぼしてきますぞ!」


東北平定に名乗りを上げたのは羽柴秀吉。信長(本物)が最も信頼していた武将である。


信長(本物)曰く「王の器ではない。だが将としてなら戦国最強」


信長(本物)ならここで秀吉に東北平定を任せただろう。


だが信長(光秀)は秀吉に大きい仕事を任せる気はなかった。戦国時代、信長に仕えていたころ、光秀が最も嫌っていたのがこの秀吉であったからだ。現に前世では彼に殺されたようなものだった。


自分には思いつかないような突拍子もない策を実行しては戦果を上げていく。そして農民の出ながらどんどん信長に認められていく。


悔しかった。嫉妬した。


出自も学も何もかも上な自分がことごとく手柄で負けていたのだ。


という訳で信長(光秀)は秀吉に活躍させる気はなかった。


それならば明智光秀に活躍させたい。信長となった今ならそれができる。


だから信長(光秀)は明智光秀に東北平定を任せるのだった。


ただ光秀は失念していた。


この『信長の覇道』という世界では外側と中身なんて全く違うということを。


そもそも自分が織田信長になっているのだから。





「ノブナガ!織田家が上洛したらしいよ!!」


「言われなくてもわかってるよ。正式にアナウンスされたんだからな。上洛したってことは今この瞬間、織田信長が最も天下人に近い存在となったということだ」


『信長の覇道』では織田信長上洛のニュース一色となっていた。


確か上洛ってのをすると天下取りにぐっと近づく。


うん、なんかそんな感じだったはず。


私は織田信長特化型の歴女なので、正直そういうのはよくわからん。すまん!


「わかってなさそうだから教えてやるけど、上洛ってのは天下取りますよって宣言みたいなものだ。麻雀で言うところのリーチ、ウノでいうところのウノ、鍋でいうところのおじや。つまり将棋でいうところの王手ってことだ」


「将棋でいうところの王手っていうのを最初に言ってくれた方が分かりやすかったよ」


「それだけ京に入るってのは戦国時代において大きい」


「マジかよぉ~。ウチも頑張ってるのにぃ~」


「確かに領土は広がったが、こればっかりは位置が悪い。東北から上洛するにはまだまだ障害がある」


やっぱり私がダーツで蝦夷刺しちゃったからなのかなぁ。ノブナガ、マジ申し訳。


「ん?何を凹んでるんだ?お前は」


「だってリードされてるってことでしょ?私のダーツのせいで」


「はぁ、お前は歴史好きの癖に全然戦国ってものを分かってないな」


「え?」


まあそりゃ基本的に織田信長が好きなだけだからね。


「0が100に、プラスがマイナスに。何度だってひっくり返っていくのが戦国の世だ。織田が今一番力を持っているのなら、織田を滅ぼせばそれは全部俺たちのものになるってことだ。これが戦国のおもしろいところだな。そしてこれこそが天下取りの醍醐味。くははは!これだから天下取りはやめられない」


「そんなもんかね~。まあ要するに織田がラスボスってことだね!」


「そのラスボスってのもコロコロ変わるのが戦国だ」


「もう!こんがらがって来たよ!」


「まあとりあえず今は放っておけ。このまま織田が西へ向かって行ってくれるなら好都合だ。俺たちは東側を統一する。織田には出来れば毛利とか獲ってもらいたいな。毛利ってマジでウザいから。滅ぼしてくれるなら面倒が減って助かる」


「確かに毛利水軍は手強いもんね!それは知ってる!」


「水軍なんてどうでもいい」


「え?」


「面倒なのはあの生臭坊主だ」


「それって安国寺恵瓊のこと?」


「ああ、戦国の坊主たちは誰一人としてロクなことをしない」


「確かに。で、織田は放っておいていいとして、私たちはこれからどうするの?」


「上杉を滅ぼしたしな。おもしろいからついでに武田も滅ぼしてやろうかな」


「ちょっと!ノブノブ!おもしろいとかいう理由で武田と戦っていいの!?相手は「甲斐の虎」だよ!?」


「だから面白いんだろーが。前の戦国では上杉謙信とも武田信玄ともちゃんと戦えなかったからな。せっかくだしやってみたいじゃねーか。それに今回は織田信長とも戦えるんだ」


ノブナガは楽しそうに笑った。ちっ!カッコいい♡


「織田信長に勝てるの?」


心の声が漏れないようにシリアスな感じで聞いてみた。


「勝つために武田信玄をぶっ倒すんだよ」


「え?」


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