第30話 ノブナガと新垣あい

私たちは暴風雨の中をかなり遠回りしながら、音を出さず、姿を隠し、慎重に、それはもう慎重に上杉謙信の背後に回りこんだ。


「ノブナガ!アレが上杉謙信じゃない!?」


そう私たちはついに上杉謙信を視界に収めたのだ。


「この距離ならハバキリで首を落とせるな」


「よっしゃあ!じゃあウチの勝利だね!」


「ハバキリ、仕事だ」


ノブナガは天羽々斬を抜く。この刀を持ってすればあっという間に謙信の首なんて刎ねてしまえるのよ。


「斬撃を飛ばせ」


『しかし主、それでは・・・』


「いいんだ。言った通りにしろ」


『御意』


ノブナガは斬撃を飛ばす。だがその斬撃が謙信の首を飛ばすことはなかった。斬撃は謙信の足を切り落とした。





何が起こったの!?


足が切り飛ばされ身動きが取れなくなった。


何が起こったのかすぐに答えは出なかったけど、誰がやったのかはすぐに分かった。ノブナガだ。間違いない。


「よう、上杉謙信。この戦は俺の勝ちだ」


思った通りノブナガが姿を現した。


私の側近たちは剣を抜いて構えたが、一瞬で皆殺しにされた。ノブナガの横にいるバカそうな女の式神に。


「なぜ俺の目の前まで来た?足を切り落とせたのだから首を刎ねることも出来ただろうに!」


「少し話がしたくてな」


話?今さらなんの話があるというのか。


「俺の配下になるなら殺さないどいてやる」


「え?」


「俺のスキルは殺した敵を蘇らせて自分の配下にすることだ。ただ蘇ったやつらは生前よりひどく弱くなってしまう」


「大名でなくなり、上級職ではなくなってしまうんだから当たり前だろう」


「職業だけの話じゃない。中身の問題だ」


え?もしかしてこいつ大名たちの中に本物の人間が入ってることに気付いてる?


確かに伊達政宗を配下にしているみたいだが、中身はAIだろう。伊達政宗の中身を担当していたバイトはクビになったはずだから。


「さあ、どうする?上杉謙信」


ノブナガが答えを求める。


どう考えてもこの戦はノブナガの勝ちだ。だから私の選択肢はノブナガにつくか、死ぬかしかない。


大名が死んだ場合、このバイトはクビ。


「お前の配下になったとしても、大名でなくなった時点で私の職業は『青龍』から『僧』に戻り天候を操るような力は使えなくなるが?」


「だが基本職に落ちようとも、元大名にはもう一つ力がある」


「、、、配下や領民たちからの尊敬か」


「その通りだ。お前が俺の配下になるとなれば、俺はお前の持っているものを丸々手に入れられる。傷一つない状態でな」


「お前は私が本当に配下になると思っているのか?」


正直私自身には選択肢はない。バイトをクビにならない方が得だから。


だが〝上杉謙信〟は違う。


会ったことはないが、本当にいた上杉謙信という人はここでノブナガの配下になるような人物ではなかったはずだ。


そんな人間たちばかりだったからこそ戦国時代では同盟を組んでも傘下に入るような大名はいなかったのだ。


でも、いや、だからかな。聞いてみたくなったんだ。この男が何を考えているのかを。


「ああ、そうだ。お前たちが俺の思っている通りの〝人間〟ならな」


「〝人間〟?」


「そう、〝人間〟だ」


「私たちはどんな〝人間〟だと?」


「利益に縛られた〝人間〟といった感じかな」


「、、、」


「あとは時々〝人間〟になる。だが戦の時は〝人間〟だ。だから今俺の目の前にいる上杉謙信もまた〝人間〟だ」


そう言ってノブナガはニヤリと意地悪く笑った。


「、、、」


私はもう何も言えなかった。禁止事項的な意味あいで。


ノブナガはこのゲームのシステムを理解している。運営さーん!バレてますよー!


「ただ一つわからないことがある。なんでお前らは〝人間〟なのかということだ」


「、、、」


それは私だってわからないわよ!人間とAIに交代でやらせるならずっとAIでいい。というか実際AIの時間の方が長いんだし。それを時々人間にして何の意味があるかわからない。更に破格の給料まで渡して。


頭がおかしいとしか思えない。でも私には関係ない。このゲームがどうなろうが、会社が潰れようが。私はお金を稼げればいい。


「悪い悪い。しゃべり過ぎた。じゃあ答えをくれないか?上杉さん」


『上杉さん』か。そこまでわかってるのか。


「わかった。私はあなたの配下につくわ」


私の言葉を聞いたノブナガは、少し驚いて笑みを浮かべる。この言葉は表向きには配下に下るという返事。そして裏では私が女であるということの開示。つまりノブナガの推測に答えをあげたのだ。


「いい答えだ」


「これからお世話になる手土産になったかな?」


「何よりものな」


「ふっ、よかったよ」


こうして私、上杉謙信はノブナガの傘下に下ることとなったのだ。

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