第29話 ノブナガと謙信

天候は晴れ、絶好の合戦日和。


ノブナガ軍と上杉軍が睨み合っている感じ。そしてもうすぐ始まるって感じ。


「てかノブナガぁ。あの忍者なんで帰しちゃったの?マズイんじゃない?ノブナガのスキル見せちゃってたし」


「見せたんだよ」


「え!?」


「向こうが何人も斥候を放ち、喉から手が出るほど欲しかった情報が俺の職業とスキルだ。そして開戦直前、その情報を持った斥候が帰ってくる。どうなると思う?」


「・・・どうなるの?」


「指揮官が揺らぐ。そして迷う。今まさに戦が始まるときに作戦変更するなんて愚の骨頂だ。だが俺の上位職に関する情報は無視できない。だから迷う。迷えば指示が遅れる。戦において遅れなんてまさに致命傷だ」


「・・・なるほど?」


「そろそろ逃がしたあいつが謙信に俺の情報を伝えた頃だろう。よし、攻めるぞ」


「・・・よくわかんないけどオッケー!!!攻めまーす!!!」


ノブナガの号令で一気にノブナガ軍は上杉に攻め込む。


私も式神出しまくる。


えっちゃんは情報伝達の要、コロポックルズは地面を凍らせて敵の機動力を削ぐ、そしてトリは・・・。なんかよくわかんないけどノブナガに指示されて飛び回っている。


マカミもコロポックルズに協力してくれている。鉄砲隊もガンガン攻めていっている。


そしてノブナガの言った通り上杉軍の動きは鈍い。これなら圧勝じゃね?そんな感じに思っていたんだけど、ノブナガはまだ全然険しい顔をしている。


「どしたの?ノブナガ。これって圧勝じゃないの?」


「普通ならな。だが上杉謙信の上位職スキルならいくらでもひっくり返される」


「え?上杉謙信の上位職わかってたの?」


「ああ、パプルとトリが調べてきてくれた」


「ん?なんで私知らされてないの?」


「お前に言ったところでなんか意味あるのか?」


ノブナガが真顔で聞いてくる。


あまりに真剣な顔だったので私も考えてみる。私がもし上杉謙信の上位職を知らされていたら。


・・・


「く、悔しいけど、、、何も言えねぇ」


私はもう黙ることしかできなかった。


「はぁ。上杉謙信の上位職の力はおそらく天候操作だ」


あ、教えてくれるんだ。ノブナガ優しい。あ、泣きそう。というか泣きながら私は声を絞り出す。


「グスっ。天候操作って何ですか?」


「多分上杉謙信の基本職は僧だ」


「なるほど。確かに白い頭巾とかかぶってるイメージだもんね!」


「それもある。というか消去法と言ったほうが正しいのかもな。他の職業があまり当てはまらない」


「でも私もそう思うよ!見た目って大事だからね!」


「ただ僧だとしても、分かったところで僧は一番分からない職業でもある」


「どういうこと?」


「僧は一つのステータスをどの職業よりも高められる。ただどのステータスを選んだかによって大きく変わってくる」


「そっか。何を極めてるのかわからないんだ」


「でも何か一つのステータスは間違いなく限界を超えているはず」


このゲームのステータスは


腕力


耐久力


器用さ


知力


カリスマ性


生命力


妖力


に分けられる。


「器用さとかだったら楽そうなんだけどね」


「それでも限界値を超えているなら何が出来るかわからない」


「それもそうか」


「更にその上位職になっているってことは限界越えどころかステージが違うほどのものになってるだろう。それがどのステータスなのか。これは職業を探るのと同じぐらい重要だ。つまり振り出しなんだよ」


「やばいじゃん。なんか手掛かりないの!?」


「それをパプルとトリが探って来てくれた。謙信の戦いは大体圧勝だからよくわからなかったが、武田信玄には何度か追い込まれたときがある。だが突如豪雨と暴風が吹き荒れたことで武田軍の侵攻を退けられたそうだ。それも一度だけでなく三度も」


「そこに謙信の職業の秘密が隠されているってことだね!」


「お前にしては珍しく頭が回るな。変なものでも食ったか?」


「うーん。新発売の激辛激甘抹茶パフェは食べたけど?てかそんなわけないじゃん!私はいつだって切れ者だよ!」


「、、、まあキレ者ではあるかもな」


「ちょっとちょっと!!!なんか言い方が違う!そんな気がする!!!」


「気のせいだよ」


「あ、そうなんだ」


「マジか、こいつ」


「え?」


「いや、なんでもない」


「でも雨と風を起こせるだけだったらそんなに強くないんじゃない?」


「本当にそう思うか?」


「え?」


「謙信の能力が予想通りだったなら絶望的だ」


「どういうこと?」


「やっぱお前バカだな。豪雨なんて降らされたら鉄砲隊が機能しない。というかこっちの強みである大量の火薬が使えない。更に強風でも吹かされたもんならアイヌの弓兵の精度も下がる。何のひねりもない単純な白兵戦になったらウチは100%負ける」


「えぇ!?マジ!?」


「当たり前だろ。兵の数も馬の数も兵の練度も何を取ってもウチが劣ってる。それも圧倒的にだ。小細工ではひっくり返せないレベルで。だから鉄砲隊、火薬、アイヌの弓兵だけが向こうを上回れる所だったんだ。これが全部潰されれば勝ち目なんてない」


「や、ヤバいじゃん!」


「ああ、最悪だ。だからちょっとだけ迷わせてみたんだよ。でもほら見ろ。早速空の様子がおかしくなってきた。暴風雨が巻き起こるぞ」


「ええ!!??」


ノブナガが言った通り、台風かよってぐらいの雨と風が急に吹き荒れ始めた。雨によって鉄砲隊は機能しなくなった。だが鉄砲隊が止まることはなかった。


私は知らなかったけどノブナガはこんな時のために銃の先端に剣をつけた銃剣を鉄砲隊に持たせていた。鉄砲隊は銃を槍に変えて突撃していく。


開戦前にノブナガから指示がされていたようだ。私は何も聞かされていなかったけど。


強風によって照準が定まらなくなった弓兵たちは空に向かって矢を放ち始めた。これもノブナガの指示である。私は一切聞かされてないけど。


空に放たれた矢にはなんかいろいろ塗られていたらしい。刺されて放っておくとそのうち死んじゃうレベルの毒的なやつ。私はたった今そう聞かされました。


突っ込んできていた上杉軍も空から降ってくる矢に毒のようなものが塗られていることに気付き、攻め込む勢いが落ちる。


「えげつないね。ノブナガ」


「天気を操るよりはマシだ」


「そんなもんかねぇ」


うん、なんかノブナガ楽しそう。





「謙信様!!!ノブナガ軍の鉄砲隊は槍隊に化け、弓兵は空から毒矢を降らしてきます!!!」



上杉謙信


レベル 470


職業 青龍


妖力over→神力86


固有スキル 天候支配



上位職『青龍』のメインスキルは天候を支配することだ。つまり私は天候を思い通りに出来る。これは戦において何よりものアドバンテージとなる。


天候を操る事が出来る私に負けなどありえるはずがなかった。


でもノブナガはそれに対応してきた。


きっと私の上位職の情報を得ていたんだろう。能力が分かったところでどうしようもないと高をくくっていた。これは私の落ち度だ。


そして開戦間近に飛び込んできたノブナガのスキル情報によって初動も遅れてしまった。


ここまで来てしまえばノブナガのスキルどうこうより、この戦況に集中した方がいい。確かに今思わぬ反撃を食らっているが、この風と雨を緩めるわけにはいかない。確実にこれは効いているのだ。


晴れさせれば鉄砲隊と弓兵が本来の働きを取り戻す。それが一番まずい。


弓兵は天候が崩れてから毒矢を使いだした。最初から使っていた方がよかったのに。


つまり毒には限りがあるのか、それなりのリスクがあるのか。


おそらく前者だと思う。


ならこのまま暴風雨を続けていればそのうち弓兵は力を失う。


私の天候操作は自軍に影響は出ない。雨にはぬれず、風の影響も受けない。唯一グラフィック的な視界の悪さはあるが、このままの悪天候を続けていればウチの軍が有利になっていくのは間違いない。


そしてそれまで耐えられる兵力がうちにはある。


今はちょっと意表を突かれているだけで、問題なく勝てるはずだ。むしろ負ける理由が見当たらない。でもなぜだろう。頭ではわかっていても心臓の鼓動が収まらない。なにか見落としていることがあるのか?


考えろ。思考を止めるな。だけど囚われてはいけない。このまま手堅く勝ち筋を詰めていく。変に考えを乱してはそれこそノブナガの術中にハマってしまう。


信じろ、上杉の力を。そして同じだけ疑え。


合戦はまだ始まったばかりだ。





ノブナガの機転で鉄砲隊と弓兵は敵の意表をついていたが、それも長くは持たなかった。そもそも今までただ撃つだけだった鉄砲隊に槍の練度はないし、弓兵の毒矢にも限りがある。基本毒矢は当てずっぽうに放っているだけ。無駄になる矢の数が多いのだ。それでもえっちゃんのモールス信号を使って、ノブナガが兵を巧みに動かすことでなんとか戦況を維持していた。


だが粘っているだけで、完全に押されている。負けるのも時間の問題だろう。全力で時間を稼いでいるといった状況だ。


だけどそんな中私とノブナガは本陣から離れていた。


「殿!足元をお気を付けください!」


伊達ちゃんを先頭に私とノブナガ、そして配下数人は鎧を脱ぎ、馬にも乗らずに森の中を歩いている。


ノブナガの作戦はこうだ。


『とりあえず数で負けてる上に、こちらの主力である鉄砲隊と弓兵が無力化される。少しは対抗するが、すぐに破られるだろう。まず間違いなく負ける』


『ヤバいじゃん!どうしよう、、、あたふた』


『だからそこは負けてやる』


『え?どゆこと?』


『戦争は負けてやる。だがその代わり欲しいものは全部貰う』


『いや、マジでどういうこと?』


『全兵を囮にして背後から上杉謙信の首を刎ねる』


『マジかいな』



という訳で私たちはたった10騎で伊達軍の本陣を裏側から目指していた。


「凄い雨と風だね!前見えないよ。しかも馬じゃなくて歩きだからめっちゃ疲れるし、鎧外してるから一撃喰らったら即お陀仏だよ?」


「謙信に気付かれずに背後を取るためにはこれぐらいしないとな。そう考えればこの暴風雨も俺たちの追い風となっている」


「そうかもだけど、どこに向かってるのかもわからないレベルだよ!」


「セイレーンが上空から常に伊達政宗の本陣の座標をモールス信号で教えてくれてるだろ」


「だけどCの48とか座標を教えられても全く意味がわからないんだよ」


「だろうな。だからお前は黙って俺について来い」


「キュン!こんなところでプロポーズ!?もうノブナガったら破天荒!でもそこにシビれる!あこがれるぅ!」


「今そのノリに付き合ってる余裕ないからあとにしろ」


「うっす」


ノブナガはえっちゃんから謙信の現在地と両軍の戦局を逐一聞いて、その都度私経由で指示を出している。


まあ私はノブナガに言われた通りにえっちゃんに伝えてるけど、まったく意味は分かってない。


だって「Aの10にビショップ」とか「Bの30にルーク」とか、そんな専門用語使われてもわからないっての。


とにかくノブナガは頭フル回転で軍を操り、細心の注意を払いながら謙信の背後を狙っていた。


まあそりゃ忙しいわな。


ランちゃん少し反省。


「もっと反省しろ」


「だから何で心読めるんだよぉ!」


「お前はわかりやすいんだよ。『顔に書いてある』っていうのが比喩じゃないぐらいだ。、、、お前大丈夫か?」


「逆に心配されたよ!」


「心配になるレベルだ。お前の心、常に全裸だぞ。俺からしたら公然わいせつ罪だ」


「公然わいせつ罪って!確かに私ってわかりやすいとは言われるけど、さすがに全裸ではないよ!ネグリジェぐらい着てるよ!ノブナガの方がおかしいんだよ!」


「俺に人の心なんかわからない。だから裏切られたんだ。お前がわかりやす過ぎるだけだろ!」


「違うね!心がわかったとしてもノブナガなら数値でしか捉えないでしょ!でも私の心を抉るようなことを言ってくるもん!」


「何が言いたい」


「ノブナガは人の心をわかろうとしてるんだよ。大丈夫。魔王にだってちゃんと心はあるよ」


「なっ、、、」


「ほら、天下のノブナガが私ごときに言い返せない。きっとノブナガは優しいよ」


「、、、」


それからしばらくノブナガは口をきいてくれなかった。全くもう!照れ屋さんなんだから!


大丈夫。ノブナガの心は私が見つけ出して見せる。そして結婚、出産、大往生となるのである。


まあそんなことを考えているうちに遂に私たちは上杉軍本陣の背後へとたどり着いた。





ウチの軍が圧している。それは間違いない。当初はノブナガの奇策に浮足立ってしまったが。今は体勢を立て直し順調にノブナガ軍を制圧していっている。


ただノブナガ軍の動きが特殊で読めず、時間はかかっている。だが時間がかかっているだけだ。このままなら日が暮れる前に勝負はつく。


やはり毒矢の数には限りがあったようで、今ではただの矢が降ってくるだけ。この悪天候では脅威ではない。鉄砲隊が槍兵に化けた時には驚いたが、兵の練度は素人に毛が生えたようなもの。ウチの兵たちの相手にはならなかった。


ただ一つ、ノブナガ軍の本陣が見当たらない。あとはノブナガの首を取れば終わりなのに。


一向にノブナガの行方がつかめない。大将がこんなに動き回るなんて聞いたことない。


まあそれができる理由はおそらく空で絶えず鳴き声を上げているセイレーン。


たぶんモールス信号のようなもの。まあオリジナルだろうから読み解けないが。傍にあのセイレーンを使役している陰陽師がいれば可能だ。


あのセイレーンを殺してしまうのが一番手っ取り早いんだが、高度が高すぎて矢も鉄砲も届かない。


急いで調べてみたが、セイレーンは飛行高度の高さと鳴き声の大きさしか取り柄がないハズレの式神だった。少なくとも運営はそう思って作ったようだ。


だけど今俺たちはそのハズレ式神によってノブナガの首を取れずにいる。それに気のせいかもしれないが敵兵が徐々に撤退しているような気がする。


もしかして逃げ帰るつもりなの?でもそれなら一気に逃げるはず。


ノブナガは一体何を考えているの?


もしかして、、、兵の命を餌にしたの?


だとしたらノブナガが狙っているのは最初から私の首だけ!


『もう遅い』


ゾクッ


どこからかそんな声が聞こえた気がした。

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