第28話 ノブナガとぷにぷに大将軍
「ノブナガ様!上杉からの斥候たちは一人残らず殺しております」
「いいね。パプル」
「ありがとうございます!!!」
「兵力で上回る相手と戦うときに一番渡しちゃいけないのが情報だ。この戦の命運はお前ら忍者衆の肩にかかっていると言ってもいい」
「心得ております!!!」
なんか最近ノブナガがパプルをめちゃくちゃ可愛がっている。
これはまずい。
確かにパプルの仕事は凄く役に立っている。と思う。今何をしているのかあんまりよくわかってないけど。
ならば私もここで上杉打倒の役に立たなくては!パプルの1.5倍ぐらいは!、、、まあせめて1.2倍ぐらいは!
「あ、そうだ。ラン、お前にも頼みたいことがあるんだけど」
「はい!ここで私の出番だね!!気が遠くなるほどのレベル上げ期間を耐え抜いた私に最早死角はないよ!!!」
「いや、正確にはお前ってよりトリになんだけど」
「え?」
『ノブナガの旦那!トリここに参上いたしました』
トリがノブナガの前で臣下の礼をしている。
私が呼んだら文句言いながら来るくせに。なんでノブナガの場合は登場と同時にひざまづいてるの?
というか私まだ呼んですらないんだけど。
ちょっと待って。これは聞いておこう。
「ねぇ!トリ!なんで言ってないのにノブナガに呼ばれたってわかったのさ!」
『ん?ああ、いたのか、ラン』
こやつ完全に私を舐めきっておる。
「いいから答えてよ!なんでさ!」
『なんか最近、旦那に呼ばれてると感じると鳥肌が立つようになってきてよ。すぐわかるようになったんだ。そして旦那に怒られたくないから少しでも旦那の機嫌をよくするために鳥肌が立ったらどんな状況であってもすぐ駈けつけるようにしてるんだよ」
、、、ダメだこりゃ。もういいよ。わかってはいたけど、これはもう確定だね。この鳥は完全にノブナガの式神だよ。いや式神ではないか。ノブナガは陰陽師じゃないし。
てことはアレだ。トリはもう完全なノブナガの忠臣だ。やれやれだぜ。
というか鳥肌が立つって、何かしらのゲームの仕様に作用してきてるじゃん。なんじゃそりゃ。
「時が来るまではこちらの情報を渡すなよ」
『うっす!!!』
「どうせ渡すなら盛大にだ」
『うっす!!!』
何やらノブナガが悪そうな顔をしておる。
「ねぇ、ノブナガ」
「なんだ?」
「徹底的に情報が漏れないようにしてるけど、やり過ぎじゃない?戦が始まる前にこんな頑張ってたら本番前に疲れちゃうんじゃない?」
「いや、疲れてるのはこっちより向こうさ。必死に俺たちの情報を探ってるけどうまくいかない。そして着々と近づいてくる俺たち。謙信は焦ってるはずだぜ。俺の上位職が分からないとまともな作戦も立てられないからな」
「なるほどね。よくわかんないけど。てかそろそろ越後につくんじゃない?」
「あと二日ってところだろーな。そろそろ来るんじゃねーか?」
「え、なにが?」
*
パプルは焦っていた。今まで問題なく上杉の忍びたちの侵入を阻止していた忍び衆たちがことごとくやられ敵の忍びが今まさにノブナガの元へ向かっているのだ。
「何なんだ!あの忍び!というか本当に忍びなのか?忍ぶ気が全くない。派手にウチの部下を蹴散らしてノブナガ様の元へと向かってる!あの忍びについて何かわかったか?」
「わかりません。わかっているのは忍びっぽくはないですが、とんでもなく強い忍者だということだけです」
唯一生き残った副官を連れてパプルは男の後を追う。
・
・
・
ここはノブナガとランがいる本隊。
「へぇ、あんたがノブナガかぁ」
ザンッ!
影から出てきた男にノブナガが切りつけられた。
「へぇ、随分派手な格好の忍びが来やがったな」
間一髪でその斬撃を避けたノブナガの前には歌舞伎役者のような派手な格好をした男が立っていた。
「ノブナガさん、あんたも俺のイメージとは随分違うな。もっと豪傑な感じをイメージしてたぜ。まさかこんな優男とは」
「お前が上杉の切り札か」
「切り札かどうかは兼ちゃんに聞いて見ねーとわからねーが、上杉最強の忍びではあるぜ」
「プレーヤーか。手強そうだな。でも名前がなんだかしまらねぇな」
「勘弁してくれよ。俺も後悔してるんだ」
「まあいいや。俺の首を獲りに来たのか?ぷにぷに大将軍」
「あわよくばな。まあそれが無理でもあんたの上位職だけは調べて来いって感じだ」
「なるほどな。おおむね予想通りだ。じゃあ、、、」
ノブナガは天羽々斬を抜く。
「ほら、かかって来いよ。戦ってみれば俺の上位職が分かるぜ?」
「、、、何を考えてる?」
ヘラヘラした感じだったぷにぷに大将軍が真剣な顔つきになる。
「自分で考えてみろよ。忍びなんだろう?」
そんなぷにぷに大将軍に対してノブナガは薄ら笑いを浮かべながら答える。
「ははは、思ったより面白い奴みたいだ。じゃあ予定を変更してマジで首を獲りに行ってみようかな」
ぷにぷに大将軍は忍び刀を構えて本気のオーラを放つ。
ぷにぷに大将軍は圧倒的なプレーヤースキルで一気に上杉家最強の忍者に上り詰めた男である。
上位職であるノブナガだってそう簡単に勝てる相手ではない。
上位職は大名になった者しかつけないが、ある程度の役職になったプレーヤーは稀に基本職から中位職にランクアップすることがある。
そしてもちろんぷにぷに大将軍も中級職となっている。
中級職 影
影に溶け込み、影を移動し、影を操る忍者の中位職である。
中位職はもちろん上位職よりも能力値は落ちる。だが、本人のレベルと使い方によっては上位職を上回ることさえある。
ぷにぷに大将軍
レベル 322
職業 影
ノブナガ
レベル 302
職業 第六天魔王
レベルはぷにぷに大将軍がノブナガを上回っている。あとは職業ごとの固有スキルの使いようだ。それ如何によってはノブナガがぷにぷに大将軍に討たれる可能性もある。
「一国の主がそんな簡単に敵兵と一対一で戦っていいのか?」
「一対一じゃねーだろ。俺の傍には兵たちがいる」
「関係ないだろ。上位職と中位職の戦いだ。そこらの一般兵なんていてもいなくてもたいして変わんねーよ」
「まあ、そうか。じゃあさっさとかかって来いよ。眠たくなってきた」
「へぇ、おもしろいな。じゃあ殺されても文句を言うなよ」
「だからやってみろって言ってんだよ」
「見せてやるよ。影の力を」
―影分身ー
ぷにぷに大将軍が一気に12人に増える。
「なるほど。それは便利だな」
「余裕かましてる場合か?」
ー影渡り―
増えたぷにぷに大将軍は自らの影へ落ちるかのように消えていく。
消えた影分身はノブナガの周りのあらゆる影から飛び出してくる。もちろんノブナガ自身の影、つまり背後からも。
―影縛り―
そのタイミングで影がノブナガを縛る。身動きが取れなくなったノブナガに影分身は一斉に切りかかる。
切りかかるというか短剣で差してくるって感じだ。
そしてノブナガはくし刺しにされる。黒ひげ危機一髪状態だ。
「呆気なかったな」
ノブナガに刺さった短剣だけを残して影分身たちは消えていく。というかぷにぷに大将軍が自分で消した。もうどう考えても戦闘は終わりだからだ。
全身を刺されているノブナガ。どう見ても生きていられるわけがない。
「いいねぇ」
「はぁ!?」
だがノブナガは余裕そうに笑みを浮かべた。
さすがのぷにぷに大将軍も冷静さを失う。
「お前ウチに欲しいな」
焦ってぷにぷに大将軍は再び影分身を展開する。
―魔王の一存―
しかし影分身たちは現れてすぐに霧散していく。
「な、何をした!?」
「我儘を通したんだ」
「はぁ!?」
そう言ったノブナガの身体からは突き刺さっていた短剣たちは抜け落ちて、傷さえももうきれいさっぱり消えていた。
「一体どういうスキルだよ」
「我儘を通すスキルさ。俺よりカリスマ値が低い者が起こした結果を、俺は一日に3度だけ書き換えられる」
降伏し、反抗の意思のない敵兵を1000人殺すと解放される第六天魔王のスキルである。
ノブナガは基本無駄に敵兵を殺したりはしないが、必要だと思ったら容赦なく殺す。
それは見せしめであったり、民の心を掴むためであったり、恐怖を与えるためだったり、理由は多岐に及ぶ。
だが必要だと感じたら躊躇なく殺すのだ。
「なんだよ、そりゃ。チートじゃねーか」
「上位職ってのは全部チートだろ」
「はぁ、そりゃそーか」
ぷにぷに大将軍は諦めたように笑った。
このゲームはドラクエとかと違って死んだらキャラが完全に削除される。
ゲームを続けるなら、新しいキャラを一から作って始めるしかない。
大昔の『高橋名人の冒険』スタイルだ。
この仕様もネットでは叩かれている。だがこれも運営は変更する気はないらしい。
いよいよ、このゲームの運営会社が何考えてるのかわからない。
だからぷにぷに大将軍はもう次のキャラをどうしようか考えていた。とりあえず次はもっとまともな名前にしようと思っていた。
「あ、別にお前は殺さないよ」
なのにノブナガはしれっとそう言い放った。
「はぁ!?どういうことだ?」
「お前にはもう少し働いてもらうつもりだからな。ただちょっと拘束させてもらう。明日には帰してやるからそれまでは眠ってろ」
「全然意味が分からない」
「分からなくていい。というかなんで敵に思惑を話すんだよ」
「そりゃそうだけど・・・」
「ラン!式神使ってコイツ拘束しとけ」
「おっけー!!!」
ぷにぷに大将軍はコロポックルズに一時的に氷結され、ノブナガの言った通り翌朝には解放された。
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