第22話 伊達政宗、ノブナガにめちゃめちゃされる
「我に続け―!!!」
単純な戦闘能力なら俺が戦国でも最強だ。ウチの兵たちの戦闘能力も他の国に比べて高い。数で劣ったところでそんなもの伊達には問題ないのだ。
ぽっとでの大名の軍隊なんて恐れるに足らず!
ひと思いに叩き潰してやる!!!
ドン!ドン!ドドドドドドドドド!!!!
え?
突如耳をつんざくような爆音が止めどなく響き渡る。
誰もが驚き、思考が停止した。だが馬たちはそれでは済まなかった。爆音に驚き、暴れ狂い、乗せていた兵たちを落としてそこら中へ逃げていった。
もちろん俺も落とされた。
馬から落とされてしまった俺は顔を上げて敵陣を見つめる。そこにはもうすでに第二陣が構えている鉄砲隊が見えた。
鉄砲隊??いや蝦夷からきた軍が鉄砲隊?そんなわけないだろ!・・・いや、鉄砲隊だな。
マジかよ!
名前が同じだけだと思ってたが、今尾張で名を上げている織田信長よりも信長らしいじゃないか!
そんなことを考えている間に第二射が放たれた。
今度は馬だけでなく兵にもダメージを与えてくる。そしてその範囲が大きい。
俺やウチの武将たちなら鉄砲など大したダメージではない。だが一般兵はそうはいかない。
鉄砲隊か。厄介だ。
ウチの兵の損失は甚大。この後兵力を戻すのに骨が折れる。
だがそれだけだ。負けはない。俺がいれば、あとはまあ武将たちがいれば、簡単にこの程度の軍は滅ぼせる。
そこに心配はない。だがこの戦が終わった後に軍を再建することを考えると頭が痛くなる。まあいい。そういう面倒なことはさっさと戦を終わらせ、祝勝の宴でしこたま飲んだその後に考えよう。
「怯むな!ひたすら真っすぐ進め!馬は使い物にならないが、俺たちのステータスなら鉄砲で簡単に死ぬことはないんだ!ただ行軍のスピードが落ちただけと考えればいい!」
鉄砲隊だけでは俺たちを殺しきることはできない。このままノブナガの首を取って戦を終わらせてやる。
「政宗様!!!真っすぐ進みたいのは山々なんですが、敵の陣形がコロコロ変わり真っ向勝負に持ち込めません!!!」
「陣形が動くなら追えばいいだけだろ!」
「それがまるで生き物のように陣が動き回り追いきれません」
まあ生き物のようにって相手は人間なんだからそもそも生き物だろうがとは思ったが、多分そういうことじゃないと思ったので、言わないでおいた。
聞いたところノブナガ軍は最初の鉄砲隊の一斉放射連発のあとは隊を細かく分けて各々がうちの死角から攻撃をしてきているらしい。そして攻撃が終わればすぐに退いて姿を消す。
まるで見えない敵と戦っているかのようだ。
うちの自慢の攻撃力が全く機能していない。いや機能させてもらえてないのか。
「左翼がやられたと思ってそちらに兵を裂いた瞬間に突如右翼に攻撃が!なので今度は後方から右翼に兵を裂いて敵兵を追いかけたところ、ちょうどそのタイミングで右翼後方が攻められました!」
「はぁ!?なんだそりゃ!!!」
何でそんな風にうちの動きを完全にとらえながら複数の隊が示し合わせたように時間差で攻撃してこれるんだ?
どうやってるんだ!
このままじゃ戦いにならない。俺たちは攻めることが出来ずに終わるぞ!
*
「ノブナガ待ってよー!次はどこ行くの?」
「どうせ言ってもわからないんだから黙ってついて来い」
ノブナガはえっちゃんを使いながら細かくモールス信号で兵たちに指示を出していた。まあ私経由でだけどね。全くノブノブったら私がいないとダメなんだから!
陰陽師は式神と離れていても意思の疎通が出来るからね。ちなみに実は私モールス信号あんまり覚えていません。でもウチのえっちゃんが完璧に覚えてる。さすが私の唯一ちゃんとした式神。えっちゃん、ランお姉ちゃんは感動してるよ。
「てか鉄砲隊うまくいってよかったね!」
「うまくいくに決まってるだろ」
「でも鉄砲隊の人たちってほとんどが農民の家の長男意外なんだよね?よかったの?武士じゃなくて」
「鉄砲隊なんて誰でもできる」
「え、そうなの」
「鉄砲の一番の脅威は威力じゃなくあの音だ。アレが数百一片に撃ち鳴らされれば敵に衝撃と畏怖を与える。だから撃てばいいだけなんだよ。狙う必要なんてない。普通に撃てば真っすぐ飛んでいくんだから」
「なるほど。でもこの前まで農民だった人がいきなり戦争に出るのは厳しいんじゃない?」
「体力的には問題ない。畑仕事やってるんだから。あとは心の問題だが、ただ引き金をひくだけの行為に罪悪感は生まれない。罪悪感ってのは『撃つ』ことにではなく『狙う』ことに感じるからだ」
「そんなもんかね~。まあでもうまく行ってるからいいね!それで今はどこに向かってるの?というか何でこんなに頻繁に動きまくってるの?」
「敵は戦闘能力だけなら最強の軍隊だと言ってもいい。だが真っすぐしか動けない猪みたいなもんだ。どんなに強くても猪が人間に勝てるわけがないってことよ」
「、、、よくわかんない」
「、、、もういいから黙ってろ」
ノブナガの言うことは私には難しくてよくわからない。でもね、ノブノブ。私はそんなノブノブがカッコよくて、キュンキュンしちゃって、どんどん好きになっちゃってるんだよ♡
「なんか黙っててもうるさい気がするな、お前」
「もう、照れ屋さん♡」
「その♡やめてくれない?」
「もう、この第六照れ魔王♡」
「、、、」
*
「どうしてノブナガ軍の動きを掴めないんだ!!!」
「とにかく動きが早いんです。攻撃を受けたことに気付いた時にはもう視界から消えているらしく」
「斥候は何をやっているんだ!」
「斥候は放っているのですが、斥候の動きも見破られているようで、、、」
「なら斥候の数を増やせ!そして全員に伝えろ!軍の動きはもうどうでもいい。ノブナガを見つけ出せ!そして首を取ってこいとな!」
「は、はい!!!」
ノブナガ軍はどうやってウチの動きを読みながら動けているんだ?
たとえ斥候を放ってこっちの情報を得たとしても、持ち帰ってくるまでには時間がかかる。狼煙のようなものなら早いが、大したことは伝えられない。〇✕△ぐらいなもんだ。それじゃあ細かい指示は出せない。
そもそも狼煙なんか上がってないしな。
そう思って空を見た。
空?
そう言えば合戦が始まってからずっと空から鳥の鳴き声がしている。
まるで空から見てるかのようにウチの軍の裏をかくような動き。
もしかして!?
空を見渡してみる。鳥なんて飛んでやしない。一羽たりとも。
もしかしたらここからじゃ視認できないほどの上空に音の発生源があるのか?
だとしたらそれは鳥じゃない。式神だ。
式神ということはノブナガはこの鳥の鳴き声で指示を出してるのか?どういう原理かはわからないが、もしそうなら対処のしようはある。
「ドラを鳴らせ!!!兵たちにも声を出させろ!!!」
「え?」
「いいからやれ!!!」
「は、はい!!!」
これで少しは向こう側の連絡網を乱せられるはず。
*
突然伊達軍はドラを鳴らしたり、兵たちが声上げだしたり、大きな音を鳴らし始めた。
ノブナガの言った通りだ。
『まあ大した鳥も飛んでないのにひっきりなしに鳥の鳴き声が響き渡り、兵たちが複雑な動きをしていることがわかれば、バカでもその鳴き声が指示を出していることぐらいわかるだろう』
『じゃあヤバいじゃん!!!』
『まあ気付いたところで解読はできない。これは俺のオリジナルモールス信号だからな』
『はぁ、なら大丈夫じゃん』
『わからないなら妨害してくるだろう。もっと大きい音を出して俺たちに聞こえなくなるように』
『え!?じゃあやっぱりヤバいじゃん!!!』
『別にいい。気付く頃には手遅れだ。さらに音を出すことに人員を裂いてくれるならより一層攻略しやすくなる。だから伊達軍が音を出し始めたら攻め時。一気に勝負を決める』
ノブナガが開戦前に言っていたことだ。
そして今まさに音が鳴りだした。つまり―
「今だ!!!伊達政宗の首を獲るぞ!!!」
「「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」
ノブナガは散らした隊たちの一つとして兵を率いていた。
うちの馬たちは鉄砲の音で取り乱さないように訓練されている。つまりうちの騎馬隊は平常運転だ。
一方で伊達軍の馬はもう使い物になっていない。
つまりスピードが圧倒的に違う。
ノブナガは馬に乗るのが得意な兵たちを連れて動いていた。そしてノブナガはその先頭を走っている。
「ねぇ、ノブナガ!大将って一番後ろで座っとくもんじゃないの?」
「俺はそういう大将じゃない。天下取りなんて最初から最後まで終始命がけなんだよ。リスクは大きければ大きいほどリターンも大きい。だから強者ってのは自分の命を平気でベットできる。それができないやつに天下を取る資格はない」
そこまで言ってノブナガは後ろを振り返る。なんかノブナガが振り返ったから私もとりあえず振り返ってみた。
「「「「「ノブナガ様に捧げろォー!!!」」」」
自ら先陣を切っていくノブナガに兵たちは感動し、士気はぶちあがっていた。
「すごっ!」
「もう止まらない。伊達の首を獲るまで俺たちの軍は突き進んでいく」
「・・・ノブナガも同じような顔してる」
ノブナガもまた獰猛な目をしていた。獲物を狙う獣の目だ。
「そうか?まあここからが戦の醍醐味だからな」
「、、、?ノブナガ!もしかして自分で伊達政宗の首を取るつもりなの?」
、、、いや、そんなわけないか。
「首を取るかどうかはわからんが、一目会ってみたいなと思ってな。この世界の伊達政宗に」
「えぇ!?伊達政宗のところまで行くの!?」
「軽く話してみたいだけだ」
「・・・」
違うね。私にはわかる。ノブナガは自分の手で伊達政宗の首を獲るつもりだ。
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