第21話 私とノブナガ、若干伊達政宗

俺は本田義美。東京体育大学3年。ラグビー部主将。体育教師志望。そしてバイトで『信長の覇道Online』というゲームの伊達政宗をやっている。


伊達政宗といえば独眼竜として名をはせた大大名。


この戦国の世には強敵も多いが、俺の上位職の力もあって今日まで敵を退けて来た。


そう、そうやって有名大名たちと戦ってきたんだ。それでうまくやれていた。そうやって東北を支配してきたのだ。


なのにだ。


それなのに。


まさか伊達が北から攻められるなんて。


しかも相手は隠しステージの蝦夷でアイヌをまとめ上げ、その後最上家を倒して大名の座を奪い取ったらしい。


最上とはうまくやっていた。


基本的に俺は自分の領土を守ることを優先している。


無理に領土を広げようとはしない。


俺はこの地位を、この給料を守りたいだけだからだ。


他の大名の領地を奪えば給料は更に上がるらしいが、忙しくもなる。


俺は今ぐらいがちょうどいい。


たまに攻めてくる大名たちも本気でウチの領地を獲ろうとはしていなかったと思う。きっと俺と同じ理由なんだろうと思っていた。


まあ尾張にはガンガン領地広げてる大名もいるらしいが、多分半分ぐらいの大名は現状維持を望んでいるだろう。


だが今回攻めてくるのは自力で大名になったプレイヤーだ。同じバイト大名との小競り合いとは違う。このゲームはプレイヤーで領土を持つとリアルのお金も稼げる。だからこそ領土を持つのは難しい。基本的には大名に仕えて武功を上げ、領地を任されるまでになるというのが定石だ。


だがノブナガは自らの手で大名になった。そんな奴がこのまま止まるわけがない。


ノブナガは本気でこの陸奥を獲りに来る。


「政宗さま!北のノブナガ軍が近くまで迫ってきています」


「わかっている。こちらの兵の準備も整った。所詮新参者の大名だ。返り討ちにするぞ!」


「わかりました」


「先陣は俺が切る」


「殿が出張ってくれるならノブナガ軍など恐れるに足りません!」


「当たり前だ」


俺は侍の上位職、独眼竜だ。決して誇張した表現ではなく本物の一騎当千。


敵の兵数が多くとも、俺一人いれば覆せる。更にウチの武将たちもハイレベルの侍たちが多い。一騎当千とまでは行かなくても、一騎で百に匹敵するだろう。


そう、大丈夫だ。


ノブナガ軍に勝ち目なんかないはず。


来週に控えているラグビーの全国大会に比べれば、簡単な試合。ダブルスコアで勝ってやろ。





伊達政宗の職業はパプルがバッチリ調べてきてくれました。


伊達政宗の基本職は侍。そして大名である政宗は上位職になっている。政宗の上位職は『独眼龍』。個人の戦闘能力特化の上位職だ。



伊達政宗


レベル 340


職業 独眼竜



まさに一騎当千と言った規格外の戦闘能力を持っているらしい。


それを聞いてヤバいじゃんって私は思ったんだけど・・・。ノブナガは笑ってた。


「思ったより楽そうな相手だったな」


「え!?どこが楽なの!?」


「強いだけなら大した脅威でもない」


「でも一騎当千って言われてるんだよ?」


「千ぐらいならなんの問題もない。こっちにはモールス信号と鉄砲隊がいるからな」


「そうなの??」


「向こうはこっちに鉄砲があることを分かっていない。騎馬兵なんか何の意味もない。馬は鉄砲の音で使い物にならなくなる」


「あ、長篠の戦いだね!」


「そうだ。そしてモールス信号のおかげで常にウチが先手を取れる」


「なるほど!じゃあ!」


「勝ったも同然だ。陸奥を取りに行くぞ」


「おお!!!」


ノブナガはパプルの情報を兵全体に共有させ、鉄砲隊を前線に配置した。





合戦当日。


「ねぇ、ノブナガ。さっきは強いだけなら余裕とか言ってたけど。パプルの追加報告じゃ政宗だけじゃなく武将や兵たちもかなり強いらしいよ。数で負けててもガンガン勝ってきたって」


「、、、確かに。思ってたより強いな。チート級だ。ちょっとヤバいかもな」


え!?ノブナガが弱気!?珍し!!!、、、でも待てよ。ここだね!妻の出番!任せてよ、ノブナガ!ノブナガの妻として私はノブナガにパワーを与えるよ!


「ん?おい、なんでお前おもむろに服を脱ぎだしてるんだ?」


「みなまで言うな!ノブナガよ!わかってるってば!旦那が弱気になってるとき妻がすべきことは一つ!エッチなことだよね!」


「どんな理屈だ!というか別に弱気になってない」


「え!?でもヤバいって言ったじゃん!」


「正攻法じゃ負けるなってだけだ」


「じゃあどうするのさ!」


「強いのは侍。馬は普通。だからこれは当初の予定通り鉄砲隊がいればなんとかなる。だが鉄砲を使うことをバレないように細心の注意を払わないといけないだろう。先頭が歩兵だったら銃が利かなそうだ」


「でも馬なんとかしてからどうするのさ。敵兵強すぎてHPエグイんでしょ?それこそ鉄砲が効かないぐらい」


「鉄砲だけじゃない。こっちにはモールス信号があることを忘れるな」


「・・・前から言ってるけど、モールス信号ってそんなに重要?」


「鉄砲隊や火薬の何倍も重要だ。むしろ最強と言ってもいい」


「えぇ~、本当に~??」


「大丈夫だ。お前にモールス信号の重要性が分かるとは思っていない」


「な、なんでさ!」


「お前がバカだからに決まってるだろ。わざわざ聞くな。心が痛む」


「教えてよー。モールス信号がなんでそんなにすごいのか。私気になります!!!」


「はぁ、、、たとえばお前と俺がデートしていて、それを阻止しようとする人間がいるとする」


「なに!その不届き者は!私とノブナガの恋路を邪魔する奴はケンタウロスに蹴られて死ぬべきだよ!」


「俺たちは待ち合わせ場所や目的地を敵に気付かれないように変更しなくてはいけない。だがその時に携帯電話がなければどうなる?」


「ぜ、絶望。。。」


「逆に携帯電話があれば?」


「私たちのデートは成功するね!つまりそれが戦国でのモールス信号ってことか!」


「何となくわかったか?」


「うん!!!私たちのデートを邪魔することは何人たりとも出来はしない!つまり二人はベストカップル!!!」


「、、、まあいいや、それで。俺の例えも良くなかった。まあとにかく、、、ちゃっちゃと伊達政宗の首取って帰るぞ」


「がってん!!!!今日の晩御飯は焼肉食べに行くよ!!!」


よーくわかったよ、ノブナガ。私たちのこの戦国ランデブーは伊達政宗ごときじゃ止められないってことね。


首をゴシゴシ洗っときな。政宗ちゃん。


開戦と同時に私の無限収納から取り出した大量の鉄砲を前線に渡した。


この陰陽師の目玉スキル『無限収納』ってめちゃめちゃ便利なんだけど、一人だったらアイテムボックスで事足りるのであまり重要視されていない。


でも一から大名を目指すようなプレイヤーであれば別だ。


私は大名を目指してるわけではないけど、私の横には第六天魔王織田信長がいる。


ならばこれ以上に有用なスキルもないでしょうに!


ノブナガは鉄砲が行き届き、兵たちの準備が整ったのを確認し、一斉発砲の合図を出す。


伊達戦スタートですっ!

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