第20話 私とえっちゃん

「ノブナガ、完全に機械生命体だね!」


「てか何してたんだよ、お前。おせーよ」


「女の子にはそういうときがあるんだよ!」


「あ、そう。まあいいや。てかお前はめちゃめちゃ美青年だな」


「エルフってそういう種族なんだと思うよ」


「飛行したりレーザー攻撃はできるがエクス・マキナはスタミナ値の減り方が早いな」


「一番燃費悪いっぽいね。ちなみにエルフは一番燃費がいいよ」


「スタミナ回復のためのエーテルリアクターを買いこまないといけないけど、めちゃめちゃ高いな」


「私は、いや、ごほん!俺は一番安い薬草でスタミナ回復できるよ!」


「まあ種族によって色々長所と短所があるんだろーが、俺たちは両極端な種族を選んだみたいだな」


「確かに!あ、そう言えば聞きたかったんだけど、なんで『信長の覇道』以外のゲームをやる気になったの?魔法に興味があったってのもあるんだろうけど、それだけじゃないでしょ?」


「よくわかったな」


「だってノブナガが天下取りに関係ないことを自分からやるわけないもん」


「そうだな。少し頭の中をリセットして、新しい考え方が必要だと思ったんだ」


「なんで?」


「ここからは大大名を相手にしなきゃいけない。まだ合戦に慣れていないアイヌ。そもそも武士とは戦い方が違う。馬の数も足りない。正攻法じゃ勝ち目はない。だったら現実よりファンタジーの方にこそヒントがありそうだ」


「な、なるほど、、、」


「いや、分かってないな、お前。とにかく国の方向性は示した。放っておいても国は強くなるだろう。だったらその間、俺たちはここでなにか企んでみよう」


あ、悪い顔した。この顔キュンと来る!


「大丈夫、大丈夫。ほぼほぼ理解した!問題なし!」


ノブナガは何やら難しいことを言っててよくわかんない。まあ筋金入りの天下取り脳だなとは思った。


ただ私にだって目的はある。それはノブナガとBLを繰り広げること。つまりノブナガについて行き、親密になるだけ。男子として。


「とりあえずモンスターでも狩りに行くか」


「まずはそれだね!」


『テイルズ オブ キャメロット』にはただの動物とは別に、モンスターがいる。モンスターは結界によって街には入って来ないが、一歩でも街を出れば襲い掛かってくる。


モンスターはこのゲームのラスボスである魔王の配下となっており、人間たちを無条件に襲う。


モンスターの種類は多岐に及ぶ、獣や虫の姿をしたもの、人間に近い姿のもの、ゴーストやスケルトンなどの特殊なもの。


このモンスターたちを狩ってレベルを上げるのだ。


モンスターを狩れば冒険者ギルドから報酬がもらえる。


というわけで私たちはモンスター狩りに出かけたのだ。



―スピードアップ、ストレングスアップ、命中率アップ―



そしてこの世界には魔法が存在する。



―ウインドアロー―



魔法は全部で7属性に分かれる。


火、水、風、土、聖、闇、無


種族や職業によって得意な分野は変わってくる。


エクス・マキナが得意とするのは無属性魔法。さらにエンチャンターも無属性魔法に特化した職業だ。味方や敵に何かしらの効果を付与する魔法が主。


『信長の覇道』での傾奇者と似た感じの職業だ。割とノブナガってサポート好きなのかな。


それによってノブナガは私のステータスを底上げしてくれた。


一方私の種族であるエルフは、風属性の魔法を得意としている。


矢に風魔法を加え、威力と精度、貫通力を高めるのだ。


まあ2人共前衛職ではないから、基本的に狩りは離れたところから行うことになる。


レンジャーの固有スキル「遠見」が役に立っている。


さすが私!


ある程度レベルを上げたところで私たちははじまりの街を出て、ダンジョンに向かうことにした。


この世界には無数のダンジョンが存在する。


ダンジョンはそれ自体が生き物。ダンジョンコアを壊さない限り、モンスターやトラップは無限に湧く。ただこのモンスターたちはダンジョンの外には出られない。


ダンジョンからの魔力供給が無くなれば存在を保てないからだ。


でもだからこそレベル上げには絶好の場所なのである。


今回私たちがやって来たのは初級ダンジョン『ゴブリンの廃城』。ゴブリンの王が住む廃城だ。ここは亜人系モンスターのダンジョン。ゴブリンだけでなく、オーク、オーガ、トロール、あと他にも色々出てくるらしい。


「ノブナガ、ダンジョンのエリアに入ったみたいだよ」


「まあここで上げられるだけレベル上げとくか。明日には『信長の覇道』にもどるからな。また息抜きしたくなったら来よう」


「なにかいいアイデアでも浮かんだの?」


「ざっくりとだがな。もう少しここでの戦闘をやってみて形にする」


「おっけー!」


私たちは互いにある程度離れながらダンジョン攻略を進めた。離れると言っても信長の付与魔法が届く範囲ギリギリまでだ。


互いの連絡手段としては私の風魔法とノブナガの付与魔法を組み合わせて行った。


「5階も危なげなく攻略できたね」


「ドロップアイテムを回収して、回復を済ませたら6階に進むぞ」


「がってん!」


私たちは会話をしているが、距離はとても声なんか届くわけないほどに離れている。


ではなぜこうして普通に会話ができるのか。


簡単に言うと私の風魔法によって声を遠くへ飛ばしている。そしてノブナガの付与魔法により、その範囲を拡大。更に声の指向性を限りなく絞ることでノブナガと私を繋ぐ直線上にいない限り私とノブナガしか聞こえないホットラインと化したのだ。


前衛職もいない。遠距離からしか戦えない。しかもたった二人。本当なら、ちゃんとパーティ組んでから来なさいと追い返されるところ。


でも私たちは止まることなくスイスイ進んだ。


それはこの迅速な連絡方法の成果である。


互いにある程度離れて戦わないといけないウチのパーティにおいてはこれが何よりも役に立つ。


ノブナガは言っていた。


「ほとんど時間差なく、離れた味方に指示を出せる。この魔法の価値は数百の兵に勝る」


ノブナガが言った通り私たちはあっという間にダンジョンを攻略し、キリがいいこの辺で一旦このゲームからログアウトした。


「ノブナガ!それで戦国でも使えるアイデアは?」


「情報のスムーズな伝達は戦場において何よりも価値がある。もし戦国時代にスマホがあったら戦争にならない。情報戦になるだろう。逆にどこか一国だけがスマホを持っていたなら、簡単に天下など取れてしまう」


「え!?スマホってそんなにすごいの!?」


「まあスマホというかこの時間差のない通信技術を各国が持っていたとしたら、戦争が成り立たなくなるってことだ。金が多い方が、兵が多い方が、兵器を多く持っている方が勝つ。大番狂わせなど一切起こらない。結果なんてやる前にわかる。そもそも人が戦場に赴く必要性さえなくなっていく。数字だけで勝敗が決まる。やる前に結果が分かるんなら戦争なんかする意味がないだろう」


「でもまだ戦争は無くなってないと思うんだけど」


「それは駆け引きのカードの一枚として残ってるだけだ。本当に始まってしまったら単純に弱い方が負ける」


「それだったら駆け引きにならないんじゃないの?」


「勝てなくても損害は与えられる。金を使わせられる。それは強者からしたら避けたい。小国を取ったところで元を取れないからな。そうなれば他の大国に遅れを取ることにもなってしまう。だから小国は戦争をチラつかせて少しでも自分たちにとっていい落としどころを強国に飲ませるんだ。まあそれが外交だな。どっちみち強国からしたら損はない。利益が多いか少ないかだけの違い。逆に小国は必死だ。大きなマイナスか小さなマイナスかがかかってるからな。儲けが大きくなるか少なくなるかを考えている方より、負債が少なくて済むのか多大なる負債を背負うのかの方が必死になるだろ」


「確かに」


「まあここに思想や歴史などが関わってくると損得だけでは判断できなくなるが、まあ俺にはどうでもいい」


「でも『信長の覇道』の中には魔法はないよ?」


「そうだな。直接声を届けることは不可能だ」


「やっぱ無理じゃ~ん」


「だがただデカい音を出すだけならできる」


「え?どういうこと?」


「モールス信号なら使える」


「モールス信号って何だっけ?」


「なんで現代の知識をお前の方が知らないんだよ」


私はノブナガからモールス信号というものを親切丁寧に教えられた。


「ああ、なるほど!!!それならいけるじゃん!」


「まあそれもお前の式神がいないと難しいがな」


「なるほど私のターンってことだね」


「いや式神のターンてことだよ」


「・・・」


「敵にも聞こえてしまうが本物のモールス信号とはルールを変えてしまえば問題ない」


「名案じゃん!」


「でもそのうち信号の意味は分からなくても音で指示を出していることはバレるだろう。それなら妨害するために向こうもむやみやたらに音を出して来るだろうな」


「それじゃだめじゃん」


「いや、それでいい。敵は本来ならやらなくていい、音を出すという行為に人員を裂かなくてはいけなくなる。それにそれだけじゃ妨害できない独特の音を大音量で出せばいい」


「なんかよくわからないけど、勝利フラグが立ったことは理解した!」


フラグがガン立ちしたところで、私たちは『信長の覇道』の世界に帰って来た。


「よっしゃー!じゃあこっからはモールス信号使って天下統一だね!」


「ああ、そしてそのためにはセイレーンの力が必要だ」


ん?セイレーン?あの痴女のこと?


「え?出すの?あの子」


「当たり前だろ。拡声のスキルも持ってるし、あの鳴き声は特殊だ」


「で、でもやめた方がいいのでは?あの子ってあの~、破廉恥だし?戦場には向かないのでは?」


「いいから呼べ」


「は、はい、、、」


ノブナガの目がマジだった。


「今日から兵たちにはノブナガ式モールス信号の表を配り、セイレーンに鳴き声を出させながら覚えてもらう。ちなみにお前もな」


「え!?私も覚えるの!?」


「当たり前だろ。お前がセイレーンにモールス信号を教えるんだから」


「私勉強苦手なんだけど、、、」


「そんな当たり前なことわかってる。だから死ぬ気でやれ」


「えぇ~!?」


「この連絡方法を兵たちに叩きこみ、確立できれば、いよいよ伊達を落としに行くぞ」


「、、、お、おお!やってやんぜ!」





ノブナガは私に兵を任せて、ウヌちゃんとレベル上げに行ってしまった。


「副官殿!もう一度エロス殿に鳴き声を出させてください!」


いつの間にか私は副官になっていたようだ。


「わかったわかった。じゃあエロスお願い」


「キー!!!」


エロスが嬉しそうに飛んでいく。エロスは人語をしゃべれない。レベルがまだ低いのか。それともやはりダンジョンのボスレベルじゃないと話せないのか。


でも私の命令だけは完璧に通じる。


というか私の命令に忠実に、もしろ嬉しそうに従ってくれるのは式神の中でこのエロスだけだ。私こそ嬉しい。というか可愛い。名前エロスにしてマジごめん。私はあんたを大事にしていくよ。


「皆の衆!今からエロスのことはえっちゃんと呼ぶように!!!」


「「「「「は、はい!!!」」」


私とえっちゃんの努力により、一月後ノブナガ軍の指揮系統は確立される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る