第18話 ノブナガと紫式部とBL

「さて国を獲ったことで俺は大名になった。ここからは国としてしっかり構えて、他国と戦っていかなきゃいけない。という訳でしばらくはこの土地の平定に努めるぞ」


「平定?」


「まずはこの国を豊かにして地盤を固めるってことだ」


「あ、ここからは内政シミュレーションゲームに移行ってことだね!」


「お前、平定って言葉が分からなかっただけか。うん、やっぱりバカだな」


「ノブナガの言い方が古いだけだよ!なるほど、じゃあここからは頭を使うパートってことだね!腕が鳴るよ!」


「うん、だからお前はその辺でレベル上げしといて」


「え?私もやるよ!内政!」


「いや無理だろ」


「なんでさ!」


「だってお前バカじゃん」


「え、、、」


「というか日本屈指のバカじゃん。さっきも頭使うって言ってるのに腕鳴っちゃってただろ」


「うっ!」


「だからさっさとレベル上げにいけ。頭を使おうとするな。体を使え」


「うーんと今もしかして私ってバカにされてる?」


「ほら、それにさえ気づけないんだから内政なんか絶対に無理だ。というか邪魔だ。今お前にできることはレベル上げ。この一点のみ」


「ノブナガちょっとひどくなーい?」


「はぁ?」


ノブナガが本気でウザそうに私を見てくる。


「、、、レベル上げしてきやーす」


「あと国を作り上げるまではしばらく戦争は回避したい。外交をうまいことやる必要があるな。そして外交で最も重要となってくるのが情報だ。優秀な斥候がほしい」


「ふーん、まあよくわからないけど、忍者が必要ってことね」


「だからそれも探してこい」


「おっけー!じゃあそれはトリにやらせるよ」


優秀な忍が必要ってことね。任せなさいっての!そういうのは私得意!だと思う。


「トリ!職業忍者でレベル高めの優秀な奴をスカウトしてきて!」


『めんどくせーな。なんで俺がそんなこと』


「ちなみにこれはノブナガからの命令です」


『よ、よっしゃー!行ってくるぜ!』


なんなのうちの式神、、、。


という訳でトリをスカウトに向かわせ、私はコロポックルたちと一緒にレベル上げに精を出すことになった。


私がレベルをある程度上げ、トリが優秀な忍者を探してきたころ、ノブナガは法律を作り烏合の衆だった人々に共通の規律を生み出した。


そして経済を回すために関税を失くして他の国からどんどん商人を受け入れた。これこそノブナガの必殺技『楽市楽座』だ。


更にノブナガは各地の職人に津軽焼、小久慈焼、堤焼、楢岡焼、深山焼を作らせ、それを大名たちに高値で売りさばいた。


更に教育、農民と武士の差別化。


農民は農業だけ、武士は戦争のことだけ。これを徹底することで収穫量と兵の練度を上げたのだ。


と、思う。なんかそんな感じのことをやっているように感じました。


うん、多分そんな感じ。


戦国時代でもノブナガそんな感じのことやってたし。





私はトリが見つけて来た忍者をノブナガの元へと連れていく。


名前はパプル。細かい話は覚えてないけど、凄い忍者だとトリが言っていた。


「よく来たな。パプル」


「はっ!ノブナガ様から直接お呼びいただけるとは恐悦至極にございます」


そう言ってパプルは臣下の礼をした。パプルはもちろんプレイヤーだ。つまりかなり仕上げてきている。家臣のロールプレイがよくできてる。かなりやりこむ系と見た。


「それでお前に近隣諸国の諜報活動を行って欲しいんだけど、お前がこのゲームに求めてるものは何だ?」


「え?」


「人は自分の中に譲れないものがあり、それを理解していないと裏切られることになる。光秀の時みたいにな。だからそれを知っておきたい」


やはりノブナガは光秀の裏切りを引きずってるんだね。いつかノブナガのトラウマを私が取り払ってあげるからね。


「私がこのゲームに求めているのは創作意欲です」


創作?


「創作?」


「私はリアルで漫画を描いているんですが、その創作に生かせるかと思ってこのゲームを始めました。そしてあなたの傍にいた方が面白い話が描けそうと思ったんです」


「なるほど、わかりやすい。つまり俺がこの戦国の世で一番面白く居る限りお前は俺の部下であり続けるということだな」


「はい」


「逆に俺にあえてピンチを与えたりした方が面白くなるんじゃないのか?」


「あ、それはないですね。私が描きたいのはそういう系の話でなく。天下を取る主とその忠臣との熱いつながりの話なので」


「忠臣てのがお前か」


「はい、ここからは戦国の世に語り継がれるレベルの忠臣になるつもりです。そんな感じのキャラでやって行こうと」


なんかすげー活き活き答えてる。こいつ、本気だな。でもこのパプル、何か臭う。私の第六感がそう告げている。


「おっけー、採用。じゃあ仕事を任す。ちゃんとした働きをすれば幹部に召したててやる」


あっさり採用すんのかーい!


「わかりました!期待に応えて見せます!」


そう言ってパプルは仕事へと向かって行った。


「ノブナガー。簡単に信じちゃって大丈夫なの?自分で連れてきといてなんだけど」


「利益以外で動くやつは面白い。そしてゲームではそっちの方が人を強く動かすらしい。お前なんか特にそうだろ」


「それはそうかもだけど、なんか嫌な予感するんだよね。なにか私のポジションを脅かしそうな」


「なんじゃそりゃ」


後日パプルは期待以上の情報を手土産に帰って来た。そしてこの働きをもってパプルは幹部に昇格。忍者衆の頭となった。






私の名は紫式部。



今いるこの世界は私にとっての聖地。私はきっと生まれる時代を間違えた。だから本来私が生まれるべきだったこの時代に何かしらのすごい力で飛んできたんだろう。


私がタイムスリップしてきたのは3年前。この世界に降り立った私は一瞬で理解した。ここはBLの国だと。なんかもう臭いで分かった。BL臭が半端なかったのだ。


そこから私は紆余曲折を経てBL同人サークルに入り、創作活動に没頭した。画力を上げるのには苦労したが、そこは紫式部。BLのためなら時さえ超えて見せる女。


そしてBLを目の前にすればどこまでも突っ走る女。


今ではこうして自分の本を出せるまでになった。


私の本はかなりの人気だ。だがまだまだ。もっと本当の男同士の友情を表現したい。そしてそこからグチャグチャにしたい。


でも私は女だ。ここにきて自分の性別が足枷になるとは。


そんなある日、BL仲間のなっちからゲームを紹介された。


『信長の覇道』


まあなんか戦国時代で生活するVRMMORPGだ。なっちはBL+歴女なところもあってガチハマりしているようだ。私も誘われ、なんとなくプレイしようとしたその時、この選択画面が現れた。



→男性

 

 女性



衝撃というか盲点であった。


あ、男になれる。


自分でBL出来る。


これが『信長の覇道』にドハマりするきっかけとなった。


だけどまだちゃんとしたBLが出来てない。私だって軽い気持ちで相手を選ぶつもりはない。それこそ漫画のようなドラマチックな出会いを待っているのだ。


ちなみに私のキャラはこちら



キャラネーム パプル


レベル 52


職業 忍者




今のところ流れの忍者って感じでやってる。戦場で運命の出会いがあるのかもと思って戦ってきたが、所詮男なんて獣でしかないとわかった。


BLの世界にいるような男子は存在しないのだ。


あの日、私は最上家に雇われて合戦に参加していた。都会の男に幻滅してちょっと北へ来てみたのだ。それでもいいBLが出来そうな男はおらず、適当に忍者っぽいことをやっていた。


そしてノブナガの本陣を探っていたときに、出会ってしまったのだ。


運命の人に。



『ラン、そろそろ最上の首を獲りに行くぞ』


『え!?まだ早いんじゃないの?』


『いいや、今だ』


『まあいいか。ノブナガがそういうんなら間違いないね。それじゃあでっぱつだぁ!!!』


『ついて来い』



一目見て分かった。私が聞いても突拍子もないことを言う主君。だが彼の言葉ならと疑うことなく動く家臣の女性。そして彼女ならそう言うと信じて疑っていない主君。


これこそ私が求めていたもの。


戦国ならではの主君と家臣の熱い忠義からのBL。これだ!!!これしかない!!!


私もノブナガ様の信のおける部下となれば、そのときこそ私が望んでいたBLができる。


ラン様もまあまあいいが、所詮女。男であるノブナガ様とは結ばれぬ運命(さだめ)。


だからこそ私だ。私がノブナガ様と崇高なBLを作り上げる。ふふふ、冬コミが楽しみだわ。きっと最高傑作が描けるはず。


まだ末端の一兵に過ぎないが、私の能力ならすぐさまノブナガ様の側近になれるだろう。ノブナガ様は実力のあるものなら分け隔てなく登用してくれるらしい。


そしてノブナガ様の側近になり、ラン様のような信頼を得て、最終的にはお尻を差し出すのだ。


想像しただけでネームが捗る捗る。

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