第17話 ノブナガVS最上義光
お泊りデートを済ませ、大人の階段を登ってしまった私たちはゲームに戻って来ていた。
「いよいよ天下取りスタートだね」
「まずは東北を俺たちの国にするぞ」
「オッケー!じゃあまずは青森からだね!」
「青森はまああっという間だけどな」
「え?」
ノブナガは言った通りあっという間に青森を支配した。マジであっという間だった。若干引いた。
「ノブナガ、なんでこんなに簡単に征服できちゃってんの?」
「下見もしたし、この辺は特に支配している大名もいないんだから当たり前だ」
「でもこの先にはいるんだよね」
「ああ、出羽国を治めている最上義光がいる」
出羽国は山形と秋田辺りの国である。
「ノブナガ知ってる人?」
「戦国の時には少しな。だがこのゲームの世界ではまた違うんだろう」
「ちなみに戦国バージョンはどんな人だったの?」
「自分の地位を守るために必死なだけの小物だったな。天下を狙える器じゃなかった」
「じゃあこっちでも弱いんじゃない?」
「まあ兵力的には圧勝だろうな。ただ最上自身の力が気になる」
「どういうこと?」
「この世界では大名の地位に就くと職業がワンランク上の上級職になる。上級職は基本職に比べて格の違う強さになるらしい」
「確かにそんなルールあったね!」
「奴がどんな職業でどんなスキルを持ってるかによってはひっくり返される可能性もあるかもしれない」
「つまり?」
「お前には最上の職業について探ってきて欲しい」
「がってん!」
*
信長の覇道では8つの職業の中から一つを選ぶこととなる。
・侍
・忍者
・武術家
・神職
・僧
・薬師
・陰陽師
・傾奇者
この中からだ。
侍
全職業中、個々の戦闘能力では最強。前線で戦うことに特化した職業。
忍者
スピードや隠密能力に長け、忍法という固有スキルも使える。暗殺や斥候に向いた職業。
武術家
攻撃力は低いが全職業中最高のHPと防御力を誇る。盾役に特化した職業。
神職
回復系の術とバフ系の術を得意とする職業。
僧
僧は一つの道を極める者。一つのステータスだけなら全職業中最高値を目指せる。その代わり他のステータスはあまり伸ばせないバランスの悪い職業だ。どのステータスを伸ばすかは各々選択できる。
薬師
薬を作ることができる職業。あらかじめ作った薬により、回復や状態異常の解除ができる。固有スキルとしては敵へのデバフ能力。状態異常を与えることができる。
陰陽師
召喚士。調伏した妖怪を自分の式神にして使役することができる。本人の力や性質は使役している式神によって大きく異なる。
傾奇者
基礎戦闘能力は全職業中最下位。だがバフとデバフにおいては全職業中最も優秀。大勢の仲間や大勢の敵がいる場合に力を発揮する職業。
*
「とういう訳で最上さんのとこまで行って、職業見てきてー」
『俺は見ただけじゃ職業とかステータスはわかんないぞ?』
「嘘、マジかよ。使えねーな」
『基本的にプレイヤーやNPC同士だけだぞ。互いのステータス見られるの』
「そうなの?」
『基本的に式神にそんな能力いらないだろ。基本戦闘の時には術者が相手のステータス見れるんだから』
「じゃあどうするのさ。ノブナガに思いっきり『がってん!』って言っちゃったよ?」
『旦那ならそんなことわかってるだろ。だから最上の能力が分かるような情報を集めて来いってことなんだと思うぞ』
「なるほど!そういうことなら集めてきちゃって!」
『はいはい、わかったよ』
「いってらー」
こうして私はトリからの情報を待つことになった。
*
2日後、私たちがいよいよ最上義光の本拠地山形城の前に到着した時、ちょうどトリは戻って来た。
『旦那!敵の情報を集められるだけ集めてきましたよ!あ、あとラン』
あれ?こいつ今主のこと忘れてなかった?
「あいつの職業が分かったか?」
『上級職ってのは本人の個性に左右される一人一つだけのものなのでわかりませんでしたが、城主になる前の基本職はわかりました』
「え、上級職って同じのないの?」
「お前はちゃんとゲームマニュアルを読め。上級職ってのはキャラの成長のさせ方によって決まる一人だけの職業だ。だが違いはあれど基本的には基本職のパワーアップ版て感じだ」
「そうなんだ~。一つ賢くなったよ~」
「いやお前は何一つ賢くなってない。寝言は寝て言え」
「ちょっと!ひどくない!?」
「それで最上の基本職は何だった?」
おっと、まさかの無視だよ。私みたいな鋼の精神を持っていなかったら、引きこもってるとこだよ?
『奴の基本職は薬師だったらしいです』
「薬師か。大名らしくない職業だな」
『旦那の前世の世界と同じように、ゴマをするのが得意だったらしく。薬師のスキルで大名が喜びそうな特殊な薬を作って、交渉のために贈っていたらしいっす』
「なるほどな」
『ちなみに旦那と同じ名前の織田信長には頻繁に贈っていたらしいっす』
「そう考えると回復系よりも、大名たちが喜びそうな特殊効果を持った薬製作に特化してそうだな」
『おそらく』
「大名たちが喜ぶ薬って何?もしかしてバイ〇グラ?」
「戦国時代にそんなもの貰って喜ぶのは朝廷か、バカな将軍家ぐらいだ」
「じゃあ何さ」
「戦国大名が欲しがるものなんて二つ。金と戦力だ」
「なるほど、、、、ってことはつまり何なの?」
「はぁ、生産性を上げるための薬と兵力を底上げできる薬だろうなってことだ」
『確かに最上義光が家督を継いでから領内の作物の生産量は上がっています』
「兵力の方は?」
『最上家自体が戦をしていないのでわかりませんが、最上から贈り物をもらった直後徳川軍は寡兵で敵を退けたと聞きます』
「ドーピング的なもんか」
『更にその兵たちは力だけでなく、死さえも恐れない狂戦士だったとか』
「なるほど。肉体だけでなく精神にも作用するものか。ちなみにその兵たちはどうなった」
『敵を退けたと同時に全員が死んだらしいです』
「精神も肉体も燃やし尽くすみたいな薬か。劇薬だな。確かにそんな薬を大勢の兵に使うわけにはいかないか。だが寡兵で敵に対抗するには、いや兵を使い捨てるにはとても有用な薬だな」
『ただ薬師の上級職です。それ以外の薬も作れるかもしれないですね』
「だろうな。本当の自分の切り札を他国に贈るわけない」
『報告は以上です』
「よくやった。あとで褒美をやる」
『あざっす!』
そう言ってトリは帰って行った。主に挨拶もせず。というか主の許しも得ず。
そもそも全く私に報告してなかったよね。終始ノブナガに報告してたよね。気付いてはいたけどあいつ完全に私を舐めてやがる。
忠誠誓ってたよね。このゲーム内の忠誠ってこんなに緩いの?全然敬わないくせに硫黄だけは忘れずきっちり要求してきやがって。
「トリめ!私の式神の癖に!」
「大体のことはわかった。じゃあ山形城を攻め落とすか」
私の声はノブナガにさえも拾われず、空に消えていった。
「でもヤバい薬いっぱい持ってるんでしょ?どうするの?」
「農業の生産力は上がってるから金もあるだろう。そして兵たちを狂戦士にする薬もある。だったら一気に攻め込む」
「いいの?そんな無謀な感じで」
「無謀は向こうだろ」
「え?」
ノブナガが言った通り、私たちは全勢力で一気に攻め込んだ。本当なら攻城戦ってのはゆっくりじっくりやるのが定石なのに。
案の定最上軍は私たち目がけて突っ込んでくる。でも目つきがおかしい。もうイカレてしまっているようだ。
だがある程度交戦したところでノブナガはあっさりと撤退した。
「どうするの?ノブナガ。どう見てもヤバそうな目した兵たちが私たちを必死に追って来てるよ」
「ヤバいんだから戦わねーよ」
「でもどこまで逃げても地の果てまで追っかけてきそうな感じだよ?」
「誰が逃げるって言った。戦わないって言っただけだ」
「え?」
「全兵反転!」
「え?」
ノブナガはある程度のところまで撤退して最上の狂戦士たちを引き付けたところで反転して再び山形城を目指した。
いやそんなの意味ないじゃん!結局狂戦士たちと戦うことになるじゃん!
と、思ったんだけど、狂戦士たちは応戦する気配もなくその場に次々と倒れていった。
「え、なにこれ?ノブナガ、覇王色の覇気でも出したの?」
「出るわけねーだろ。単純に薬の効き目が切れたんだ」
「え?あ、そっか。てことはわざと誘い出したんだね!」
「どうせ時間が来れば勝手に倒れるんだ。自滅させた方がいいだろ」
「さすがノブナガ!で、ここからどうするの?」
「一気に攻め込む」
「え、また?」
「敵は俺たちが攻めきれずに退き、作戦を練りなおすと思ってる。そこに狂戦士たちを送り込んだんだ。このへんで狂戦士たちが時間切れなのもわかってるだろう。だがその対応に手一杯で俺たちはロクな作戦も考えられていないと思ってる。再度攻め込まれるまではしばらく時間があると。だから今攻める。作戦なんかいらない。今が戦力的にも精神的にも一番手薄な状態だからな。ついでに時間もいいしな」
ノブナガはそのまま真夜中の山形城を一気に攻め落とす。
めっちゃあっという間に落とした。え?落ちた?てか落ちるって何?って感じだった。
そして城内を全て制圧したノブナガは今まさに最上義光と向かい合っていた。
「やってくれたな!ノブナガ!!!」
最上は激昂しているが、ノブナガは涼しい顔で淡々と返す。
「お前が弱いからだ」
「なんだと!!!」
「何を怒ってるんだ?それが戦国だろーが」
「貴様ぁ!!!」
―錬金術スキル 分子組み換えー
最上は何もないところから炎を生み出してノブナガにぶつける。まあ簡単に言うとロ〇・マス〇ングである。てかこの人の職業、錬金術師だったんだ。
最上義光
レベル 189
職業 錬金術師
ザン!
だがノブナガはその炎を真っ二つに切り裂く。
「さすがの切れ味だ。ハバキリ」
『このぐらい容易いわ。主よ』
「嘘だろ?お前は何なんだよ!」
最上義光は怯えながら後退る。
「なんだと思う?」
「ひっ!」
ノブナガからとんでもないオーラが噴き出し、義光は腰を抜かして尻餅をつく。いやこれもう覇王色の覇気でしょ。
「俺は第六天魔王、織田上総介信長。まあ覚えなくていい。さっさと死ね」
ノブナガは義光の返事を聞く前にハバキリで首を刎ねた。この瞬間、ノブナガの肩書は大名となった。
「ちなみにノブナガー、義光の懐になんか危なそうな薬何個か入ってたんだけど」
「え?」
「これが切り札だったんじゃないの?」
「マジか」
「切り札を使わせる前に倒しちゃったんだ。バトルマンガで一番やっちゃいけないやつだね」
「、、、その薬は見なかったことにしろ。あいつは全力で戦ったよ。その薬をさっさと捨ててこい」
「、、、うーっす」
でも捨てはしなかった。なんか凄そうな薬っぽかったし、捨てるのはもったいなかったから。私はこっそりカバンに入れた。どっかで高く売れるかもしれないしね。
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