第9話 ノブナガ、ジジイのロマンスに巻き込まれる

私、ノブナガ、ウヌカルは獣を倒しながら過酷な雪の道を大雪山へ向かって進んでいた。


「ごあああ!!!」


そんな私たちの前にまたもや獣。




ツキノワグマ


レベル68




「ツキノワグマ」は蝦夷トップクラスの獣だ。



―将の檄―



ノブナガのスキルで私とトリのステータスが10分間だけ1.5倍になる。


「トリ!こんがり焼いちゃって!」


『火加減とかめんどくせーから消し炭にする』


「ちょ、ちょっと待って!トリ!」


私が制止しようとした時にはもうツキノワグマは灰になっていた。


「ほらまだまだ来るぞ!全部で五匹だ。10分以内に倒せよ。この術が切れたら5分間ステータスが半分になるぞ」


『了解しました!旦那!』


「てかなんでトリは主の私よりノブナガに命令されたときの方が従順なの?」


『おっかねぇからに決まってんだろーが!』


そう言ってトリはツキノワグマに向かっていく。


「あと大事な食料だ。次消し炭にしたら殺す」


『うぐっ!了解です』


トリは一生懸命火加減し、苦戦しながらもツキノワグマ5体を倒す。


『こ、これでどうでしょうか』


「まあ及第点だな。生かしといてやる」


『あざーす!!!』


マジで主どっち?まあいいけど。とりあえず私のアイテムボックスに熊肉を保管する。


「皆を回復なの!」


ウヌカルの回復術を受けた私たちは今日はここで野営することにした。


野営のときは野営アイテムにプラスしてウヌカルの結界術で獣たちの侵入を防ぐ。


晩御飯は熊肉が手に入ったので熊鍋だ。これ結構旨いんだよね。


「ねぇねぇノブナガ、カムイ・ミンタラまではあとどれぐらいなの?」


ウヌカルったらやっぱり子供ね。子供にはわからないわよね。


・・・


あとどのくらいなんだろ。


「明日の夕方ごろには麓に辿り着くだろう」


あ、そうなんだ。


「そうそう。夕方には麓よ」


「絶対お前分かってなかったろ」


「メチャメチャ分かってたもん!一昨日ぐらいからわかってたもん!私の計算ドンピシャだもん!」


「まあいいや。麓についたらタライって男に会いに行くぞ。アイヌの連中の話ではそいつは大口真神を崇拝している部族の生き残りで、大口真神に会ったことのある数少ない人間らしい。なんか重要キャラっぽいから何か教えてくれんだろ」


こうして私たちはタライを探すことになった。


のだけど秒で見つかった。


『ようこそ大口真神様のお膝元カムイ・ミンタラへようこそ』


麓にはそう書かれた派手な看板が立っていたのだ。


「え、なにこれ。雰囲気台無しなんだけど」


「色んな色で文字が書かれててきれいなの!」


「・・・」


看板の下には小さな小屋があった。ああ、絶対ここにいるじゃん。


するとその小屋から勢いよくジジイが飛び出してきた。


「ようこそ!蝦夷の霊峰カムイ・ミンタラへ!」


「テンション高いジジイってなんか引くな」


「そうだね」


「元気なおじいちゃんなの!」


「お主らここに来たということはもしかして登るのか?登るんじゃろ!登るよな!」


「このジジイぐいぐい来るな」


「うん、ぐいぐい来るジジイってのもやっぱり引くね」


「おじいちゃんがぐいぐいなの!」


「一応聞いとくけどジイさん、あんたがタライであってるか?」


「その通り!儂が大口真神様の最後の忠臣タライである!」


「最後ってのはどういうことだ?」


「単純にここ寒すぎるからみんないなくなったのじゃ。あの不敬な者どもめ!」


「あ、そんな理由なんだ」


うん、思ってたのと違う。


「ねえ、おじいさん。あの看板なに?これから過酷なダンジョン攻略が始まると思って緊張してたのに、なんか肩の力抜けたんだけど」


「そう、それが狙いじゃ!このダンジョン高難易度だから誰もビビッて入ってこない。そこでファンシーな看板で入りやすい雰囲気を作り上げてみたのじゃ!」


「で、このファンシーで誰か入って来たのか?」


「うむ、30年前にひとり来て以来来てはいないな」


「そりゃな。高難易度ダンジョンの入り口にファンシーな看板が立ってるとか逆に不気味だし、年月起ちすぎて今ではインク滲んじゃってむしろホラーだもの」


「・・・まあ・・・そんなことはいいのじゃ!とりあえず来たんだから登ってけ!ほれ、登ってけ!よし!今夜は儂が手料理を振る舞ってやる!うちの小屋に来い!」


「「「・・・うーん」」」


「いいから来い!ぶち殺すぞ!!!」


「ウヌカルこのジジイきらーい」


いよいよウヌカルにまで嫌われだしたジジイだが、終始目が血走っていて断ると危なそうだったので私たちはジジイの家に泊めてもらうこととなった。


「よし、これ食え。これも食え。これもうまいぞ」


これが年寄り特有のめっちゃ食わせてくるやつだ。というか本当に久しぶりの客なんだろう。めちゃめちゃテンション上がってる。むしろ怖い。なんかヤバい薬でもやっているのかと感じるレベルだ。


「30年ぶりに人に会うとこんな感じになるんだろう」


「そんなもんなんだね」


「このジジイ、なんか怖いの」


「だけど飯はうまいな」


「これは儂が仕留めた熊、鹿、兎、あとなんかそんな感じの獣たちじゃ」


「ジジイキモいけど飯はおいしいの!」


「確かにご飯の味は褒めてあげてもよくってよ!」


「どういうツンデレだよ。お前ら」


ご飯だけでなくジジイ自家製のお酒も貰って、案外この日は楽しく盛り上がって眠りについた。



翌朝


「ちょっとおじいさん、なんでフル装備なの?」


「はぁ!?カムイ・ミンタラに登るならこれぐらい準備は必要だろうが!」


「え?ジジイも着いてくるの!?」


「何を言ってる。儂はそのためにこの場所で長い年月待っていたのだ」


着いてくる気満々やん。


「儂はこの山の麓に辿りつき、それでもここをスルーせずに頂きを目指すものを待っていたのだ」


てかジジイ、自分の5倍ぐらいの斧を担いでる。やべぇ。


「なんで待ってたんだよ。山頂に行きたいなら一人ででも行けばよかったろう。少なくても30年以上はここにいるんだろ?」


「山頂ぐらいいくらでも行けるさ。ただ儂が行っても意味がないんじゃ!大口真神様、、、いやあのクソ狼!あいつのせいで儂は!」


「おい、このジジイ、実は全然大口真神崇めてないぞ」


「崇めるか!あんなもん!一応テンプレとして崇めてる感出してやっただけじゃい!嫌味みたいなもんだ!」


「結構溜まってるな。それはそうとなんでジジイはが一人で行っても意味がないんだ?」


「話せば長くなるが、簡単に言うとクソ狼は儂の嫁じゃ」


「はぁ!?」


「儂は70年前にこの山の山頂で大口真神に出会った。そしてなんかいい感じなロマンスがあって結婚することになった。結婚して1週間ほど経った頃、あいつがエゾシカを食べたいと言った。だから仕留めに行ったのじゃ。そして2日後、鹿肉をもって帰ったが意味はなかった」


「ん?なんでだ?」


「寝やがったからじゃ!」


「はぁ?」


「儂が鹿を仕留めてくる間暇だったんだろう。寝てしまったんじゃよ」


「おいおい、もしかしてまだ寝てるのか?」


「ああ、あの日から未だに眠り続けている。儂は婚姻関係を結んでいるからあいつを起こせない。儂は真神に危害をくわえられないのだ」


「いや、危害って。ただ起こすだけだろ?」


「神獣ってのはざっくりしとるんじゃ、そのへん」


「で、俺たちに起こせと?」


「ああ、起こしてほしい。もう儂も死ぬ。その前にもう一度会いたい」


黙って聞いていたけど、なんか最終的にいい感じの雰囲気で着地しそうだけども、一つだけ言いたい。


大分時間置いちゃったけど、ジジイの口からロマンスって言葉が出るのキメー!!!!

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