第8話 ノブナガ ミーツ みっちょん

なんとかランたちのパーティに入ることができた。やっぱり近くで見張ってないと何が起こるわからないからね。あの娘バカだから。


まあ私は巫女っていうレアな職業だからいけるとは思ってたけど、相手はあの愚かなランだからね。でもノブナガはちゃんとゲームを理解していてよかった。


まあゲーム内でだけしっかりしていても意味ないんだけどね。おそらくニートだから。


「みっちょんおはよー!」


「ランおはよう」


「今日も一緒に講義受けまくろうぜ!」


「講義受けまくるって何よ」


無駄にテンション高いのよね、この子。


「どう?みっちょん!何か聞きたいことあるんじゃない?ねぇねぇ」


そして今日もウザい。


「なにをよ」


「見ればわかるじゃん!ほら、聞いて聞いて」


「見て分かんないから言ってるのよ」


「もう鈍いんだからぁ。そんな鈍さでこの先大丈夫?」


「あんたにだけは心配されたくないわ」


「ここで聞くことは一つでしょ。『何かいいことあったの?』でしょーが」


なんかやれやれみたいな感じで私を見ている。心の底からイラっとする。


「はぁ、何かいいことあったの?」


「よくぞ聞いてくれました!私とノブナガに娘が出来たの!」


「はぁ!?」


「アイヌの子でウヌカルって言うんだけどノブナガにも懐いてるし二人の養子として育てようと思ってね!」


いや、それ私!マジかこの子。予想の斜め上を行くバカさだわ。


「あ、そう」


バカすぎてなんかもうどうでもよくなってきた。


「まあ今は3人家族だけど、ノブナガと私の本当の子供もどんどん作ってビッ〇マム海賊団みたいにしようと思ってるんだ―」


ミヨ!ダメよ!私が諦めたらこのバカを救える人間はいなくなる。救う価値もないバカだけど、これでも一応友達。見捨てるわけにはいかないわ。


「あのさ。あんたが言ってるのってもしかしてゲームの話?」


「え?そうだよ。言ってなかったっけ?」


「言ってねーよ」


「VRゲームの『信長の覇道Online』だよ。みっちょん知ってる?」


知ってるわよ。てか私そこで働いてるわよ。


「まあなんとなくは。でもあんたゲームの話ならちゃんとそう言いなさいよ。現実みたいに話すから聞いてる方はわけわかんなくなるのよ」


「それはかたじけ~。まあでもノブナガと一緒に住んでるのは本当だけどね!」


「え!?本当なの?」


「うん!」


一番ヤバいのが本当だった―!


「というかノブナガってゲームのキャラネームじゃなかったの?」


「本名もノブナガだよ」


「な、なんで一緒に住むことになったの?」


「渋谷で行き倒れてたから拾ったの!」


「ひ、拾った!?ノブナガさんはあんたの家で何してんの!?」


「一日中ゲームしてるね!私が養ってるんだ~。えへへ」


えへへじゃないわよ、このおバカ!ニートどころかヒモじゃない!


「ちょっとラン!その男ヤバいんじゃない!?あんたバカだから知らないかもしれないけどそういうのヒモって言うのよ!世の女性たちから蔑まれている存在よ!」


「でも家事は全部やってくれてるから」


だからそれをヒモって言うんだよ!


「ち、ちなみにそのノブナガって人は何歳なの?」


「歳?歳は50歳だったかな」


完全に詰んでるじゃねーかー!!!


「今日は講義を受けてる場合じゃないわ。私今からあんたの家に行く!」


「え?」


「そしてそのノブナガって人に会う!」


「ええ!?」


「これは決定事項だから!」


私がなんとかしなくちゃいけない。これはバカな友達を持った私の使命よ。





なぜかみっちょんが突然うちに来ることになった。そしてノブナガに会わせろという。


あまりの迫力だったから了承しちゃったけど、一体みっちょんは何を考えているんだろう。


はっ!もしやみっちょんもノブナガを狙っている!?みっちょんのビッチセンサーがノブナガの天下人オーラを察知したのかも。


みっちょん恐ろしい子。


でもいくらみっちょんにでもノブナガは渡せない!!!


これは天下分け目の戦だ!


「ノブナガ、ただまー!!!」





さっきからランが私を警戒している。このバカな子のことだ。どうせ私がノブナガを狙っているとでも思ってるのだろう。


なわけあるか!50歳のヒモ男を狙う女なんてこの令和の時代にいるわけないでしょ。


私の役目はまずランの目を覚まさせること。そしてノブナガにも自分のやっていることがどれだけ愚かかわからせること。


最悪通報も考えている。


「ノブナガ、ただまー!!!」


さあ決戦の時だ。


「早かったな。学校はいいのか?」


「今日はみっちょんがノブナガに会いたいって言うから早退してきたんだよ」


「ということはあんたがみっちょんか」


「あなたがノブナガさんね」


ちょっとオーラが凄すぎなんだけど!50歳ニート、ヒモ男のオーラじゃないんだけど!


ちょっと待って、なんか思ってたのと違う!見た目もマジでカッコいいんだけど!


「林美代って言います。よろしく」


「俺は織田信長だ。こちらこそよろしくな」


あれ?もうちょっと待って。この人本当に織田信長なんじゃない?


「ね、みっちょん。だから織田信長だって言ったでしょ」


ダメダメダメ!正気を取り戻すのよ、美代!目の前のカッコいいおじ様はものすっごく織田信長っぽいけど。


落ち着くのよ、私。目の前にいるのはただのヒモ男、ただのヒモ男、ただのヒモ男。


よし!もう大丈夫!


「ノブナガさん、あなたランに養ってもらいながら働きもせずにゲームばっかりやってるそうですね」


「まあそうなるな」


「恥ずかしくないんですか!いい歳してこんなバカ娘に養われて!」


「確かに。こんなバカ娘に養われているのは恥ずかしいな」


「ちょっと二人してバカバカ言わないでよ!」


「分かってくれたならよかったです!」


「だが俺にはどうしてもゲームをしなくてはいけない理由があるんだ」


「それはどんな理由ですか?」


「俺は天下取りしてないと発作が起こるんだよ。織田信長だけに」


「はぁ!?なにそれ?」


「ノブナガって定期的に天下取りやってないと過呼吸になるんだよ!」


「なにその意味わかんない病気!」


「だが落ち着け、みっちょん。今までの分の金をランに返す算段はある」


「え?」


「実はこの『信長の覇道Online』ではRMT(リアルマネートレード)が禁止されていない。中にはプロゲーマーとしてプレイしている連中もいる。まあ少なくとも自分の領地を持っていないと暮らしてはいけないらしいが」


そう言えば確かにプロプレイヤーがいるゲームだ。


どこかの大名に仕え、幹部にまで上り詰め、領地を与えられ、その領地経営でお金を稼げば現金にかえる方法がある。まあ領地経営、戦争にもお金がかかるから余った分になるけど。


でもそれなりの領地を治めれば暮らしていける分にはなるという。トッププレイヤーでは年収1000万以上稼ぐ人もいるとか。


「で、でもゲームでお金を稼いでいるプロなんてほんの数人しかいないんですよ?普通に考えたら無理だと思うんですけど」


「数人もいるんだろう?それなら簡単だ。俺は織田信長、天下人になる男だ」


た、確かに。あっという間にアイヌをまとめ上げてたし、なんか織田信長っぽいし本当に出来るっぽい。ああ、ダメだ。なんかよくわかんなくなってきた。


「信長、そのセリフって。ワン〇ース読んだ?」


「世界観は違うけど天下を目指す話で、めっちゃ共感した。熱くなった。感動した。もっと仲間に優しくしておけばよかった」


「なんと!ノブナガの考え方がワン〇ースによって変えられた!?」


「麦わら〇一味から仲間の大切さを学んだ俺にもう死角はない!次があったら光秀ソッコー殺す!」


「学んだようで学んでない!まあいいや!ノブナガお腹空いた!」


「そうだな。もうすぐ昼か。ちょうど昨日の夜中から煮込んでるビーフシチューがいい頃合いだ」


「ひゅー!!!ビーフシチュー!!!ヘイヘーイ!!!」


「みっちょんも食っていけよ。沢山作ってあるから」


「え?お昼ご飯?まだ頭の整理がついてないんだけど」


「みっちょん!ノブナガの料理は最高だよ!食べて行ってよ!」


「う、うん」


困惑しているうちにノブナガの手料理がテーブルに並んだ。


「このビーフシチューは牛肉、セロリ、玉ねぎ、人参、トマトをじっくりコトコト煮込んだもんだ。野菜は溶け切っているから野菜嫌いのランでも食えるだろう。付け合わせのパンはグルテンを意識して米粉から作った自家製だ」


「美味しい!ノブナガの料理は野菜が入ってるのが分からないから大好き!」


「本当だ。すっごくおいしいです!」


「それならよかった」


ランは大の野菜嫌いで基本的にジャンクなものばかり食べている。そんなランの食生活も私は心配し何度も野菜を食べるように言ってきた。だがいくら言ってもランが野菜を食べたことは一度もなかった。そんなランが野菜たっぷりのビーフシチューをもぐもぐ食べている。


「ラン?ノブナガさんはこういう料理を毎日作ってくれてるの?」


「うん!一日3食作ってくれてるよ!」


「最近あんたが学校に持ってきてるお弁当もそうなの?」


「言ってなかったっけ?」


「言ってないわよ。あんたが作るわけないから、使用人にでも作ってもらってるのかと思ってたわ」


「もうみっちょんったら~。さすがに1人暮らしで使用人なんていないよ~。実家じゃあるまいし」


「実家にはいるんかい!」


「いや実家にはいるでしょ。赤髪海〇団ぐらいはいるでしょ」


「いねぇよ!てかめっちゃいるな!」


そういえばノブナガのことばかり考えていたから気付かなかったが、前に来た時より部屋がきれいになっている。そこら中に脱ぎ捨てられていた服もない。もしかして―


「ラン、ノブナガさんって掃除洗濯もやってくれてる?」


「うん、家事全般はノブナガがやってくれてるよ!前に言ったじゃん」


「その時はあんたの妄想だと思ってたから。マジか」


これヒモというより主夫では、、、。


まあいいか。そんなことよりこのビーフシチュー美味しすぎ。ビーフシチューが美味しすぎてランのこととかどうでもよくなってきた。


最後は手作りデザートまでいただき、バイトの時間が迫ってきた私はそこでおいとました。


「じゃあまたねー!みっちょん!」


確かにノブナガさんは思っていたのとはだいぶ違っていた。だが忘れてはいけない。彼は無職だ。プロゲーマーになると言っていてなんかなれそうとか思ってしまったけど、これってめっちゃめちゃニートが言いそうな言葉じゃん!


しっかりしなきゃ!ちゃんと監視していかないと!現実でもゲームの中でも。


ファイトよ!美代!

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