第6話 ノブナガ、あっという間に王となる
私たちはアイヌの集落の入り口に立っていた。案内をしてくれたのはノブナガが助けた少女『ウヌカル』だ。
「ここが私たちの村なの!」
かわいい。かなりかわいい。ノブナガと私の子供が生まれたらこんな感じなんだろうか。てかこのゲームのNPC完成度たけぇな、おい。
「私が村長に話をしてくるから少し待っててほしいの!」
「わかった」
「いってらっしゃい!」
ウヌカルは集落の中へとてけてけ駆けていく。そんな可愛いウヌカルの背をノブナガが指さす。
「ラン、あのガキのステータス見てみろ」
「え?」
ウヌカル
レベル 27
称号 アイヌの神子 村長の娘
職業 巫女
スキル 治癒 範囲治癒 継続治癒 結界術
「ステータスやば!」
「だろ?それにアイヌの神子って称号も気になる。もしかしたら蝦夷攻略のキーマンになるやつかもしれない」
「マジかいな」
少ししたらウヌカルは満面の笑みで駆け寄って来た。
「村長が会ってくれるって言ってるの!」
私たちはウヌカルに案内されて村長の家に向かった。
「君たちがウヌカルを助けてくれた恩人たちか」
髭面のおっさん村長がそこにはいた。
「確かに俺たちがその娘を助けた。だが俺たちは―
「わかっている。和の国の者たちだな」
「わかっているならいい。俺たちはお前たちを支配下に置くためにここに来た」
えぇーーー!!!いきなりそれ言うの!?ノブナガー!!!もっと綿密な策があるんじゃないのぉーーー!?
「はぁ、恩人が一瞬で侵略者に様変わりか。言っておくが我々は降伏しないぞ。アイヌは和人に屈したりしない」
「そうかい。いや、そうでないとつまらん。じゃあ和人ではなく俺、オダノブナガに屈してもらおうか」
「織田信長じゃと?」
村長の目の色が変わる。
「ああ、そうか。悪い悪いその織田信長とはちょっと違う」
「どういうことじゃ?」
「うーん、この世界ではそうだな。ただの同姓同名だ」
「、、、ではただのノブナガが一体何の用じゃ」
「言っただろう。俺はお前たちの王になる」
「我々は屈しないと―
「今の戦国時代を傍観していてどうする。これから起こるお前らの未来を教えてやろうか」
村長が声を上げるがそれを遮ってノブナガが話を続ける。
「未来だと?」
「戦国の世はそのうち終わる。誰かが天下をとってな。そしてそこからは長い平安の世が訪れる。戦が終われば全ての大名が疲弊する。新しい政権は他の大名が力を回復することを全力で防ぐだろう。そういう政策を打ち出す。平和にはなるが国力は衰える。各地から力を奪うわけだからな。では次にどうなるか。海外からの攻撃だ。日本はこれに対抗できない。おそらく従属に近い地位を強制される。搾取されて物資が足りなくなった日本がこの広大な土地を放っておくわけない。お前らは結局占領される」
「話し合いという道だってある!」
「それはない」
「なぜだ!」
「お前らは舐められてるからだ」
「はぁ!?」
「格下相手に交渉をする者はいない。従属を望む。海外が日本にするように」
「舐められていると言い切る理由を言え!」
「武士じゃないから」
「え?」
「戦国を戦っていないから。戦争を知らないから。150年近く戦いから逃げていたから」
「我々は逃げていたわけではない!」
「だとしてもそう捉える。参加しないことは逃げることと同義なんだよ、戦国では」
「我々は欲深くないだけだ!」
「野心がないってのは弱さだ」
「くっ!」
「結果お前らは殺されるだけでなく、文化も奪われる」
「どういうことだ?」
「アイヌ語は禁じられ日本語を話さなくてはいけなくなる。その民族衣装は脱がされ和人と同じ着物を着せられる。狩猟ではなく畑作を強制される。あんたたちが信じている自然界の神たちはすべて否定され天皇だけを神と崇めさせられる。そして差別が始まり子孫たちが迫害を受ける。まあざっとこんなもんか」
「そ、それは本当なのか?」
初めて会ったノブナガの言葉を村長や周りの人間たちも信じ始めてしまっている。普通ならあり得ない。でも私もわかる。ノブナガの言葉には半端じゃない説得力がある。
これは異常に高いノブナガのカリスマ値のせいなのか。ノブナガ本人の力なのか。まあどちらもなんだろう。
ちなみに今のノブナガのカリスマ値は118700。目の前の村長さんが100なところを見るとかなりヤバいのだろう。
カリスマ値を上げる条件やカリスマ値が何に作用するのか、公式でも伏せられている。つまり謎ステータスなのだ。
ノブナガは村長の心を掴んだあと、村人たちの前でも演説を行い支持を得る。そしてゲーム内で3カ月たったころ、ノブナガは新村長へと就任した。
「よっ!ノブナガ村長!」
「その呼び方はやめろ、ラン」
「え、なんで?称えてるのに」
「すぐに呼び名が変わるからだ」
「どういうこと?」
「周りの村々、それだけでなく北海道全土に檄文を送った。近いうちに各地のアイヌの長達がここに集まるだろう。俺はその会議でこの蝦夷の王になる」
「マジ!?王様ってそんなすぐなれるの?私の実家も財閥になるためには何代もかかったらしいよ」
「できる。というかそれぐらいできなければ天下統一などできん」
「、、、それもそうか」
「楽しみにしてろ、ラン。蝦夷をまとめたらいよいよ楽しい楽しい天下取りのはじまりだ」
「にゅふふ。それは楽しみですな!」
「笑い方キモ」
「それは言わないお約束!」
*
三週間後、函館に各地のアイヌの長たちが集合した。
会議では終始ノブナガが主導権を握っていた。
「海を越えて攻め込まれることはないと思ってるのか?海なんて簡単に超えれる。現に俺たちがここにいるだろうーが」
まずはアイヌの危機感をあおり
「他所の島の者たちにカムイを汚されていいのか?」
アイヌの尊厳に寄り添い
「『蝦夷』は俺たちのものだと内地の連中に知らしめてやるんだ!」
そして鼓舞する。
すると
「「「「おおおおお!!!!!」」」
アイヌたちは奮起した。
「だが獣しか相手にしたことないお前たちじゃ侍に勝てない」
ノブナガはさらに続ける。
「お前たちは弱いわけじゃない。むしろ強い。それでも勝てない。戦争の仕方が分かってないからだ」
アイヌは反論の声を上げるが、次のノブナガの一言で気圧される。
「騒ぐな。だから俺が来た」
「「「「「・・・・」」」」」」
「俺ならお前らを勝たせてやれる。未来をやれる。最初から選択肢なんてねーんだ。黙って俺について来い」
結局ノブナガはこんな雑なやり取りでアイヌをというか蝦夷を従える王になって見せた。
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というかNPCがプレーヤーと区別がつかないレベルなんだけど、AIってここまで進化してるんだっけ。
『信長の覇道』の売りの一つはNPCがまるで生きているようだってレビューに上がってたけど。
てかこれってマジで生きてるんじゃないの?
*
「はぁ、アイヌ幼女むず!」
私は三井美知佳、花の女子大生だ。しかも二年で文学部。この世で最も楽とされているポジション。だがどっかの誰かと違いお小遣いが必要なので、ゲーム会社『Akashic』でバイトをしている。
仕事の内容は人気ゲームの一つ『信長の覇道』に出てくるNPCの中の人をやることだ。
『信長の覇道』のNPCはまるで生きた人間のようだと言われているけど、そりゃそうよ。だって普通に生きた人間が中の人やってるんだから。
といってもさすが全部のNPCの中に人間が入ってるわけじゃない。そんなのは無理。
バイトが中に入っているNPCは次の22人。
織田信長、徳川家康、豊臣秀吉、武田信玄、上杉謙信、本願寺法主、延暦寺法主、今川義元、北条氏康、斎藤道三、最上義光、伊達政宗、真田幸村、松永久秀、朝倉義景、浅井長政、三好長慶、足利義昭、毛利元就。そして隠しステージの蝦夷と琉球に一人ずつ。
で、私が担当してるのが蝦夷最重要NPC『ウヌカル』だ。
更にこのバイトはかなり時給が高い。たぶんキャバクラ嬢ぐらいの時給があると思う。やったことないからわからないけど。それに在宅っていうのもありがたい。
ただこのバイトには他の仕事にはない決まりが一つある。
『このゲーム内で死んだと同時にバイトもクビになる』
だから大名たちは大変だろう。でも私の担当するウヌカルは超楽だった。正直あたりだと思った。
だってクラーケンにやられて誰も入ってこれないんだから。
毎日適当にその辺ウロウロしてるだけでお金がもらえるんだからウハウハだった。
でもまあそんなうまい話はないよね。
遂にクラーケンを倒して蝦夷に上陸するプレイヤーが現れたのだ。
まあそこまではいい。いつまでも暇してられるわけじゃないとはさすがの私も思ってたから。
ただ上陸してきたプレイヤーが問題だ。
プレーヤーの名前は『ノブナガ』と『ラン』。
ものすごく聞き覚えがあるんだけど。
私には大学におバカな友達がいる。それの名前が蘭。そしてそのおバカが最近彼氏だとのたまわっているのが、織田信長。
私が蘭から聞かされてた話は全部ゲームのことで、このランは私の友達の蘭本人なんじゃないか。
というかオンラインゲームで出くわすなんて凄い確率だけど、多分間違いない。だってこのランってキャラ凄いバカだもん。蘭と同じぐらい。
つまりあの子の脳内彼氏ってネットで知り合った人ってこと?みっちょんは心配だよ、あんたバカだから。
とりあえずバイトしながらこのノブナガって男のことを観察しなくちゃ。そしてヤバそうな奴だったら蘭と別れさせないと。
でもバイト始めるときに情報漏洩禁止みたいな書類にサインさせられたから、私が『信長の覇道』のNPCの中をやってるってことは言えない。
ということはゲームの中で何とかしなくては。
、、、凄いめんどくさい。たく!もうあのバカ娘は本当に手がかかるんだから。
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