第5話 ノブナガ、海で太巻きを食べる

「はぁはぁはぁ」


「ノブナガ!HPがもう残り少ないじゃん!ここでしばらく休もう!」


「蝦夷には強力な魔物やアイヌの民がいる。とりあえず安全な場所まで行かないと休めないだろ」


「それもそうか。じゃあトリ!もう一働きして!」


『鳥使い荒!』


「もう!ごちゃごちゃ言わないでさっさと行って!」


『うーっす』


私はトリを周辺の探索に向かわせた。


「きゃー!!!」


トリがいなくなってすぐに叫び声が聞こえる。


アイヌの服を着た少女が海辺でカニの魔物に襲われていた。さっきまでいなかったと思うから多分イベント的なやつなんだろう。


「どうする!?ノブナガ」


「今のところアイヌとの繋がりは何もないんだ。助けといた方がいいだろ」


「でも今私トリが行っちゃったから戦力にならないよ」


「あいつ間が悪いな。それともあいつが離れることがこのイベントの発生条件なのか。まあいい。どっちみちあれぐらいなら俺一人で十分だろう」


「おっけー!頑張れ!ノブナガ!」


だがノブナガは結構手こずることになる。ノブナガがかなり消耗していたこともあるが、やっぱり蝦夷の魔物強い。


「はぁはぁはぁ。カニごときがこんなに強いのかよ。やっぱ蝦夷は格が違うな。さすが隠しステージ」


苦戦しながらもノブナガはカニを倒す。そしてそこには女の子が一人だけ残った。


「お兄ちゃん、助けてくれてありがとうなの!」


女の子はノブナガに抱きつく。、、、羨ましい。でもそんなこと言ってる場合じゃない。ノブナガはもう虫の息だ。さっさと回復薬をぶっかけないと。


私は超高級ポーションをノブナガにバシャバシャぶっかけた。


「バカ!かけ過ぎだ!」


「とりあえず野営用のアイテムは結構買って来てるからここで休もう!この中にいれば全回復できるから!」


私はノブナガをテントに突っ込む。ついでに襲われてた女の子も。


「え?私も!?」


「ノブナガが命がけで守ったんだから、あんたも死なせない!」


二人をテントを入れたところでトリが戻ってくる。


『近くにアイヌの集落があるぞ!ん?今どういう状況?』


「はぁ。使えない鳥だな」


何もかも遅い。私は冷めた目でトリを見つめる。


『おい、俺をそんな残念な感じの目で見るな!』


「はぁ。とにかく今は近づいてくる魔物を燃やしてきて。はぁ」


『おい!溜息を連チャンで吐くな!』


「はぁ、いいから行って」


ひとまずノブナガと少女の回復を行い、その間の梅雨払いはトリに任せた。


二人の回復が済んでから、いよいよは私たちはアイヌ民族への接触に試みるのであった。





「とまあこういうところで一旦休憩に入ろ!」


「天下統一に休憩なんかない」


「いやさっき自分でゲームだって言ってたじゃん。ゲームには休憩がありまーす」


「、、、まあそうは言ったが、、、」


「今生きてるのは私のおかげだよ?だからこそ私はここでその見返りを要求する!」


「くっ!何が望みだ?」


「海にいきまーす!」


「はぁ!?」


「海デートだよ、ノブナガ!」


「海なんか行って何が楽しいんだよ。クラーケン出るぞ」


「行ってみたらわかるって!あとクラーケンは出ないから!」


「日焼けしそうだしなぁ、、、」


「なに乙女みたいなこと言いだしてるのさ!ちなみに海に行くと今月の課金額上限を1万円上乗せします」


「うん、行く」


私の一流ネゴシエーション能力で見事海デートが決定した。





ノブナガとの海デート当日


私は寝ていなかった。海に行くためのお弁当を作るためだ。お出かけと言えば定番の太巻き。


そして太巻きには絶対欠かせない影の主役、「椎茸とかんぴょうの煮物」を作っていたのだ。


ノブナガは言っても戦国時代の人間。洋食にかぶれた今の日本人よりも和食に厳しいはず。何と言っても元王様だし。


だからこそこの椎茸とかんぴょうの煮物に手を抜くことはできない。完璧なものを作らねば。ということで結構寝ないで温度調整とかしながら作り上げました。


太巻きを携えて向かったのは「おだいばビーチ」だ!


「これが人工の砂浜か。控えめに言ってすごいな」


「人工とかはテンション下がるから言わないの!」


「いや人工だからこそ価値があるんだろうが」


「そういうもの?」


「自然を人の手で超えていくのが人生の醍醐味だ」


「名言ぽいこと言ってるところ悪いんだけど、今日はここで海水浴をするのだ!」


「泳ぐってことか?」


「いや泳ぎはしない!水を掛け合ったりしながらキャッキャウフフするのさ!」


このタイミングで私はおもむろに着ていたパーカーを脱ぎ捨て、水着姿を披露する。私のナイスバディにノブナガは言葉を失っていることだろう。それはそれは間抜けなスケベ面をしているんだろう。よっしゃ、そんなノブナガの顔を見てやろう!


「・・・」


無!?


「え!?なんで無表情なの!?」


「いや、別に服脱いだだけだろ」


そうだ!こやつは織田信長だった!上等な女を何人もはべらかしていたことだろう。毎日のように女たちにストリップショーをさせていたんだろう。そして「いいではないか、いいではないか」とか言ってたんだろう。つまり水着ごときでは信長のノブナガはもうピクリともしないのだ!くっ、、、もう残された手はひとつか、、、。


「全部脱ぎます」


「はぁ!?お前は何を考えてるんだ警察に捕まるぞ!」


「だってもうこうするしか!」


「いや、なんで苦渋の決断みたいな顔してんだよ。切腹する奴がよくしてた顔だよ、それ」


「くっ!」


「だから脱ごうとするな、バカ!」


「信長はこれがお望みなんでしょ!」


「水着姿も可愛い!ナイスバディだ!」


「、、、マジ!?」


「うん、マジマジ」


「、、、そっかぁ。そっかぁ!もう信長のエッチ~」


「ウザい」


「何か言った?」


「言ってない言ってない。じゃあさっさとキャッキャウフフするぞ!」


「そうだった!存分にキャッキャウフフしてやるぜ!」


「はぁ」


私とノブナガは浜辺で水を掛け合ったり、ビーチボール打ち合ったり、砂で安土城を作ったりした。


「そろそろお腹が空いてきたころじゃないかね。信長君」


「まあ腹は減ったけど、君付けするの止めてくれない。キモいから」


「じゃじゃーん!太巻き巻いてきましたー!」


ここで私渾身の太巻きの登場である。


「なぜに太巻き?」


「どうぞ召し上がれ!!!」


「スルーか。まあいいや、じゃあいただきます」


信長が私の太巻きにむしゃぶりつく。


「もぐもぐ。うん、旨い。というかかなり旨い」


「でしょ!やっぱり海には太巻きだよね」


「いやそれはよくわからんけど」


「こうやって海を見ながら食べる太巻きは格別なのさ!」


「まあいいけど、久しぶりに来たがやはり海はいいな。尾張の海を思い出す」


「でしょう、でしょう!その辺のことも考えて海へやって来たのだ!」


「そうか。ありがとうな、ラン」


「えへへへ」


信長がなにやらノスタルジックな雰囲気の笑みを浮かべている。来てよかった。





「みっちょん、おはよう!」


「おはよう。てかあんたなんかちょっと焼けてない?」


「むふふ。ちょっと彼ピと海まで行って来まして」


「はぁ、まだ治ってないの?今日も帰って寝なさい。代返しといてあげるから」


「え、マジで!?今日も代返してくれるなら助かるよ!なんたって今日はアイヌと交渉する大事な日だからね」


「、、、頭の病気悪化してるじゃない。帰ったら三日ぐらい寝な」


「三日で終わるならいいんだがな。くふふふ」


「マジで帰って寝て。もうキモい通り越して怖いから」


「協力感謝するよ、みっちょん!」


「ああもう何でもいいから、現実に帰って来て。友達として言えるのはもうそれぐらいよ」


「行ってまいる!」


「逝かないで帰って来なさいよ~」


私は盟友みっちょんの熱き義侠の心に後押しされ戦場へと再び帰るのであった。

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