第4話 ノブナガ、蝦夷上陸

蝦夷へは青森の漁師たちから船を借りて渡航する。


「てかノブナガって船運転できるの?」


「習得した。というか航海スキルはすでにマスターレベルに至っている」


「いつの間に!」


「お前が学校に行ってサボっている間にだ」


「だから普通は学校に行かないことをサボりって言うんだよ!」


私たちは漁船に乗り込み、蝦夷への航海を開始する。


ということで周辺に危険なものはないか調べるために今日も私は相棒の火之迦具土神『トリ』を呼び出した。


『うーっす。ご主人』


「うーっす、トリ。今日は周辺の偵察を頼みたいんだ!」


私の式神になってからゲーム内では数日たち、かなり信頼関係も出来てきた気がする。


『はぁ、毎日毎日偵察偵察。たまには偵察以外の仕事ないんすか。正直マンネリっすよ』


いや違ったみたいだ。


まあいいさ。所詮式神。私は出来る女。端っからビジネスライクな付き合いをするつもり。


【トリの集中力が5下がった】


「え!?ちょっと何集中力下がってんのよ!」


『何かあれっすね。ギャラの値上げ要求するっすわ』


「ちっ!わかったわよ。じゃあ今までの『一時間生ごみ一掴み』から『一時間生ごみ一掴み半』でどうよ」


『あざーっす!』


【トリの交渉力が5上がった】


「いいから集中力を上げろ!」


なんとかやる気を取り戻したトリは無数の小さな火の鳥に分裂してあらゆる方向へと飛んでいった。この光景はいつ見てもキモい。分身じゃなく分裂なところが気持ち悪い。家で分裂し終わってから来て欲しい。


この無数のトリたちからの情報はリアルタイムで私の頭にタイムラインで流れてくる。まあグループチャットみたいなもんだね。


一言で言うと超便利ってこと。



「ノブナガ!この先に巨大なタコがいるらしいよ!」


トリから入った連絡をノブナガに伝える。この先には強力な妖怪がいるらしい。


「なるほど。その妖怪が誰も蝦夷に辿り着けない理由か」


隠しステージといってもマップには表れているので、目指したプレイヤーは結構いたみたいだけど、実際に辿り着いたプレイヤーはいないみたいだ。


攻略掲示板に何の情報も上がってなかったから間違いない。


「ラン、いたぞ。多分あれだろ」


「え、どれどれ?」


信長の言った方角を見てみると、ちょうど本州と北海道の中間でその巨大なタコが待ち受けていた。


タコのステータスを見てみる。




クラーケン


レベル 126


称号 海王


固有スキル 威圧 幻術 分裂 水流操作 海域支配 悪食





あれ?これヤバいんじゃね?


しかも物凄くデカいんですけど。このタコ。


「てかなんで戦国時代にクラーケン?」


「ここからは外国だぞっていう運営からのメッセージじゃねーか?」


「北の島だから北欧のモンスターってこと?ざっくりし過ぎじゃない?」


「アイヌの妖怪ってポピュラーなのコロポックルぐらいしかないからな」


「クラーケン、私たちを敵として認識したみたいだよ!」



―威圧―



まずはクラーケンが威圧を発動する。周りの魚たちはそれだけで命を失い、海面にプカプカ浮かびだした。たぶん低レベルのプレーヤーならこれだけでこの魚たちと同じようになるだろう。


60レベル越えのノブナガとトリと契約して強くなった私じゃなきゃもうとっくに終わってる。


ちなみに今の私のステータスはこう!



キャラネーム ラン


契約式神 火之迦具土神


レベル 40+20(火之迦具土神ボーナス)


職業 陰陽師




火之迦具土神の固有スキルによって私のレベルは合計60になっている。火之迦具土神は契約者のレベルを1.5倍にする。


陰陽師の力は自分より契約した式神の強さが重要になる。まさにその通りだね。


「まだまだ来るぞ」


クラーケンは威圧や幻術が私たちに通じないことを悟ると、20以上に分裂し私たちの船を取り囲む。


「これはマジでヤバいって!ノブナガ!」


「はぁ?別にヤバくはねーだろ」


「え!?」


「おい、火之迦具土神。何をボケッとしてる?」


ノブナガがトリを睨みつける。


『え!?し、指示がなかったので』


「指示がなきゃ動けねーのか!」


『勘弁してくださいよ!自分式神っすよ!?』


「ちっ!光秀系かよ」


『ちょっと待ってください。そのミツヒデとかいうのが何かはわからないっすけど、かなりの悪口に聞こえたっす!」


「サル以下って意味だ」


『猿以下!?それだけは!』


「じゃあとっととやれ」


『もちろんですよ!俺は獄炎鳥、火之迦具土神っす!』



―炎獄殺―



トリは空から黒炎の雨を降らせ分裂したクラーケンたちを片っ端から焼いていく。


トリが降らしたのは火の粉のようなものだが、一度でも触れれば焼き尽くすまで消えることはない。それが獄炎、黒き炎だ。


しかしどれだけ焼いてもクラーケンの分裂体は次々溢れてくる。


「ちょっとノブナガ!全然減らないよ!このタコ!」


「本体がいる限り増えていくんだろう」


「じゃあ本体はどこ!?」


「兵を無限に出せるなら、将は戦いとは離れたところでふんぞり返っているはずだ」


「だからそれはどこ!?」


「タコなんだろ?それなら一番安全なのは、、、」


ノブナガが下を指さす。


「海底だ」


「マジ!?」


ノブナガの言った通り海底に魔物の反応がある。でもすごく小さなものだ。この私でもよおーく探らないとわからない。


「分裂は分身とは違う。出せば出すほど本体は弱っていくんだろうよ」


「でもどうすんの!?逆に気配が小さすぎて正確な位置がつかめないよ!」


「大体でいい。どうせ辺り一面吹き飛ばすんだから」


「へ?」


―魚雷―


ノブナガはアイテムボックスから巨大なミサイルを取り出し、海中に投げ込む。


「ええ!?なんてもの持ってんの!?」


「作ったんだよ」


「マジか。てかそんな重たいものアイテムボックスに入れてるから消耗品系は全部私に持たせてるんだ!」


「アイテムボックスには重量制限あるからな」


「そうだったんだ。てっきり亭主関白発動してるのかと思ったよ。関白秀吉かよって思っちゃったよ」


「なんだそりゃ。口を閉じてろ。舌噛むぞ」


「へ?」



ドゴーン!



このゲームには戦闘面においてのメイン職業とは別に生産面においてのサブ職業がある。


ノブナガのサブ職業は『鍛冶師』。


武器や兵器を作る職業だ。


実はノブナガ、メインの職業である『傾奇者』よりも『鍛冶師』のレベル上げの方に力をさいていた。


サブ職業のレベル上限は99。だが特殊なクエストをこなせば上限突破のレベル100まで上げることが出来る。サブ職業のレベルを100まで上げたものは『極めし者』の称号を得る。ちなみにレベル100になれるのは各サブ職業ごとにゲーム内で1人づつ。つまり早い者勝ちだね。だからノブナガはメイン職業よりもサブ職業のレベルを上げることを優先した。


鍛冶師を極めし者の固有スキルは『兵器創造』。


要するに自分のオリジナル武器や兵器を作れるのだ。本来の鍛冶師はレシピを手に入れて作るのだが、極めし者はレシピ作成を行える。


だからたぶんそれで作ったんだと思う。この『魚雷』。


でも一からレシピを作るため、本人が作り方を分かっていなくてはいけないのだ。だから『兵器創造』はそんなに強力なスキルだとは思われていない。


でも今信長は『魚雷』を作ってみせた。


てことは信長、魚雷の作り方覚えたの?マジ?


それにしたって戦国時代に魚雷って。チートどころか空気読めてない感じがするけど、、、まあいいか。


これぞノブナガ。第六天魔王なのである。


まあそんなこんなでクラーケンを滅した私たちは、、、木片にしがみつきながら海を漂っていた。


「ちょっとノブナガ!クラーケンを倒したのはいいけど、一緒に私たちの船も吹き飛んじゃったじゃないか!」


「まあ半分以上は進めたんだから十分だろう」


「いや、今この時点でも徐々にHP減ってるんだけど!このまま泳いで蝦夷まで行くとしたら着く前にHPが尽きるよ!」


「俺のHPは若干持ちそうだが?」


「ちょっ、なに言ってんの!?2人そろってノブズじゃん!」


「ノブズってなんだよ」


「今ひらめいた私たちのコンビ名!」


「そんなものひらめくな。というかランはトリがいるから大丈夫だろう。さっさとトリに引き上げてもらえ」


「あ、そう言えばそうか」


『ちょっと旦那!俺も結構疲れてるんっすけど!ご主人を抱えて飛ぶのは結構しんどいっすよ』


トリは私の肩に留まって休んでいる。


「そうか。疲れるだけで済む命令を断って痛みの罰を望むのか」


ノブナガがトリを睨みつける。


『自分疲れるの大好きでーす!』


トリは私を連れて再び飛び上がっていく。


「トリの癖にノブノブにたてつくなんて100年早いのよ!ふふん!」


『俺もう千年近く生きてるんだけど』


トリはぶつくさ言いながらも私を抱えて空を飛んでくれた。まあ終始海からノブナガに睨まれていてビクついていたけど。


そして遂に私たちは蝦夷上陸に成功。やったね!疲れたね!

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