第2話 ノブナガはアイヌを支配するそうです

私の矢が射抜いたのは北海道、函館辺り。


「あれ戦国時代って蝦夷とかはまだ登場してないんじゃなかったっけ?じゃあ投げ直しだね」


「いや、いい。実は『信長の覇道オンライン』には隠しステージとして蝦夷と琉球が解禁されてるらしい」


「マジで?でも隠しステージってことは行くのも難しいんじゃないの?やっぱり投げ直した方が、、、」


「放たれた矢が再び手に戻ってくることはない。お、この言葉何となくカッコいいな。特に意味はねぇけど。とにかく面白くなってきた。さすがだラン!期待通り!」


ん?信長テンション上がってる?


「そうなの?投げ直さなくていいの?」


「もちろんだ!これでいい。北の島からの天下統一か。おもしろくなってきやがった!はははは!」


ノブナガは楽しそうに笑っていた。


「そ、そうだね!はははは!」


よくわかんないけど、信長笑ってるし、笑っとけ笑っとけ!


「では目指すは北ということだな!」


ということなので私と信長は蝦夷の大地を目指すことになったのだ。





再びゲーム内


「でもそもそも蝦夷までどうやって行くの?」


「普通に本州の最北まで行ってそこからは船だろうな。とりあえず行ってみてその辺の漁師辺りから情報を得るぞ」


「結構大変になっちゃったね」


「なに言ってんだ。俄然燃える展開だろう。蝦夷には先住民のアイヌがいる。生粋の狩猟民族だと聞いている。これを戦争に使えたらどれぐらいの力を発揮するか。考えただけでワクワクする」


「でもアイヌって日本に占領されたよね?」


「狩人が兵士になれていなかったからだ。俺なら連中を兵隊に出来る」


「それって結構えぐいことだと思うんだけど」


「俺は戦国じゃあ、民に鉄砲を持たせて一日で兵に変えた。慣れたものだ。だが前よりも難しいかもな。言葉も通じないし、思想も違う。そんな民たちをどうやって戦争に駆り出すか。餌がいる。怒りがいる。誇りがいる。危機感がいる。問題が山済みだ。だがせっかくなんだから前より難易度が高くないとつまらん」


「確かに難易度高い方が面白いかもね!ゲームだし!まあ私は、最初から最強!!!みたいな裏技使って楽に全クリする派だけど」


こうして私たちは一路北へと向かうのであった。


結構急ぐのかと思ったけど、ノブナガはゆっくりと進んだ。東北の国々、集落にしばらく滞在しながら色々試しているようだった。


「なんかゲームの中で東北旅行してるみたい。楽しいね、ノブナガ!」


「蝦夷をまとめたらこの辺は攻め落として俺の国になるんだ。よく知っておかないとな」


「あ、なるほどね。もちろんわかってたよ。ゆっくり進んできたから各土地の気候や地形、住民たちの雰囲気も結構わかってきたもんね。ふふん!私もよくわかってるでしょ?」


「かなり厳しい環境だな。とにかく寒い。冬のために蓄えておかなくてはいけないから、年がら年中節約生活だ。民の裕福度と生存率が他の土地に比べて低い。これじゃあ強い兵が育たないな。それに冬に戦が出来ないのも厳しい。これじゃあ天下統一は夢のまた夢だ。だがここを拠点に出来るということはゲーム的に何か攻略法があるんだろう」


「なんかすごいアイテムがあるとかかな」


私はスルーされてもへこたれないのだ。そういう強い女なのだ。ぐすん。


「あとはアイヌたちが冬でも戦える固有スキルを持っているかだな」


「それもありそうだね。でもアイヌを味方につけるのが一番面倒そうだけど」


「蝦夷に入ったことがあるプレイヤーが掲示板に書き込んでいたが、基本アイヌの平均レベルは80、蝦夷の獣たちも平均60らしい」


「80!?初期レベルでってこと!?しかも獣で60!?本州の獣なんて強くて40ぐらいだよ!」


「過酷な土地なんだろう。隠しステージだけあってな。だから今の俺たちのレベルで蝦夷に入れば、まとめるどころか瞬殺される」


「私なんて瞬瞬殺だよ!やられたことにも気づけないよ!」


「だからこの辺で獣や野武士を狩りながらレベル上げをしないと、そもそも蝦夷に辿り着いてもどうしようもないんだよ」


「マジかよー!隠しステージえぐ!」


「お前はレベル上げを怠り過ぎだ。学校辞めろ」


「いや、ゲームのために学校辞めるとかさすがの過保護両親も若干怒るから」


「若干ならいいだろ」


「若干舐めないでよ!生まれてこの方一度も怒られたことがない私にとっては大問題だから!」


そんな感じで私たちは東北でしばらくレベル上げに徹することとなった。そう、私がゲームで一番嫌いな時間だ。


しばらく私たちは東北地方を回りレベル上げを続けた。そして遂に私が音を上げるのであった。


「ノーブーナーガ―!レベル上げ怠いよー。私にも楽なレベル上げの仕方考えてよー」


「自分で考えろよ」


「むーりー。おねがいだよ、ノブえもん」


「ていうかお前陰陽師だろ。強力な式神を使役できればかなり楽にレベル上げ出来るんじゃないのか?」


「ははは!そんなことはわかっているっての。だからその強力な式神を使役する手伝いをしてくれってことさ。ブラザー」


「その話し方イラっとするな」


「それで協力してくれるのかい?相棒」


「わかった。手伝ってやるからそのしゃべり方を今すぐやめろ」


「まったく。兄弟は短気で困るぜ。まるでケツに火のついたカウボーイみたいだぜ」


「どんな状況だよ、そのカウボーイ。あと俺の呼び方統一してくれない?」


私の巧みな交渉が功をそうし、一旦レベル上げを中断し私とノブナガは強力な式神を使役するために旅に出る。


場所は恐山。狙う式神は『火之迦具土神』。


炎系最強の式神である。


全てを焼き尽くすエグイ式神。チート級のめちゃヤバいやつ、


「本当に『火之迦具土神』なんて調伏出来るの?」


「真っ当に戦えば無理だろうな」


「じゃあー


「策はある」


「そっか、ノブナガに策があるんなら何の心配もいらないね」


「わかってるじゃないか」


「なんたって私はノブナガ推しだからね!」


「はいはい」


ノブナガは私の求愛に対して未だに恥ずかしそうにしている。歳の差とかそういうめんどくさいことを考えているんでしょう。可愛い奴。


「ノブナガは私がいないとダメなんだから」


「お前って何かよくわかんないけど、、、うん、突っ走ってる感はあるよな」


「ふふふ、私に置いて行かれないでよ!」


「そういう意味じゃねーよ。全く」


ふふふ、ノブナガったら照れてやがるよ。ふふふ。ふはははは!


「とにかく恐山を攻略するぞ。火之迦具土神を調伏するのはその後だ」


「わかってるっての!」


恐山は日ノ本でトップスリーに入るぐらいの難関ダンジョンだ。そしてその恐山のボスとして君臨しているのが火之迦具土神。くっくっく、腕が鳴るぜ!


「おい、お前!」


「ごめんなさい。腕なんて鳴ってないです。うんともすんとも言ってません。どうしたらいいんですか?」


「初めからからそう言え、バカが」


「てかなんで心読めんのさ!」





恐山とは麓から山頂へと昇るダンジョンだ。その山頂に火之迦具土神が君臨している。ダンジョン内には強力な炎系モンスターが溢れかえっている。とても私たちのレベルで勝てるモンスターじゃない。


だからノブナガの作戦はこうだ。


攻略なんかしない。


山頂に登るんじゃない。山頂に降りるのだ。




―5時間前


「ノブノブ!さすがに恐山を攻略するのは今の私たちのレベルじゃ無理じゃない!?」


「ああ、無理だな」


「じゃあどうすんのさ!」


「ダンジョン攻略はしない。火之迦具土神の首だけを獲るんだよ」


そう言ってノブノブはなんか悪い顔をしていた。


、、、マジカッコいい。


「作戦おせーて、おせーて!」


「いや、そりゃ教えるけど、そのノブノブって呼び方だけ止めてくんない?シンプルにすんごい嫌」


「もう!ノブノブったら!」


ノブノブは恥ずかしがり屋だ。きっと戦国時代の人はこんな感じなんだろう。私が徐々にこの時代に馴染ませていかないと。


「まあお前が今かなり的外れなことを考えてるのは何となくわかる」


「ん?」


「ただお前相手に何か言っても意味がないことはもうわかっている。簡潔に作戦を説明する。『飛ぶ』『降りる』『斬る』だ」


「どういうこと?」


「説明してる暇はないな。そろそろだ」


「え、なに?」


次の瞬間私たちが立っていた地面が爆発する。


「しっかり掴まっとけよ」


「え、だからなに!?」


こうして私たちは上空に飛ばされた。





「ぎゃー!なにこれ!なにこれ!そんでもってあっつー!そして凄いスピードでHP減ってってんだけど!」


「間欠泉だ。これに乗っかるためにここで待ってた。まあ普通に熱で死ぬから回復薬を飲んどけ」


「飲む飲む!飲むに決まってんじゃん!でもこれだけじゃあ」


「ああ、恐山の上まではいけないな。だが俺の『風陣』を3回使って上昇気流を起こせば、この勢いでもっと高く飛べる」



―風陣×3―



風陣はノブナガの支援魔法の一つ。強力な上昇気流を起こして味方の動きをサポートしたり敵の動きを邪魔したりする。


冷静に解説してみたけど、3連で使うなんて聞いたことない。


つまり、、、


「ぎゃあーーーー!高い高い!死ぬ―!」


「ほら見ろ。恐山山頂が下に見えるだろ」


ノブナガの言葉を聞いて目を開くと真下に恐山が見えた。


「いやそりゃ見えるけどやばいやばい!こんな高いところから落ちたら死ぬって!」


飛ぶだけ飛んだ私たちは一気に急降下を始める。


「だから無駄に高い『身代わり人形』をもたせたんだろーが」


死に向かって絶賛急降下中にノブナガがしれっと答えた。


「え!?これってもしもの時のためじゃなくて使う前提で渡されてたの!?」


「当たり前だろ。なんで使うかどうかわからないもののために大金を払うんだよ」


「私を心配してだと思ったんだよー!」


「ゲームでそんなこと考えてもしょうがないだろ」


「いつもは現実張りに本気なくせに、いきなりゲームだとか言うの止めてくれない!?どっちのノリでいけばいいのかわからなくなるから!」


「はぁ!?本気のゲームだから楽しいんじゃねーか。特に天下取りは」


「ああ、きたよ!急に来るこのノブナガイズム!」


「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと死ね。その後ボス戦だ」


「人生のパートナーに絶対に行っちゃいけないセリフだよ!それ!じゃあ式神仲間に出来たら私の言うこと一つ聞いてよね!」


「、、、まあいいか。言うことを聞いてやるからさっさと死ね」


「言い方!!!」





一瞬死んで降り立った恐山の山頂には黒い炎を纏っている鳥が一匹いた。


『なんすか?』


物凄く巨大で、一度触れてしまえば消えることはない黒炎を纏った鳥が羽ばたいておった。


『マジかよ。普通ここまでくる?怠いわ~』


「ノブナガ~。『火之迦具土神』がちょっとイメージと違うんだけど~」


「、、、大体こういうのはイメージと違うもんだ」


「マジ!?じゃあ私はこの若干イラっとする鳥と契約を結ばないといけないの?」


「しゃーないだろ。というかどうせ鳥なんだ。基本的にイラつくだろ」


「ホトトギス殺す派の人だもんね」


『なに勝手に俺を使役する流れになってんの?笑えるんだけど』


「殺してしまおう。火之迦具土神」


「殺したらダメなんじゃね?式神にするんだから・・・」


『いいからさっさとかかって来いよ』


「焼き鳥の癖に生意気な」


そこからのノブナガはえぐかった。


敵の特化した部分にバフをかけまくって制御できないほどに特化させ、ステータス的に最も低い部分にデバフをかけ続けてその数値をゼロにする。


制御できない力は自らに牙をむくし、さらに一つでもステータスがゼロになれば生き物としておかしくなる。


つまり火之迦具土神は自分の炎で焼かれ、さらにLUKの数値がゼロにされてしまったので何をやってもうまくいかない。そしてそんな悲惨な火之迦具土神に追い打ちをかけるようにマウント状態でタコ殴りにしているノブナガ。


うん、えぐい。


『ちょ、もうギブギブ!』


「まだ言葉遣いが悪いな」


『もう配下になるんで勘弁してくださいよ!はい、調伏された。されましたー!!!』


火之迦具土神は両腕を上げて降伏の意思を示す。だがうちのノブナガさんはそんなことでは折れやしない。え、折れやしないの?マジかよ。


「おい、クソカラス。契約ごときじゃダメなんだよ。お前は俺に絶対逆らえなくなるまで徹底的に躾けてやる。所詮生き物を縛るのは絶対的な契約でも強く結んだ絆でもない。恐怖だ。体に染みついた恐怖。足が震え、一瞬で全身が冷え切り、言葉を話すことも出来なくなるぐらいに刷り込んだ恐怖だ。さあ始めよう。そのための作業をこれから始める」


『え?ちょっと旦那?俺もう降参してるんですけど?』


「どう考えてもお前の方がランより強い。かなり。相当。だからそんなクソ弱いランの配下にさせるためには、俺がお前を調伏の向こう側まで行くしかない。そしてポーンとランに渡す」


『えぇ!?ちょっと言ってること意味わかんない』


「意味が分かる必要なんてないんだよ」


『うそ!マジ!?ぎゃあああああ!!!!』


そこから火之迦具土神は私でも時折目を瞑るレベルの責め苦を受ける。


「はははは!もっと鳴いて見せろ!ホトトギス!」


『いや、自分カラスよりっす!』


「口答えしてんじゃねぇ!」


『すんませーん!』


そんな感じでまあ火之迦具土神はノブナガにボコボコにされ続けた。


「はぁ、はぁ。で、どうするお前」


『、、、従います』


「ああん?」


『ちゅ、忠誠を誓います!』


「それでいい。だが俺は陰陽師じゃない。お前はランの式神になれ」


『・・・』


火之迦具土神が私をめっちゃ見てる。


『マジすか?』


「ああん!?文句でもあんのか!?」


『いや、一切ないっす!』


こうして火之迦具土神が私の式神になった。私何もしてないけど。


・・・まあいっか。


と、こんな感じで私めちゃめちゃ強くなりました。

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