信長の覇道Online~現代にタイムスリップしてきたノブナガはどうしても天下統一っぽいことがしたくてVRゲーム廃人になる~
目目ミミ 手手
第1話 ノブナガ、タイムスリップ
私の名前は大森蘭。花の女子大生。しかも二年で文学部。この世で最も楽とされているポジションだ。
今日も仕送り片手にショッピングにしゃれ込もうと思っていた。なのに、、、。
え?なんで?何で渋谷に織田信長倒れてんの?
いや、待って。まだ織田信長と断定するのは早いわよね。髪はロン毛、着物は本能寺帰りっぽく燃えてる。あと単純にかっこいい。
「人間~五十年~」
うわなんかうわ言で信長っぽいこと言ってる。
「あの~、すいません。こんなところで寝てると警察呼ばれちゃいますよ~。ねぇねぇ!」
「ん!?ここはどこだ!桶狭間か!」
「桶狭間なわけねーだろ!渋谷ですよ~」
「娘!それはどこだ?」
「私の勘が正しければあなたが生きていた時代から500年後ぐらいの日本ですね」
信長っぽい人は辺りを見回す。さすがにここまでガラッと変わった世界を見たら簡単に納得なんてー
「で、あるか」
マジかよ!すげーよ!さすが織田信長だよ!頭柔らかいってもんじゃねーよ!何も考えてねーんじゃねーのかとさえ思うわ!
「あの、本当に理解したんですか?」
「要するに俺は死の間際、本能寺からなんらかの力によってこの500年後の世界に飛ばされたと。その間おそらく日本は海の外にあるはずの多くの国と交流し、大戦も経てここまで文明を作り上げたということなんだろう」
マジかよ。織田完全理解だよ。何なら大まかな歴史も予測で当てたよ。
「あの一応お名前聞いてもいいですかね?」
「俺?俺は織田信長だ」
「でしょうね!信長感半端ないっすもん!」
「知っているなら話が早い。俺もこの世界のことが分かっていない。あの辺で話を聞かせろ!」
面白そうだからいいんだけど、信長、指さした先スタバ!信長、現代に来て最初に入る店スタバ!
とりあえず信長とコーヒーを飲みながら世界の歴史とか今の常識とかを教えた。
「で、あるか」
ざっと説明が終わったころ外はもう暗くなっていた。私もテンション高く話し続けたため喉は枯れていた。喉を潤すために飲んだコーヒーもやはりすでに冷めていた。
「それでラン。俺をお前の家に泊めることは可能か?」
「いいですよ!」
「そんなに即決して大丈夫なのか?」
「はい、何ならずっといてください!部屋も広いし仕送りもたんまりあるんで!」
そう、何を隠そう私の家は金持ちだ。おっさん一人養うぐらいなんてことない。おっさん一人養いながら毎食寿司を食えるぐらいの金持ちだ。
そして織田信長が好きなのだ。ファンといってもいい。正直歴史には詳しくないが、漫画とかテレビとか色んな所で出てくる信長が全部好きなのだ。
更にダメ押しでおじさんがタイプなのだ。
つまり今のこの状況はまさに夢のような状態。信長なんてレアキャラ他のやつに渡してなるものか!このオッサンは私が育てるんだ!
*
信長と共同生活をするにあたり観察日記でもつけようかなと思う。ちょっと乙女チックかしら。
共同生活1日目
信長の理解が早すぎてヤバい。全然カルチャーショック受けない。すぐ『で、あるか』って言う。
共同生活2日目
信長がそわそわしだす。
共同生活3日目
信長が過呼吸になって倒れる。
「おーい!信長ー!どしたの!?ねえ!救急車呼ぶ!?」
「はぁはぁはぁ、悪い、発作だ」
「信長病気なのかよー!3日目でもう逝くなよー!」
この三日間の信長との思い出が走馬灯の様に頭に流れてきて涙が止まらない。走馬灯すぐ終わるから何度もリピート再生する。
「病気ではない。いや病気なのかもしれない」
信長が自町気味に笑う。まだ余裕あんな、こいつ。
「どうしたら治るの!?」
「、、、されてくれ」
「なに!?もっと大きい声で行ってくれないとわからないよ!」
「だから天下統一させてくれ!」
「え?」
「俺は天下統一っぽいことをしていないと精神的に不安定になるんだ!」
「はぁ!?」
「本当に天下統一しなくてもいいの!なんか天下統一っぽいこと、天下統一感があれば大丈夫だから!お願い!俺に天下統一っぽいことをさせてくれぇ!ぐはっ!」
「いや、でも信長今の現代って―
「わかってる。もう天下統一なんてダサいって感じだろう?オワコンなんだろう?だから本当の天下統一じゃなくていい!っぽいなにかを!っぽいなにかをさせてくれぇ!」
信長の目は本気だ。血走っている。瞳孔も開いている。呼吸も荒い。汗もすんごい。死にそうな顔で私にしがみついてくる。
一度育てると決めた以上、ここで投げだすわけにはいかない!何かないのか!天下統一っぽいもの!さがしだせ!天下統一っぽいものを!
「はっ!あれならもしかして!」
*
「信長おはよー。あれ今日も徹夜?」
あの信長発作事件から数カ月がたった。
「ああ。天下統一ってめっちゃ忙しいから。ブラック企業だから。あ、そうだ。昨日の夜中にコンビニでパン買って来たから食ってっていいぞ」
信長の順応性は半端なかった。すっかり現代に馴染んだ。むしろもうベテラン感さえある。
「さっすが信長!気が利くー!今なら秀吉より利くんじゃない?」
「はっはっは!俺が本気を出せばサルごとき足元にも及ばんわ!」
「「わーはっはっは!!!」」
「じゃあ行ってきまーす」
あの時私の機転で瀕死の信長を救ったのはVRMMORPG『信長の覇道Online』である。
今では信長は起きている時間の全てを『信長の覇道Online』の中で過ごす廃VRゲーマーとなっていった。
だけどノブナガの目は一般的な廃ゲーマーのそれとは違った。獰猛に光る天下取りの目だ。まあゲームなんだけどね。
そしてそれが逆に痺れるんだけれども。
「あ、みっちょん!おはよー」
「おはよ!ラン」
この子はみっちょん。大学での私の友達だ。友達はあと二人ぐらいいる。もちろんみっちょんだけではない!絶対にあと二人ぐらいいる。はず!連絡先とか知ってるのはみっちょん以外いないけど。
・・・
そんなの戦国時代では当たり前じゃい!!!
「あんたさっきから何一人で変な顔してるの?」
「失礼な!私は変な顔なんかしてないやい!」
「まあいいや。元々変な顔だもんね」
「なにおおおお!!!!」
「ほら、これノートのコピー。あんた最近あんまり来てなかったでしょ。テストもうすぐだよ?」
「み、み、み、み、み、みっちょ」
「いらないの?」
「いります!この御恩は一生忘れないっす!あざーっす!」
「わかればいいのよ」
みっちょんはしっかり者で、テスト前はノートをコピーさせてくれたり、テスト中は私のカンニングに協力してくれたりする親友、いや心の友だ。
「てか最近ラン活き活きしてるわね。なにかあったの?」
「よくぞ聞いてくれました!!!みっちょん、やっぱり人って人からパワーを貰うんだよ。それも天下人ならなおさらさ!くっくっくっく」
「え?全然意味わかんないんだけど」
「くっくっくっく」
「、、、まあいいや。わかんなくても」
「くっくっくっく」
「もう教室つくからそのキモい笑い方やめて」
「くん」
「うんね」
みっちょんと一緒に授業を受ける。というか私が取っている授業は全部みっちょんと同じだ。これでテストとか代返とかは完璧。私は100%みっちょんの力でこの大学を卒業するつもりなのだ。くっくっく。
「あんた、なんかまた失礼なこと考えてるわね」
、、、くっくっく。
今日の授業も終わった。みっちょんはこのあとバイトがあるらしい。しっかり者だけあってバイトをしている。
「じゃあまた明日ね。気を付けて帰りなさいよ!」
「みっちょんも今のバイトより稼ぎたいとか欲を出して風俗へ転職しないようにね!」
「するわけないでしょ!」
「でも風俗って給料がかなりいいらしいからさ」
「はぁ、そこまでお金に困ってないわよ」
「ならよし!じゃあまた明日!」
みっちょんの呆れ顔を最後にみて下校する。これが私のルーティンだ。
だが帰宅後のルーティンんは1か月前からがらりと変わった。
「ただいまー!お、いい匂い!今日はラーメンかな」
「いや、おでんだ」
まずご飯。今まではコンビニで買うか、出前頼んでたけど、信長が来てからというもの料理は信長が作ってくれている。
私は3日に一度スーパーで食材を買いこんでくるだけ。
さらに信長は料理だけではなく、家事全般もやってくれている。家事は初めてやると言ってたけど、2回目ぐらいからは昭和のおばあちゃん張りの家事スキルになっていた。
天下を取ろうとする男はやはり違う。
「で、今どんな感じ?」
「とりあえずレベルはそこそこになった。これからどこかの勢力を乗っ取ろうと思ってる。ほら、ランもさっさとログインしろ」
「おっけー!」
もちろん私もプレイしている。こんな面白いことに参加しない手はない。
目の前で信長が天下を取るところを見られるなんて、、、。
ビートルズのライブの最前線、いやジョンレノンの真横でガン見、いやいやそれ以上のプレミアチケットだよ!
ちなみに今の私たちのステータスはこんな感じ。
キャラネーム ラン
レベル 34
職業 陰陽師
キャラネーム ノブナガ
レベル 62
職業 傾奇者
ちなみに私のキャラは現実と同じ美少女、ノブナガのキャラはちょうど天下取りを始めたころの自分の姿らしい。つまりお似合いの二人である。どう見ても夫婦。夫婦以外の何者でもない!
「てかよく見たらノブナガもうレベル60超えてんの?やば!えぐ!キモ!」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「いや褒め言葉として受け取らないで!案外ガチで引いてるから!」
信長の職業『傾奇者』は、妖術を用いて味方のバフ、敵のデバフを行う。だが妖力以外のステータスは全職業中最弱のため、単体での戦闘には向かない職業である。
その反面軍隊の指揮をとる時に便利なスキルを多く持つ職業だ。
だがやはり一人ではレベル上げもままならないため、この職業を選ぶプレイヤーは少ない。
だから一人で、更にこの短期間で、ここまでレベルを上げるのは普通は不可能。でもそれをやってのけるのが織田信長なんだな~。やっぱこのオッサン、ゲームの中でも規格外らしい。
傾奇者の最大の弱点は一番の魅力であるバフ、デバフを自分にはかけることができないことだ。その弱点を信長はあっさりと解決した。
信長はまず敵にバフをかけまくる。最初にみた時は何をトチ狂ったことをやってるんだろうと思った。人間五十年でボケが始まるのかと思ったよ。
でも行き過ぎた強化は自分に牙をむく。
信長は大量のモンスターが集まり、しかしそのモンスターからの攻撃は届かず、更に自分のスキルの範囲内になるスポットを探した。
そして高みの見物をしながら過剰にバフをかけ続けた。
デバフでは殺せない。デバフの最終地点は身動きをとれなくすることだから。
だがバフの最終地点は死だ。強化されすぎた力に体が耐えられなくて死ぬか、自分の動きに対応できずその辺の壁にぶつかって死ぬか、急激に強化されたことにより狂暴性が増し互いに殺し合いを始めて死ぬか、命を燃やし過ぎてあっという間に寿命が尽きて死ぬか。
その他諸々。
という訳で信長は安全な場所で寝っ転がりながら敵にバフをかけ続けるだけで、戦闘は一切せずにレベルを上げたのだ。妖力回復アイテムをポリポリ食べながら。
「ねえ、信長。なんかズルくない」
「ゲームのルール内なんだからズルにはならないだろ。苦労して強くなるのと楽して強くなれるのなら迷わず後者を選ぶだろうが。それに『傾奇者』はレベル60台になってやっと普通の戦闘ができる程度のステータスになる。それまでは誰かとパーティーを組んでレベル上げをしなくちゃだめなんだぞ」
「だから私もゲーム始めたんじゃん」
「ふん!1日の半分も学校に行ってる怠け者が!天下取り舐めんなよ!」
「いや、逆だから。現代社会ではその見解真逆だから」
なんてやり取りもあって、私のキャラと信長のキャラにレベル的格差が生まれた。
*
ある程度までプレイしたところで、一旦私たちは現実世界に戻って来た。
大事なことを話し合わなくてはいけないからだ。
「それでノブナガ。いったいどこの勢力に入るの?」
レベル50を超えるとどこかの国に仕官することができる。そしてその国で出世して、下剋上とかもやりまくって大名になり、天下統一を目指すのだ。
まずはその土地の支配者にならなければ天下統一なんて夢のまた夢。やり方は人それぞれ。お館様を暗殺したり、政略的にお館様から実権を簒奪したり、その他諸々。
とにかくこの国決めは大事なのだ。弱小国なら実権を握るまでは楽だがその後の天下取りで苦労する。逆に大国であるなら実権を握るまでは苦労するがその後の天下取りでは他をリードできる。
さあ第六天魔王織田信長は一体どこを選ぶのか!
「ダーツで決めよう」
「はぁ?」
なに言ってんだ、こいつ。
「こういうのは運に任せた方が面白いからな。じゃあラン投げろ!」
そう言うとノブナガは日本地図を壁に貼り、ダーツ矢を渡してきた。なんか楽しそうだ。というか地図とかダーツ矢とか自分で用意したんだ。
「私が投げていいの?」
「お前の方がおもしろい場所を引きそうだからな。俺だと運もめちゃめちゃいいから超有利なとこ引きそう。それじゃ面白くない」
「え、織田軍からやり直したいとかないの?」
「はぁ!?せっかく二回目の天下取りなのになんでまた同じキャラ選ばなきゃいけねーんだよ」
「そうんなもんかねぇ~」
「いいからさっさと投げろ!とんでもねえとこ期待してるぜ!」
「ダーツなんてやったことないんだから期待されても困るよ!」
「大丈夫だ。俺はお前のダーツの腕に期待してるんじゃない。お前の運のなさに期待してるんだ」
「ムカッ!そこまで言うならもうどうとでもなれぇ!!!」
これから始まる天下取りの命運を左右する一投が放たれる。私から。
ドス!
「ん?」
「え?」
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